私が到着した時、すでに樋口ちゃんは戦闘体制に入っていた。
出番が来るまで離れた所で見させてもらうとしよう。
樋口ちゃんは両手に持った銃で、武装探偵社の社員である谷崎潤一郎に何発か撃ちまくる。
だが、その弾は別の人物に中った。
あの子は確か…武装探偵社の事務員、谷崎ナオミ。
谷崎潤一郎の妹だ。
…妹は自分を犠牲にして、愛する兄を守ったということか。
妹は倒れ、兄が抱き抱えて必死に叫ぶ。
だが、妹はなにも答えずぐったりしている。
人虎のほうは…状況が理解できていないのか、ペタンと座り込んでいた。
焦りと悲しみが爆発して、兄は混乱状態。
そんな兄の後頭部に、樋口ちゃんは容赦なく銃を突きつけた。
一見、今は樋口ちゃんが有利な状態に見える。
だが…
ポートマフィアに居ても可笑しくない程の殺気。
兄はゆっくりと妹を抱きながら立ち上がった。
樋口ちゃんの成長できていない部分は__
ありとあらゆる可能性を考えて準備をしていないところ。
樋口ちゃんは兄に銃を連射したが、弾は中るどころか、兄の姿自体が掠れていた。
兄の姿は消え、声だけが聞こえてくる。
「ボクの『細雪』は__雪の降る空間そのものをスクリーンに変える」
樋口ちゃんは声が聞こえたと思う方向に銃を向ける。
もちろん、兄の姿はない。
「ボクの姿の上に背後の風景を『上書き』した」
「もうお前にボクは見えない」
樋口ちゃんは色々な方向に銃を撃ちまくるが、中った気配は無い。
それどころか…
相手に背後を取られ、首を絞められていた。
兄の手に力が入り、樋口ちゃんの喉を締め付ける。
此の儘だと樋口ちゃんが死んでしまうだろう。
でも私は動かない。
なぜなら、まだ彼がいるから。
咳が聞こえたと同時。
兄から少し離れた背後に、ひとりの男が現れた。
そして、兄は血を流しながら倒れる。
人虎は彼に見覚えがあるのか、目を見開く。
彼__芥川龍之介は、黒獣を仕舞いながらそう名乗った。


















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。