第12話

自傷行為
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2024/12/26 02:41 更新
[ランダル]

 腕に走る無数の赤い線。長さも太さもバラバラ。それをランダルは興味津々に観察していた。どちらかというと、こういうことに理解がある(方だと勝手に思っている)彼にバレたのは、さほど不都合ではなかった。
「これ、ジショーコウイってやつでしょ?漫画で見たよ」
何の気もなく言われた言葉に、心臓がどきりと反応する。次に続く言葉が怖くなり、きゅっと目を閉じる。が、私の思っていた展開とは違った。
「さすが私のあなた!君って結構…なんていうか、踏み込む感じなんだね…」
恍惚とした表情でそう言っては、私を強く抱きしめたランダル。頭の中はハテナでいっぱいだったが、切りつけたせいかひどく疲れてしまい、ランダルに体を預けて、彼の言葉を静かに聞いた。

「私は良いと思うけどね。だって乗り越えるためにしたことなんでしょ?君を否定しないよ。…でも、このためだけに君の血をたくさん出してほしくは無いかな」

いつもより、ずっとずっと優しくて、聞いたことが無いほど穏やかな声で、私にそう言った。



[ルーサー]

 「あなた。今夜私の部屋に来なさい」
そう言われた時、心臓が止まりかけた。私は一体何をやらかしたというの。夕食後に言われたもので、さっき食べたものが全部出てきそうになった。ニェンは私を揶揄っている。セバスチャンのあの哀れみの目と言ったら何の。

そうして、寝る前の時間になって、重すぎる腰を上げてルーサーの部屋へ向かった。
ノックをすると、中から「どうぞ」と聞こえたので、「失礼します……」と消えそうな声で呟いて入った。
「あなた。突然で悪いが、私に何か隠していることはない?」
「えっ」と喉が詰まった。必死に記憶を呼び戻し、ここ最近の出来事を確認する。………いや、ない。何もない。思い浮かばない。しどろもどろになりながら、なんとか言葉を出そうとすると、ルーサーはそっと私の足を触れた。

「特にここのこととかね」
もしかして…と思った。そう、ルーサーが指摘した足。これには、私が最近切り付けた傷たちが刻まれている。でも、バレないようにしていたというのに、一体どこから情報が漏れた?と焦りが脳に広がる。

「…1人で抱え込ませてしまったようだね。すまない。だから聞かせて欲しい。あなたが思っていることを。手当をしてから、私とお話ししてくれるかい?」

手当の後、私のリクエストの温かい紅茶とクッキーを持って私の隣に腰掛けた。

朝日が昇るまで、付き合ってもらった。





[ニョン]

あなたさんは半泣きで私が掴んだ手を振り払おうとしてる。体格差、力の圧倒的な違いがあるから、いくら彼女が暴れたところで主導権は私にある現状は覆せない。
「マスターに相談しましょう。こんなに切ってまで………」

なんとか説得しようとするが、断固拒否を続ける彼女。長いこと口論のようなものをすると、あなたさんが自傷行為をしたのは私が頼りないからなのではないかと言う不安が押し寄せる。
「私が頼りなかったですか?」
気付けばそう口にしていた。でも意外にも、あなたさんはすぐにそれを否定した。「これは誰も悪くないんだ」と。

「じゃあ………だ、誰も悪くないなら……どうして、誰にも相談しなかったんですか……!!」
自分でもびっくりするほど、大きな声が出てしまった。あなたさんは私よりもっと驚いて、さっきまでずっと抵抗していたのに、フッと力を緩めて私を凝視した。
「自分を傷つけてまで…悩むんだったら……わ、私を傷つけて ください……。あ、貴方より…つ、強い…し」
言いたいことが、マスターのように上手く纏められない自分に腹が立った。でも、それでも、私なりにできることをしようと、ぐっと心に決めて、自分よりずっと小さくて細い彼女を抱きしめた。



[ニェン]

「(は?こいつ……)」
あなたの体の傷に気づいたのは、ついさっきのこと。服の間からちらりと見えた肌には赤い線が見えた。ダマのようにぷくぷくと血が膨らんではにじむ。その場面を見てしまった。漫画にもあったな、自傷行為的なやつが…とか思い出して、何の声もかけられずに素通りしてしまった。マスターに報告するべきか。この手のやつは言うまでもなくマスターが完璧に包んでくださるだろう。俺のような威圧的な奴が何か言おうもんならかえって逆効果な気がして、無意識のうちに行ったり来たりを繰り返していた。

「ニェン?」と、可愛らしい声が呼ぶ。
「……今夜ドライブする。付き合え」
「え?急だね…良いけど…?」と、キョトンとしながら答えて、またテレビを向き直るあなた。

しまった、勝手にドライブするとか言っちまった。でももう後に引けないから、マスターにざっくりとことの経緯を話して、夜間のドライブの許可が降りた。

「珍しいね、夜にドライブなんて」
海沿いを走らせている途中、真っ暗だけど月の光を反射して深い青が輝く海を見ながら俺に言った。
「気分だ。お前があのチキンみたいに脱走しようとしないことをマスターは評価してくださってることに感謝しろ」
「………ありがとう、ニェン」
その言葉が何を意味するのか、俺は少しだけ知っている。



【セバスチャン】

「………なぁあなた。それ痛くないのか?」
背後にいたのに全く気づかず、一瞬私の時が止まった。そう、今まさに行為中だった。誰も見ていない、見られないだろうと隙を掴んで、小型ナイフで肌を切っていた。それをまさかのセバスチャンに見られた。首がギギギと言いそうなほどゆっくり振り向く。
「……そのままでいろよ。ちょっと待ってろ」
そう言ってどこかへ行くセバスチャン。もしかして誰かに言いに行くんじゃないのか。もしそうなったら…と、不安と恐怖がセバスチャンが戻ってくる間、私を支配した。が、戻ってきたのはセバスチャン1人で、なんなら手には救急箱のようなものを持っている。
「手当させてくれるか?」
その声があまりにも優しいもので、私は驚いたまま黙って頷くと、慣れた手つきで手当を始めた。
「あーあーこんなとこまで切っちゃって…俺でよければ聞くよ」
そう言われると、案外するすると言葉が出てきてしまった。
そのまま疲れて眠ってしまったんだと思う。
覚えてるのは、セバスチャンの優しい目と声色が、あまりにも心地よかったことだけだ。

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