怪盗キッドはワイヤーを回収し、
ハングライダーで逃走を図ろうとする。
その時、怪盗キッドは
2つの気配があることに気がついた。
怪盗キッドはそう言って
観客に茶々を付けられた手品師のような顔をした。
夜の風に彼の白い外套が揺られ夜空の黒を隠す。
怪盗キッドはそう告げて顔の横で両手を広げた。
「タネも仕掛けもありません」とでも告げるように。
ふとその時、少女は怪盗キッドの視線が
自身の鞄に向いていることに気付く。
少女は恐る恐る自分の鞄を探る。
その時、鞄の中から見覚えのない物を見つけた。
楕円形、直径8cm程の輝く石
___ムーンストーンだった。
少女はそう言って
少しがっかりした表情を浮かべた。
これでも少女は危険察知能力、
危機管理能力及び五感は優れている。
少女は気を紛らわすように溜め息をついた。
その隙にと言わんばかりに
怪盗キッドはハンググライダーを開く。
中也がそう告げた途端、
足場にしていた硝子にバリバリ…!とヒビが入る。
怪盗キッドが超強化硝子を
割ったカラクリは単純なことだ。
いくら硝子が頑丈であれど、
それに比例して骨組みが頑丈なわけではない。
だから怪盗キッドは強化硝子の繋ぎ目を
小型爆弾で破壊し、硝子を割ってみせた。
だけど中也は違う。
超強化硝子を力付くで割ってみせた。
その有り様に、先程までポーカーフェイスを
貫いていた怪盗キッドも思わず目を点にする。
美しい月明かりの下で
少女はただ唖然とすることとなった。
翌日 あなたside
prrrrr……、prrrrr………
先日のパーティーの疲れを癒すために
毛利探偵事務所のソファーに横になっていたとき、
一本の電話が掛かってきた。
prrrrr………prrrrrr………
初めは無視する心算だったのに、諦めの悪い
呼び出しコールが続いたためやむを得ず手に取った。
ピッ…と音声ファイルの再生ボタンを
押したと思われる後に聞こえてきたのは
聞き覚えのある会話声だった。
ピッ…
無論、知っている。
これは太宰さんの声だけど、
本物の太宰さんが言った訳じゃない。
これは先日、中也が怪盗キッドを逃がす代わりにと、怪盗キッドに太宰さんの声で言わせた台詞だった。
中也の太宰さん嫌いは昔からのこと。
私が口を挟もうが、止めようが
防ぎようがないこと。
だから止めることはしなかった。
私が巻き込まれたくないから…という訳ではない。
聞こえてはならないようなことが聞こえたとき、
私は咄嗟にプチッ___と電話を切った。
世の中、知らない方が善いこともある。
私は気を紛らわせるかのように
そんな独り言を呟いた。
第八章「宴に潜む白い怪盗」完
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第九章「動き出すふたつの組織」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!