第42話

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2018/07/27 10:58
久我先生
はい、これ。
住所と電話番号。
ありがとうございます。

15分ほどして、先生は戻ってきた。
先生…あの、
久我先生
なんだい?
僕、お通夜にも…お葬式にも行かなかったんです。
美穂が、死んでしまったって言う現実が受け入れられなくて、逃げて…逃げて……
久我先生
そうか、辛かったね。苦しかったね。

僕はその言葉を聞いて、涙がこぼれた。
久我先生
僕の孫はね、中学生の頃、両親を亡くしたんだ。
それから僕と暮らしてきたんだけど、その時は本当にひどかったよ。
生きる希望を無くしたように、目に光はなかった。
いざ、身近な人が亡くなるとなると、気持ちもズタズタになるんだろう。
でもね、あの子は頑張った。
そして、僕にこう言ったんだ。

先生は一呼吸置いてから言う。
久我先生
「じいちゃん、俺、生きるから。」って。
「お父さんとお母さんがいてくれたから、俺はここにいる。2人の分まで生きなきゃ」そう言ってた。
生きるって言うのは、簡単なようで実は難しいと僕は思う。
人の心は簡単に折れてしまう。そして、体も脆い。

そして、先生は最後にこういった。
久我先生
しっかり生きなさい。
美穂ちゃんの分まで、君が“生きる”んだ。

僕は泣いた。


なんとか声を絞り出して、「はい、」と返事をした。
久我先生
じゃあ、少ししたら行っておいで。
気をつけるんだよ。
ありがとうっ…ございました……
久我先生
うん、またね。

先生は仕事があるのか、出て行ってしまった。


本当は、僕を1人にしてくれたのかもしれない。


しばらくして、住所を頼りに美穂の家へ向かった。

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