イチゴ大福の力でどうにか人間の理性を保った時雨は、
亜白ミナの執務室のソファの隅――背もたれと壁のわずかな隙間に、
猫のように丸くなって収まっていた。
もぐもぐと大福を咀嚼しながら、ミナが書類に目を通す姿をじっと見つめている。
ミナが苦笑しながら視線を向けた先では、
副隊長の保科宗四郎が、自分の席を奪われて部屋の隅に直立不動で佇んでいた。
その時だった。
けたたましいサイレンの音が、静かな執務室に鳴り響いた。
保科の目が一瞬で鋭い戦士のそれに変わる。
ミナも即座に立ち上がり、愛用の巨大重砲へと手を伸ばした。
インカムに手を当て、全隊員に出動をかける。
ミナの真剣な眼差しに、時雨は渋々といった様子で「はーい……」と立ち上がった。
エリア22。
そこは高層ビルが立ち並ぶ市街地だった。
現れたのは、全身が強固な外殻に覆われた、推定フォルティチュード7.8の本獣。
防衛隊の一般隊員たちが放つ銃弾をことごとく弾き返し、街を破壊していく。
保科が刀を抜きながら叫ぶが、
時雨は防衛隊の基本兵装であるアサルトライフルを、面倒くさそうに引きずって歩いていた。
怪獣が時雨の存在に気づき、巨大な質量を持つ尾を激しく振り下ろした。
ビルのコンクリートを粉砕する一撃。
まともに喰らえば、防衛隊のスーツを着ていようが無事では済まない。
保科の悲鳴のような警告。
しかし、時雨は一歩も動かなかった。
ただ、眠そうな目で怪獣を見つめ、細い指先を小さくパチン、と鳴らす。
ドンッ!!!
と凄まじい衝撃音が響いた。
だが、破壊されたのは怪獣の尾の方だった。
時雨の目の前、わずか数センチの空間で、怪獣の攻撃が『完全に静止』し、自重の衝撃で勝手に砕け散ったのだ。
保科が目を見開く。
時雨の術式『狭間呪法』。
それは、空間と空間の「わずかな隙間」を無限に引き延ばす能力。
怪獣の尾は、時雨の手前にある『1ミリの隙間』の中に作られた、
果てしない距離の空間を永遠に進み続けている状態なのだ。
つまり、時雨には絶対に届かない。
五条家の無下限呪術を、時雨流に解釈した絶対防御。
時雨はふぅ、とため息をつくと、引きずっていたライフルを完全に地面に放り投げた。
時雨の瞳に、ウラの世界で「特級」と呼ばれた禍々しい呪力が灯る。
解放戦力94%のスーツが、時雨の規格外の呪力に耐えかねて、バチバチと警告音を鳴らし始めた。
時雨が空間を『掴む』ように手を握り、それを横にスッと引き裂いた。
次の瞬間、怪獣の巨大な身体の真ん中に、縦一閃の「空間の裂け目」が出現する。
物質と物質の隙間を強制的に広げ、引き裂く一撃。
怪獣の強固な外殻など何の意味もなさなかった。
フォルティチュード7.8の巨体が、
まるで紙のように綺麗に真っ二つに両断され、中心にある核(コア)ごと一瞬で粉砕された。
ドサァッ……と、静まり返る戦場に怪獣の肉塊が落ちる。
時雨は振り返りもせず、マイペースに基地の方へと歩き出した。
残された保科は、刀を構えたまま完全に固まっていた。
“ 顔はイケメンでも中身がどうしようもないクズ “











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。