第71話

続き
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2026/03/01 04:27 更新
ハルside


事務所で最後の取材を終えた夜、
裏口は人の気配が薄く、
街の灯りも遠くに滲んでいた。
空は曇り、風が湿っている。



スタッフが機材を車に積み込む音が響く。



ハルは傘を手に取り、
静かに外へ出る。


まだ取材の緊張が体に残っていた。
そのまま深呼吸をしたとき――










「ハルくん!」



突然の声。
胸の奥が反射的に強張る。


声の主は、泣きそうな顔をした女性。
全然初めましての方。でも僕のメンカラであるオレンジを付けていて、すぐに僕のファンだと悟った。




「どうしてあんなシーン撮ったの。」



震えて訴えてくる声。
ハルは言葉を探す。



「お仕事で……それは――」
言い終えるよりも早く、
その手の中で光が一瞬、閃いた。




金属のような反射。

空気の温度が変わった。

心臓が、ドクンと跳ねる。





時間がゆっくり流れた気がした。
その時、





視界の端を何かが横切った。





タクヤだった。




「ハル!!!」





ハルを押しのけ、
乾いた衝撃音が空気を裂く。

金属が床に転がり、
スタッフの叫びが遅れて響く。




目を見開いたまま、
ハルは一歩も動けなかった。
照明の光が点滅し、
白く、赤く、世界が交互に色を変える。



タクヤはハルの前に立ったまま、
息を荒げていた。
白いシャツの裾が少しだけ揺れる。


その布の隙間に、赤が滲むのを
ハルは見逃さなかった。



「タクヤくん……?」
声が震えた。



タクヤは振り返らず、
「大丈夫だ」とだけ言った。




その言葉が、
あの夜の静寂の中で、
やけに遠くに感じた。







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