兄の事は大好きだ。
でも、私には太宰治のことが分からない。
拾われた時から、ただその目のとても黒くて深いことと、血の匂いの染み付いたことだけはよく分かって、それ以外は何も分からなかった。
ただ、怖かった。
2番目に面倒臭い回答が来た。因みに1番面倒臭いのは、どっちでも良いという答えだ。私は多用してしまうが。
しかし怖いもんは怖いので、特に反発することも逆らうこともせずに従う。
そう言いつつお兄ちゃんの顔を見つめる。やはり整った顔だ。この顔ならばあのクソみたいな女関係も頷ける。頷けちゃいけないが。
この答えは大丈夫だろうか。
何時もより気を張って会話をする。何故かって?
お兄ちゃんの黒い服からバリバリに血と硝煙のかほりがするからだ。
何このかほり。監禁系グロホラーですか???
そもそも命懸けの蟹(スーパーで安く売っていた)づくしご飯作りって何よ。意味分かんないんですけど。死にたくないんですけど。
私まだピチピチの15歳よ?
お兄ちゃんナイスプレー。この家が殺人現場のかほりになる前にそうしてくれて嬉しいよ。私の命日も近くなった気がするけど。
だって、この待遇に幾ら特別感があるからと言って、私の代わりは幾らでもいるし、私がお兄ちゃんのことを公言したら即座に殺される。一緒に駆け落ちだなんていうどこかの御伽噺の様なことはあり得ないのだ。
だって此処は現実で、他でもないヨコハマなのだから。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。