鍵のかかった扉ががたがたと音を立てる。何事かと思ったナヨンオンニが、どうやら乗り込もうとしているみたいだ。
一方の私は、目の前に広がる光景に困惑か喜びかよく分からない感情に完全に支配されている。
私が今扉を押えつけている両腕。その間にいる人物は、本来ここにいてはいけない人物。そもそも、いるはずのない人物。
私はしっかりと見たはず。棺桶で目を瞑り、血色のひとつもない青白い顔のあなたを見たはずなのに。
目の前には確実に血の通った色で...いや、少し青白いけれどもちゃんと生きているあなたの名字あなたがいる。
この矛盾に、今にも頭がショートしてしまいそう。
扉を閉めて、確実に逃がすことの無いこの状況。今になってようやく、冷静な考えを取り戻しつつあった私。
いや、ここはこの人物が訳あってあなたになりすましていると考えるのか1番現実的。
それをする理由も何も分からないけれど、とにかく本物かどうか聞いてみなければ分からない。
まぁなりすましていたとしても、素直に私はあなたじゃありませんなんて言わんと思うけど。
とにかくぶら下がっている両腕をがっしり掴んで、鍵を開けずにリビングまで引っ張っていく。
聞きたい事が止まらない。止められない。
変装だとしたらなんの理由があって、なんの権限があって、誰の許可を得て変装してる?なぜなりすます必要がある?
変装じゃないにしても、そもそもなんでナヨンオンニがあなたって呼んでるの?ナヨンオンニだって私達と一緒にあなたのお葬式に参列したのに。
ナヨンオンニを騙して、変装して、わざわざここに来る理由が知りたい。
...それでも、私は心のどこかで。
この人物があなたであることを期待している。
しばらく無言の時間が続く。
玄関の方ではがちゃがちゃと物音が凄いけれど、そんな音は気にならない程、目の前の人の唇に意識が集中していた。
どう見ても、私が愛したあの唇。どれだけ取り繕おうが、私が好きなあの唇。
目も、鼻も、輪郭も耳も全て見覚えがあり過ぎる。記憶に焼き付きすぎている。
しばらくして、痺れを切らした私が口を開くと。
まだ落ち着かない様子で視線を左右に振る彼女が、少し震えながら口を開く。
ここ...24階なんやけど...!?!!
合鍵を持っていたのか、預かっていたあなたらしき人物の荷物から出したのか。
勢いよく飛び込んできたナヨンオンニの手にはこの家の鍵が握られていた。
突然大きな声で名前を呼ばれた私は、不覚にも、目の前の人物から目を離してしまった。隙を与えてしまった。
ナヨンオンニがどうして鍵を持っているのか、なんでそこまでしてここに来たのか。それを聞く前に、ナヨンオンニは私の前を素通りして窓の側へ。
振り返ればそこにある光景は、到底信じられないもの。でも、信じたくなるほど眩しいものもあった。
窓に腰かけて、この状況を楽しむかのように。生前...あの時私に見せていたあの笑顔を私に一瞬向けて。
私には何も言わなかったくせして、ナヨンオンニに挨拶を一言した後。
信じられない事に、その窓から姿を消した。
...そこまでして、なんで私の傍から離れてくの。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。