第61話

59
2,842
2025/06/08 14:02 更新












 夏。



 学生だったときの夏はとても貴重で。

 夏休みから始まり、プール、お祭り、

 たくさんの宿題や友達とのお泊まり会。




 けれども大人になった今は

 あの頃のように、夏だからって

 それらに現を抜かすことも出来なくて。




 … まぁ、正直私はそんなに

 忙しいわけでもないのだけれど、

 忙しそうなオッパに向かって

 夏の貴重な休日を潰すような真似は出来ない。




 ポストに入っていたチラシを見ながら

 そんなことを考えていれば、

 じわじわと侵略してきた睡魔に耐えきれずに

 ゆっくりと暗い世界へと微睡んでいった。









 ・・・









(なまえ)
あなた
 先輩っ  !  あの、夏休み
 暇な日とかありませんか !? 
lk
lk
 勉強 
(なまえ)
あなた
 …   ですよね、 








 それは、先輩と付き合って

 しばらく経ったときのこと。




 夏休みを目前に控えた私は、

 毎年月末に開かれる夏祭りへと

 先輩を誘ってみる。




 けれども、受験間近の先輩にとって

 夏休みは貴重なものに決まっていて。

 そんなことにも気付かずに、

 ただ先輩と夏祭りに行くんだ ! なんて

 はしゃいでいた自分にかなり落ち込んだ。




 しゅん、と反省し、黙々とご飯を食べる。






lk
lk
 ……  まぁ、1日ぐらいなら 
 付き合ってあげてもいいよ 








 「そんなに切羽詰まってないし」だなんて

 言った先輩に顔を向ければ、

 顔色を変えることなく箸を動かしていた。






lk
lk
 で、なに  ? 
(なまえ)
あなた
 えっと、今月の終わりに
 夏祭りがあるんですけど、良ければ 
 一緒に行きたいなぁ、なんて … 








 口にすれば、一瞬眉間に皺を寄せた先輩。






(なまえ)
あなた
 あっ、でも人多いし
 疲れちゃいますよね ! 誰か
 友達連れて行くことにします ! 








 それを見て、先輩が人混み嫌いなことを

 思いだした私は、あははーと誤魔化してみる。

 けれども眉間の皺は深まる一方だった。






(なまえ)
あなた
 (  なぜ  ?!  ) 








 先輩のさらに深まる眉間の皺に首を傾げる。






lk
lk
 俺がその程度で
 疲れるとか思ってるの ? 
(なまえ)
あなた
 そんな滅相もない  !! 








 もしかして、私が先輩を貧弱だみたいに

 言ったから怒ってるのだろうか ?




 弁解するべく、即答する。






lk
lk
 …  なら、好きにすれば  ? 







 その、決まり文句のような台詞を呟いた先輩に

 「 じゃあ後で詳細メールしますね ! 」と、

 笑って意気込んだ。










 ・・・










 わくわくとその日を待っていれば

 あっという間にやってくる。




 夏休みに入れば先輩と会う機会なんてなく、

 久々に会えるんだと思うと

 胸の高まりはいっそう増した。




 いつもはしないメイクや髪型は、

 前日に何度も繰り返した練習のおかげで

 なんとか様になった ...... と思いたい。




 浴衣を身にまとって、小さな巾着を持ち、

 最後に可愛らしい下駄を履けば、

 大きく深呼吸をして家の外へと飛び出した。




 からんころんと音を鳴らしながら

 指定した場所へとたどり着く。






(なまえ)
あなた
 (  先輩、いるかなぁ  ?  ) 








 思えばお付き合いっていうのを

 させて貰ってから、

 こうやって外で待ち合わせして遊ぶのって

 初めてで、だんだんと緊張する。




 時間より10分早く着いてしまった私が

 キョロキョロと視線をさまよわせていれば、

 ある光景が目に入って。

 無意識に近くにあったオブジェの後ろに隠れた。






(なまえ)
あなた
 (  せっ、先輩いた  !  いた  …  けど、  ) 








 先輩が私よりも早くここへ来て

 待っていてくれたってことに、

 とてつもなく嬉しくなる。




 けれどそれも一瞬のことで。




 先輩が女の人と話しているのを見て、

 どうしても近付くことが出来なかった。




 …… だって、その女の人は私なんかよりも

 ずっと美人で、来ている浴衣だって、

 黒っぽい生地に紫の絵柄で大人っぽい。

 自分の、白地にピンクの浴衣を見れば、

 自然と深い息が漏れた。




 あの人たちの方が、

 先輩と並んでて違和感ないや。

 ただでさえ私の方が年下で子供っぽいのに、

 制服じゃない先輩は

 まるで学生感を感じさせない。




 こんな劣ってる自分が先輩の隣に

 いていいんだろうか。

 一緒にいたい気持ちといたくない気持ちで

 ぐるぐるしていれば、

 「ねぇ」と上から声が降ってきた。






(なまえ)
あなた
 …… ?!  先輩  !! 








 びっくりして反応が遅くなる。




 慌てて声のした方を振り向けば、

 先輩の周りにさっきの

 美人なお姉さんたちはいなかった。






lk
lk
 いたならなんで話しかけてこないの 








 明らかに不機嫌そうにしている先輩。






(なまえ)
あなた
 え、あっと、、ごめんなさい  !! 
lk
lk
 別に謝れってるわけじゃないんだけど。 
 なんでこんなとこで
 隠れてたのかって聞いてんの








 「質問したことにも
 ちゃんと答えられないの ? バカなの ?」

 と罵倒してくる先輩。

 初めてのデートなのに、初っ端から

 こんなになっちゃうなんて …







(なまえ)
あなた
 だっ、だって先輩、
 美人な女の人たちと話してたから、 
(なまえ)
あなた
 私なんて隣に行くのも
 おこがましいというか、
 隣に行っちゃいけないなって、思って … 








 言っててさらに落ち込んでくる。




 あ、だめだ泣くな自分、だなんて

 奮い立たせてみるけれど、

 私の意志とは反対にだんだんと視界が滲んできた。






lk
lk
 は  ? なにそれ。バカじゃないの  ? 








 嘲笑する先輩に、さらに私の涙はたまった。




 どうしよう。呆れられちゃった。

 せっかくの、初デートだったのに …




 いっこうに顔が上げられない私に、

 また、はぁ … といったため息が聞こえる。

 視界の端で先輩の腕が動いたことに

 びくりと体を震わせれば、

 その手は優しく私の頭を撫でた。






lk
lk
 今俺と付き合ってんのは
 あなたなんだから、
 もっと堂々としててくんない ? 








 優しい雰囲気を纏った声に顔を上げれば、
 
 呆れながらも口を緩めている先輩がいた。




 今、先輩、私のこと名前で呼んでくれた ?

 「あなた」と呼ぶその声に

 なんだかくすぐったくなる。

 いままでずっと「ねぇ」ばっかりだったのに。




 その変化と言われた言葉に、

 自分が先輩の彼女なんだ。と実感すれば、

 さっきまでの胸の痛みは

 嘘のようになくなっていた。






lk
lk
 だから次からは変なこと
 考えてないで声かけなよ 
(なまえ)
あなた
 は、はいっ  !! 








 思わず大きくなってしまった声に

 自分でびっくりして頬を赤く染めれば、

 「なら行こうか」と私の手を引いて歩き出した。






プリ小説オーディオドラマ