「して、俺達がいない間に教師が一人増えた…と、いうわけか」
留三郎と伊作の部屋にお使いから帰ってきた六年が集まり、伊作から事の顛末を聞き出していた。
「僕は異論はないよ…嘘をついているようには見えなかったし、何よりあの傷は本物だもの」
「しかしだなぁ伊作…」
「いさっくんが信じるなら私も信じてみるぞ!」
六年い組会計委員会委員長潮江文次郎は困った顔で腕を組み、六年ろ組体育委員会委員長七松小平太は笑ってそう言った。
「それで、いまそのあなたというのはどうしているんだ?」
六年い組作法員会委員長立花仙蔵が首を傾げた。
「今は、薬湯を飲んでもらって、寝てるよ。どっちみちあの傷が治らないことには紹介も仕事も出来ないし…」
伊作の言葉にそうだな、と頷く。
「………もそ」
「え?小平太、今、長次はなんて?」
「今か?早く元気になって欲しいって言ってたぞ?」
「そっか。そうだね長次、早く治ってほしいねえ。かなり強いみたいだし…」
伊作が意味ありげに笑って文次郎と留三郎をみた。
「なんだ、いろいろ物凄い里だとは思ったが、そんなに強いのか?」
「だってその里の追っ手数十人から逃げ延びてきたんだよ?かなり強いんじゃないかなぁ」
「なるほどな…楽しみだな文次郎」
「ああ、是非とも手合わせ願いたい」
「お前たちでは歯が立たないんじゃないのか?」
意気込む二人に仙蔵が楽しげにいう。
「な、なんだと仙蔵!」
「そうだぞ仙蔵!文次郎はともかく」
「なにおう!食満留三郎!」
「ああ?やんのか潮江文次郎!」
「なっははは!もっとやれ!」
「………小平太…煽るな」
「ちょっともう仙蔵!小平太も!長次の言う通り煽らないで!それから二人ともここで喧嘩しないでー!!」
部屋の持ち主の伊作の悲鳴が六年長屋に響いた。
***
それから数週間後。
ずっと保健室の布団の中にいた青年あなたも、少しずつ保健室前の廊下に座ってぼーっと庭を眺めるようになった。
「あなたさん」
声をかけると、すいっと目線が動く。
『ああ…もう往診の時間かい?』
「ええ、包帯も替えますね」
『…すまない』
「いえいえ」
最初こそ治療も断わる素振りを見せていたあなただったが、豹変した伊作様には勝てなかったようで、しぶしぶ忍術学園の備品で申し訳なさそうに、でも確実にその身体を癒している。
「…痛いですか?」
伊作が折れていた腕をいろいろと力を変えながら押す。
『いや…大丈夫痛くはない』
「びっくりですね…もう繋がってるみたいだ。小平太でもこんなにはやくはいかないかも」
『…繋がってるのか?』
「ええ、そろそろ動かしても問題は無いでしょう。逆に、関節が固まらないようにちょっとずつならして行きましょ…う、ね…?」
救急箱に包帯の残りを戻してにっこり振り向いた伊作の表情が―…そのまま凍りついた。
「な、何してるんですかー!!」
伊作の目に映ったのは、手をにぎにぎしながらぐるぐると勢い良く肩を回すあなたの姿。
『えっ』
「えじゃないですよ!」
『今、君が動かしてもいいって…』
「僕は〈ちょっとずつ〉っていったんです!だれがそんな激しい運動を許しましたか!!だれが!!!!」
『も、申し訳ない…』
「解ってくれればいいんです。さ、安静にしといてくださいね!僕はちょっと授業にでてきますので。安静にしといてくださいね!」
『はい…』
二回も念を押されてはそう頷く以外になく、あなたは伊作を見送ったあと再び庭を眺めに廊下に出た。
校庭の方で低学年が遊んでいるのか、きゃっきゃと楽しげな声がする。
生物委員会のものだろうか、山犬の鳴く声も微かにあなたの耳に響いていた。
『平和だな…』
毎日毎日、まだ働いてもいないのに包帯は新しく変えてもらい、貴重な薬を使ってもらい、そして毎食美味しい食事をご馳走になっている。
働かざるもの食うべからず。
腹が減れば自分でどうにかしなくてはならない。
幼い時からそう育ってきたあなたにとって、大変不思議で不可解で、それでいて泣きたくなるような待遇だった。
今、あなたが持たされている武器は自衛に本当に最小限のものだ。
苦無に千本、それだけを懐に忍ばせている。
勿論多くの先生や上級生がいる忍術学園の中ではあるし、そもそもほかの武器があってもまだこの体では扱えないのだから不満はない。
ただただ、何も返してやれないことが気がかりだった。
『…せめて、動く許しが出ればな…』
あなたの基準からいえばこのくらいの怪我なら既に忍務にだって出られそうな気がするのだが、それで散々お世話になっているあの茶髪の少年のいいつけを破ることはどうにも気が引ける。
―…大人しく待つしかないか。
あなたはため息をついて、庭に足をおろしたままごろりと廊下に横になった。
空を雲が流れていく。
ああ、平和だ。
むず痒いほどに。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。