第5話

誘われた世界で #1
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2025/02/26 13:00 更新
数日に一度だけ、森の奥にあるそこそこ小さな古びた廃神社に妖が集まる。

生ぬるい風が通り、風鈴が涼しい音を奏でるような暑いある日の午後。
その廃神社には、空に映える赤紫の髪をした大蛇と太陽に照らされ美しく光る銀髪の夢喰いバクが仲良く談笑していた。そこにゆっくりと歩きながら向かってくるのは、呆れた顔の綺麗な濡羽色ぬればいろの翼を持つ濃い青髪の鴉天狗と太陽のような笑顔をしたここのつの尾をご機嫌そうに揺らす黄緑色の髪をした彼。
合流したのち、九尾の彼はこう言う。

「そうだ。この前『面白い夢を見る子がいるんだ』って言ってたけど、その子は最近どう?」


それは獏と九尾のフタリだけで話していた時のこと。
やることもやりたいことも無いと気まぐれで入った夢の中、獏は夢を気に入り九尾は性格を気に入った。その話が盛り上がり最後は「そんな面白い子、この目で見てみたい」という結論に至り、会いに行くことにした。

しかし、会いに行くだけというのもつまらない。
日を改め再度集まって話し合ったが「引きずり込もう」という意見で満場一致。
その“引きずり込む”のを近々行われる村の祭りの日に決定し、彼らはその日を待ちわびていた。
 * *

祭りの当日。

数少ない大きめの催しで村の住人は浮かれていた。
昔から、和気あいあいと楽しい雰囲気には人は無いものが紛れ込むことが多く、今回もそれは例外ではなかった。

「今年もやってますねぇ、随分と楽しそうで」
「人間はどうしてああも祭りが好きなんでしょうね。
 一体、何が楽しいのか…」

そんなことを呟きながら、木々の向こうに見える暖かいあかりを横目に大蛇と鴉天狗の彼は言う。獏と九尾はまた来ないのか、あのフタリは何処へ行ったのか、祭りの音にかき消されながらも廃神社の裏でそんな話をしていた。
すると、賽銭箱の前に誰かが座り込む気配に気付く。
こちら側に回り込んでこないあたり、まだ来ないあのフタリでは無いことがわかる。となると、その気配は誰だ?
気になり、表に回って木々の隙間からその気配の正体を見つける。

「人間…?」

どうして、こんなところに人間が。
こちらの世界・・・・・・境目さかいめだとしてもこの廃神社には辿り着かないはず、一体どこから来たのか。
遠巻きに眺めていると、座り込むその人間に近づく妖がいた。
あの髪の毛にあの装い、間違いなく自分たちの知っている九尾だ。

迷っちゃった? と聞く彼はどこか計画的な顔をしていた。
「あの人間、迷い込んできた…って訳ではなさそうだな」
「どうせ、九尾の罠かなにかでしょう?」

この距離なら気付かれないだろうに、なぜか俺たちは小声で話す。
九尾は気にせず座り込む人間になにか話しかけていて、その中で微かに聞こえてきた「君、どこかであった気がするね」という言葉。
直感で彼女が例の女の子だと、気付いた。

祭りの日は境目が曖昧あいまいになるから、てっきり迷い込んできたじゃないかと思っていたが……まさか、九尾あの方の仕業だとは。
決行日は今日でしたっけ? と大蛇に聞くと彼は無言で首を振る。
俺たちは、当日まで待ちきれずに罠を仕掛けて今この現状なのだろう と推測をした。
呆れてため息をひとつ ついたところで獏が茂みの奥から歩いてやってきた。

「あれ、もう揃ってると思っていたけれど……」
「それがですね……あれ、見てください」

そう言って俺が指を差した方向にはこちらに向かって歩いてくる人間と九尾。
それに合わせるかのように、後ろから聞こえた大蛇の混乱した「え゙」という声を無視して前に一歩踏み出すと、隣で歩く獏はどこか楽しそうだった。
 * *

太陽のように明るい笑顔の彼に連れられ、境内の端の方に歩いていくと、木陰から人影が3つ出てきた。
その方々は明るい笑顔の彼と同じように顔が整っていて、街を歩いていると気づいた人は振り返るような、そんな綺麗な顔に私は思わず固まってしまった。
私が固まっている間に彼らは何かを話し終えたようで、来てしまったのは仕方が無いから、と手を引かれた。


流れに流され、一度抜けたはずの騒がしくも色んな屋台のあるこの場所に何故か戻っていた。

「楽しもうよ!」

そんなことを言って私の手を引っ張る彼の名前はひより
はぁ、とため息をつく眼鏡の彼はいばら
転けないでくださいよ〜と呆れたように声をかける彼はじゅん
にこにこ笑顔で機嫌が良さそうにみんなの後ろで歩く彼はなぎさ

祭りの入り口とも言える鳥居の前にて、呼び方が分からないと言うと一瞬ぽかんとした顔をして、すぐにふっと柔らかい笑みをこぼしながら教えてくれた名前。
聞いたのに自分は名乗らないのはおかしいよね? と思い、私も名前を教えたらその綺麗な顔を少し歪めた気がしたが、すぐに暖かい笑顔でよろしくね!と言われ、気のせいだと思うことにした。

聞き馴染みのある太鼓の音と、スピーカーから流れる音源を背にして色んな屋台を巡っていく。
頭に付けず顔にお面を付けている人が多いことが唯一の違和感だったが、特に気にせずに祭りの雰囲気を楽しんだ。



そして、楽しい時間は時の流れが早く、そろそろ帰らないといけない時間になってしまった。

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