僕が悪魔の生まれ変わりと知ってから、グクには会いに行かなかった。途中で逃げ出して置いていった罪悪感もあるし、それにどういう顔で会ったらいいか分からない。また泣きそうなグクの顔を見たらと思うと、あの場に居るのが辛くなる。このまま時間だけ過ぎて、忘れられたらいいのに。そう、思ってもないことを1日中考えている自分がいる。たまにチラつくグクの顔が鬱陶しいが、愛おしいとも思ってしまう。この感情は前世からくるものなのか?それとも気のせいなのかもしれない。どちらにしろ、僕はずっとグクのことを考えるほどに頭の中がいっぱいになっていた。
電話越しに息を荒らげて話すジミナは、心配で仕方なさそうにしている実家のお母さんに似ている。
ジミナの発言に少しムッとくる。
_____そこまで言わなくてもいいじゃんか
改めてグクのことを話すと、ジミナはうーんと唸り声をあげた。
ジミナは間を置いてから続けた。
僕には想像もつかなかった。グクがどれだけの年月、僕を思ってあの広い城で過ごしてきたのか。愛する人を殺めた罪悪感と、自分に対する憎悪に縛られ、死ぬことすら許されない。拷問よりも辛く、残酷な罰なのかもしれない。
そう呟くとジミナはため息に近い声を出した。
電話を切ってジミナに心の中でお礼を言った後、走って家を飛び出した。走るのはあまり得意では無いけど、この時はすごく早く走れて自分でも驚いた。早く会いに行きたい。その想いが強いせいか、今日は森がスッキリしていて、城までの道が通りやすかった。
城の前まで着くと、さっきまで会いたいと思っていた感情は一気に不安へと変わった。城門は1人が通れる分、開いていた。いざ、入ろうとなるとすごく怖い。
_____ダメだっ、こんなんじゃグクに会えない
不安を消し去るようにして、隙間を通って門内に入り、玄関のベルを鳴らした。グクが出てくる気配はなく、ドアノブに手をかけると鍵が空いていた。
声をかけても反応がない。気が引けるが、扉を開けて入ってみる。グクは留守なのか、それとも寝てるのか。ソファのある部屋に行ってもグクはいなかった。
_____2階か?
2階に行ったことはなかったが、今すぐにでもグクに会いたかった僕は、2階への階段をかけ登った。廊下は奥に続き、真っ直ぐ進んだ突き当たりに扉を見つけた。扉をノックし、グクの名前を呼ぶ。しかし、返事はかえってこない。
_____なんでいないの?
_____......もしかして、倒れてるとか、、
頭がいっぱいいっぱいだった僕は、グクになにかあったんじゃないかと心配になってきていた。扉には鍵がかかっているようには見えない。ドアノブに手をかけ、静かに開く。中を覗くとベッドで横たわるグクが目に入った。こっそり中に入り、グクの寝顔をじっくりと観察する。愛らしい顔の頬は涙で濡れた痕がくっきりとついていた。
_____ごめん、グク。
心の中で謝りながら、グクの頬を指で撫でていると、腕に抱えられている写真立てが目についた。起きないようにグクの腕から写真立てをそっと取ってみる。
_____これ、、、僕?
写真立てには、笑い合いながら見つめ合う2人の絵が描かれていた。目を疑ってしまうが、何度見てもそこには今の僕ではなく、僕そっくりな男と少し雰囲気の違うグクが描いてある。
_____そうだ....これ、僕だ.....
涙が溢れて止まらなかった。
途端に頭の中に沢山の場面が映って見え始めた。走馬灯のように流れてくる記憶はすごく幸せで、時に苦しくもあってなんとも言えぬ感情だった。僕とグクは確かに一緒の時を生きていた。全ての記憶が流れ終わった後、僕は膝から崩れ落ちた。呼吸が上手くできず、沢山の感情で溢れかえっていた。
見上げると、青ざめたグクと目が合った。僕は急いでベッドに登り、グクを抱き締めた。
グクの体温がすごく熱くて、こっちまで熱くなりそうだ。ずっと愛おしかった人の腕の中にいることがどれだけ幸せか。
グクの胸に顔を埋めながら呟いた。
顔を上げてグクを覗くと、目を潤わせ優しく微笑んでいた。
グクは僕の涙を指で拭き取る。
グクの手を払い除け、揺れている瞳を真っ直ぐと見た。
グクは僕に抱きついて、詰まってでてこなかったものを全て出すかのように泣き出した。男の人がこんなに泣きじゃくりながら、すがりついてくるのは初めての経験であわあわしてしまう。僕はグクをそっと抱き締め、背中をさすり、落ち着かせた。
グクの背中をさすりながら、グクの言葉をしかと受け止めた。今、グクが縛られている鎖が解かれたらどんなにいいだろう。
僕はそれ以上なにも言わず、グクを抱きしめた。グクも黙って抱きしめ返す。そのうち涙は止まり、グクは少し乱れた呼吸で声を震わせながら言った。そして腕に力を込める。
グクは僕の首にキスをすると、そのまま一緒にベッドへ倒れ込んだ。















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。