私は今、人に埋もれている。
通勤ラッシュの満員電車の様な人混みで、窒息状態に陥っている。
私は死を錯覚した。
カメラを向けてコメントをくれと頼まれているからである。
それに加えて多くのカメラマンとアナウンサーがいる為、酸素が薄いのだ。
そんな状態で喋れと言われても怖くて仕方がない。
一言言ったらこの地獄を抜け出せる、と思い、私は息を大きく吸い込む。
少し喋りすぎた、と思い、急いでその場を駆け抜ける。
後になってから緊張感がきて、鼓動が速くなる。
周りを気にしず歩いていた為、誰かにぶつかってしまった。
謝ろうと前を向こうとすると、そこには轟サンがいた。
轟サンは怒るわけでもなく、それだけ言い残して歩いていった。
戦闘訓練の時と同じ様に、瞳には冷たい怒りがこもっていた。
それは私に向けた怒りではないと、意味もわからず思う。
怖くはあるが、本人はそういうつもりがないのかもしれない。
私は弱めに頬を叩いて、また歩き始める。
叩いた頬は少し痛みが残っているものの、気を逸らすには十分だった。
爆豪くんはくるりと振り返って少し目を見開く。
走って追いかけ、私は爆豪くんの少し後ろあたりで止まり、歩き始める。
前を向いたまま挨拶を短く返してくれるのはやっぱり優しいなと思う。
昨日の訓練の話をしようと思い言いかけたが、言葉にするのを諦める。
訓練の後、爆豪くんはあまりいい顔はしていなかった。
ここあたりの道で少し泣いていた様だし、思い出させるのはやめておいた方がいい。
そう思ってやめたのは私なりの気遣いである。
爆豪くんはただ無言で振り向きもせず歩く。
その耳に私の声が届いているかはわからないが。
爆豪くんは目尻を九十度近くまで上げて、掌の汗でパチパチと火を起こす。
私は燃やされると思い、必死に校舎内までに走ろうとしたが、すぐに追いつかれた。
肩を掴まれて、私が走ろうとするも、それも阻止される。
あの時と同じように、また指で額を弾かれた。
私は目を閉じて笑ってみせる。
すると爆豪くんは私を通り過ぎていき、私の足を蹴った。
私たちはなんだかんだ一緒に教室に向かうと、教室の扉を開けた。
爆豪くんとは少しばかり離れた席に座って、頬杖をつく。
そういえば昨日の授業の内容が全く理解できていなかったと思い、ノートを開く。
意味のわからない記号が出てきて、数字がたくさんあって。
見るだけでも泡を吹いて気絶してしまいそうだ。
前の席に座っていた八百万サンが私の方に振り返る。
突然だったため驚いてしまい、間抜けな声を出す。
恥ずかしくなって両手で口を押さえると、八百万サンが上品に笑う。
私は今日もいつも通り初対面の人に挙動不審になっている。
もう面白くなってきてしまって、八百万サンと一緒に笑う。
少し頬を赤めて微笑むヤオモモちゃんから後光が差しているように見えて目を細める。
それからチャイムがなるまでプチ勉強会は続き、どんどんわからなかったところが解る。
それはまるで魔法みたいで、ヤオモモちゃんに感謝でしかない。
そしてついにチャイムが鳴り、プチ勉強会は終わりを告げた。
ノートには求め方やそれぞれの記号の意味などが丁寧にメモされている。
するとドアがガラガラと音を立ててゆっくりと開いた。
その瞬間A組のみんなは一斉に席につき、沈黙が流れる。
みんなの表情には少し驚きが現れたものの、またいつもの表情に戻る。
声色からしてあまり気分はよくなさそうだ。
私は落ち込んでいる人に変なテンションで絡みに行ってしまった…!!
自分の失態に気づき、少し俯く。
緑谷サンの方が大きく震える。
私は緑谷サンが個性把握テストの時にかなり厳しめに叱られていたことを思い出した。
消しゴム頭サン…先生の目からは静かな怒りが伝わる。
少し大きめの返事をすると、先生の目からは怒りが消える。
教室の雰囲気は一気に明るくなると共に、賑やかになった。
立候補するようなガラではないが、どうする私ー!!












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!