部屋に戻ると、北斗さんが待っていた
泣き腫らした赤い目に、耳にはワイヤレスイヤホン
イヤホンの片耳を差し出す北斗さんに、
私はうなずいてそれを受け取った
儚いピアノ主旋律のメロディと、
柔らかく混ざる低音が切なくて美しくて、心地よくて
涙が出てきそうになった
平然と声色も変えずに言う北斗さんに、
思わず声を大きくする
語彙力が無さすぎて大した褒め言葉も出てこないけれど
北斗さんは嬉しそうに笑ってくれた
寂しそうにそう呟く北斗さんが、
なんだかこの前までの私のようで
北斗さんは目をぱちくりさせたあと、
優しく笑った
私も笑い返す
気づくと、曲は終わっていた
歌詞なんて書いたことないのに、
最後の思い出に、やってみたくなった
北斗さんはまた、優しく笑う
その表情は、出会った時より柔らかい
次の曲は、ギターがメロディの少し切ない曲だった
突然ぽつりと溢す北斗さんに思わず聞き返す
北斗さんは少し寂しそうに語った
耳が聞こえない、
それなら音楽も聞けない。曲も作れない
好きなことができなくなる恐怖なんて、考えたくもない
北斗さんは、私の方を向き直して
出会った時とは似ても似つかない優しい顔で言った
北斗さんは、また優しく笑い、
私の頭をそっと撫でた
私はそれを払いのけたりせず
しばらく見つめあっていた












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!