第10話

趣味
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2026/03/31 15:35 更新
北斗
おかえり
あなた
ただいまです
部屋に戻ると、北斗さんが待っていた

泣き腫らした赤い目に、耳にはワイヤレスイヤホン
あなた
何か聞いてたんですか?
北斗
聞く?
イヤホンの片耳を差し出す北斗さんに、

私はうなずいてそれを受け取った
あなた
うわぁ、っ
儚いピアノ主旋律のメロディと、

柔らかく混ざる低音が切なくて美しくて、心地よくて

涙が出てきそうになった
あなた
いい曲ですね、
北斗
これ、俺が作ったやつ
あなた
えっ!?
平然と声色も変えずに言う北斗さんに、

思わず声を大きくする
北斗
入院してて暇だったから、パソコンとスマホで作った
あなた
すごい…
語彙力が無さすぎて大した褒め言葉も出てこないけれど

北斗さんは嬉しそうに笑ってくれた
北斗
音大目指してたんだけどね。高校も行ってないし、てかもう死ぬし
寂しそうにそう呟く北斗さんが、

なんだかこの前までの私のようで
あなた
行けますよ、音大
北斗
え?
あなた
余命って正確じゃ無いし、
もしかしたらあと何十年も生きられるかも
北斗さんは目をぱちくりさせたあと、

優しく笑った
北斗
ありがとう
私も笑い返す

気づくと、曲は終わっていた
北斗
歌詞、まだ無いんだよね
あなた
…私、書きます
歌詞なんて書いたことないのに、

最後の思い出に、やってみたくなった
北斗
え?
あなた
やってみたいな、って
北斗
…ありがとう
北斗さんはまた、優しく笑う

その表情は、出会った時より柔らかい

次の曲は、ギターがメロディの少し切ない曲だった
北斗
俺、耳聞こえなくなるみたいなんだよね
あなた
えっ、?
突然ぽつりと溢す北斗さんに思わず聞き返す

北斗さんは少し寂しそうに語った
北斗
退形成性星細胞腫って癌なんだけど、
聴神経の近くにできちゃってるから
いつかは聞こえなくなるだろう、って
耳が聞こえない、

それなら音楽も聞けない。曲も作れない

好きなことができなくなる恐怖なんて、考えたくもない
北斗
でもあなたの下の名前のおかげで気づけた
北斗さんは、私の方を向き直して

出会った時とは似ても似つかない優しい顔で言った
北斗
悲観してばっかじゃもったいないよね。
…俺、残り1年でやりたいこと考えてみる
あなた
北斗さんなら沢山できます
北斗
ありがとう
北斗さんは、また優しく笑い、

私の頭をそっと撫でた

私はそれを払いのけたりせず

しばらく見つめあっていた

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