土曜日の朝。
待ちに待ったお家デートの日。
千賀子は早起きをして、クッキーを焼いた。
丁寧にラッピングする。
今日は念入りにお洒落をした。
お洒落とは言っても、彼の好みに合わせて
控え目にナチュラルメイクに仕上げた。
千賀子は家を出た。
良い天気で、清々しい。
自転車で風を切りながら走る。
浩二の家は、千賀子の家と割と近い。
15分程だ。マンションの5階らしい。
エントランスに丁度、
大きな鏡があったので
身だしなみチェックする事にした。
巻たての髪が崩れていないか心配のようだ。
髪のひと房を掴み撫で下ろす。
ふぅっとひと息付き、緊張を和らげた。
すると、彼が千賀子の名前を呼んだ。
ビクッと肩を上げた。
そう。彼がエントランスに迎えに降りて来てくれた。
エレベーターから降りると、
彼の家が。
502号室。
彼が先にドアを開けてくれた。
リビングに招待される。
隅にはゴルフクラブがある。
モダンな雰囲気のインテリアで
彼らしい部屋だ。
2人はソファーに腰掛けた。
千賀子は手提げの中から、
ラッピングのしてある手作りクッキーを
彼に差し出した。
彼はじっと見つめてきた。
熱い視線を向けられて胸が高鳴る。
隣に座る千賀子にキスをした。
彼は優しく両腕で抱き寄せ、
その掌で頭を撫でられる。
息が止まりそうなほど、不意打ちの口付け。
一瞬で高揚し、頬を赤く染めた。
千賀子は彼に委ね、
ソファーに仰向けになった。
見上げると彼の顔が。
お互いが密着し、心臓の音も伝わってくる。
彼は1回、彼女の襟元を軽く撫で下ろす。
緊張しているのか、手が冷たい。
千賀子は、今にも心臓が飛び出そうだ。
その時。
突然、インターホンが鳴り響いた。
彼は身体を起こし、立ち上がる。
千賀子も、閉じていた目をゆっくり開けた。
彼はモニターを、覗く。
そこに映っていたのは…。
そう、部署異動する予定の例の「あの人」
その名も、「轟 広美」。
なんとも言えないような、表情で
ドアの前に立ち尽くしていた。
彼は、千賀子の身体を抱きしめ、
息を潜めて2人は轟の帰るのを待つ。
一体、轟という女は何を考えているのか。
次回に続く。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。