夜の都内、照の運転する車の助手席に、蘭は座っていた。少し遅めのディナーを済ませ、照のマンションへと向かう静かな車内。
いつもなら音楽に合わせて二人でリズムを刻む楽しい時間のはずだった。
しかし、バックミラーを覗く照の横顔は、いつになく真剣で、どこか険しい。
蘭「照さん……? どうかしましたか?」
照「……蘭、ちょっとシート倒して、外から見えないように低くしゃがめる?」
蘭「えっ……?」
照「後ろの黒いワンボックス。さっきの店を出てから、ずっと俺たちの後ろをピッタリついてきてる。多分、週刊誌の記者(パパラッチ)だ」
蘭「っ……!?(ドクン、と心臓が激しく跳ねる)」
ついに、恐れていたことが起きてしまった。
蘭は照の言葉に従い、助手席のシートを深く倒して、身を潜めるように丸くなった。
窓の外は見えず、ただ車のエンジン音だけが不気味に響く。
不安で、指先がカタカタと震え出した。
照「大丈夫。俺に任せろ。絶対に見つからせないから」
照の声は低く、だけど驚くほど冷静だった。
彼は慣れたハンドルさばきで、わざと入り組んだ住宅街の路地へと車を滑り込ませる。
急な右折と左折を繰り返し、パパラッチの車を翻弄していく。
照「(スマホのスピーカーホンを繋ぎながら)あ、もしもしマネージャー? 今、後ろに黒のワンボックスついてきてる。……うん、撒くから。マンションの地下駐車場のゲート、俺が入ったらすぐ閉まるようにセキュリティ連動させといて」
Snow Manのリーダーとして、数々の修羅場をくぐり抜けてきた照の判断力は迅速だった。
車は一気に加速し、照のマンションの地下駐車場へと滑り込む。
彼が通過した瞬間、重厚なシャッターがガラガラと閉まり、追跡者の車を完全にシャットアウトした。
エレベーターに乗り、照の部屋に入った瞬間。
蘭は張り詰めていた緊張が一気に解け、玄関の床にペタリと座り込んでしまった。
蘭「こわ、かった……っ……。もし撮られてたらって思ったら……(ポロポロと涙がこぼれ落ちる)」
照「蘭……っ!」
照はすぐに蘭の前にしゃがみ込み、震える彼女の体を、壊れ物を扱うように優しく、だけど強く抱きしめた。
彼の広い胸の温もりが、蘭のパニックになりそうな心をゆっくりと溶かしていく。
照「ごめん、怖い思いさせて。でも、もう大丈夫だから。ちゃんと撒いた。写真も一枚も撮らせてない。……俺が、絶対蘭を守るから」
蘭「照さん……私、照さんのお仕事に迷惑かけちゃうかもしれないって思ったら、すごく怖くて……っ」
蘭が泣きながら胸元に顔を埋めると、照は愛おしそうに彼女の背中を大きな手で何度も撫でた。
そして、蘭の顔を両手で包み込み、親指で優しく涙を拭う。
照「何言ってんの。蘭ちゃんは何も悪くない。俺たちの関係は、誰にも邪魔させないよ。たとえ世界中を敵に回したとしても、俺が蘭の手を離さないから」
向けられた照の瞳は、真っ直ぐで、一片の迷いもなかった。
その強い眼差しと言葉に、蘭の心に温かい安心感が広がっていく。
照「……ねえ、まだ震えてる。今日はもう、ずっとこうして抱きしめてていい?」
蘭「はい……離さないでください……」
照「離さないよ。……絶対に」
照は蘭の額に、そして涙の跡が残る頬に優しくキスを落とし、今度は深く唇を重ねた。
スリルの後に訪れる、いつもより少し強引で、だけどどこまでも深い愛の重なり。
誰にも言えない秘密の恋のビートは、危機を乗り越えるたびに、より一層強く、決して離れない絆へと変わっていくのだった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!