撮影が終わったのは、夜9時を回ったころだった。
二人で向かったのは、スタジオ近くのこぢんまりした韓国料理店。
個室ではないけど、壁際の半個室席に通された。
メニューを開きながら、あなたがぽつり。
その言葉を繰り返したドヨンの声は、どこか優しくて、落ち着いていた。
しばらくして運ばれてきたのは、テンジャンチゲとサムギョプサル。
湯気が立つ鍋に箸を入れながら、ドヨンが静かに言った。
あなたは焼酎グラスをクイッと飲むふりをしてドヨンをチラッと見ては微笑む。
ドヨンは一瞬だけ間を置いて、笑った。
ふたりの前に並んだ、ソジュの瓶と小さなショットグラス。
スタッフもマネージャーもいない、まったくの“オフ”の空気。
小さくグラスが触れ合う音。
その音だけが、食堂のざわめきから浮いて、澄んで聞こえた。
ドヨンはソジュを一口だけ飲み、眉をしかめた。
あなたもグラスを口に運び、少し目を丸くする。
グラスを傾けるたび、少しずつ言葉が増えていく。
今日の撮影の話。台本のこと。共通のスタッフのこと。
そして、話題がふと“報道のあと”に戻った。
グラスの中のソジュが減っていくほどに、会話の温度は上がっていった。
さっきよりも、彼女の目をちゃんと見られる気がした。
あなたも、声のトーンが少し柔らかくなっていた。
味のある机の上には既に4本のソジュの瓶。
少し熱を持ち始めた2人の目には映っていなかった。
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あなたが目を覚ましたのは、やけに静かな部屋だった。
ん?
カーテン越しにやさしい光が差し込んでいて、
見慣れない天井、知らない部屋、
そして、ベッドの隅には ブランケットと、清潔感ある空気。
えっと、ん?
ガバッと起き上がった瞬間、視界の端に白いTシャツの背中が見えた。
振り返ったのは、少しだけむくんでてノーセットのドヨンだった。
あなたは悲鳴寸前の声を抑えながら、急いでブランケットをかぶった。
着てるやん
あなたは顔を真っ赤にして、ブランケットに埋もれた。
ドヨンは吹き出しそうになりながらも、少し照れくさそうに目をそらした。
あなたはドヨンから借りたオーバーサイズのトレーナーに着替えて、キッチンカウンターに座っていた。
なんか、自分自信も落ち着きたくて
慣れない手つきながらも、あなたは卵を割り、ウィンナーを炒め、
トーストを焼いた。
なんてことのない朝食。それでも、ふたり分。
ドヨンはカウンター越しにその様子を見ながら、ふとつぶやく。
頭をポンポンと撫でられる。
変な感覚になって、触られた部分が火傷しそうなくらい燃えている。














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。