第5話

ケルツェンゲラーデ
258
2025/07/17 21:54 更新
橙ウマノスケ
ライリュウくん!
紫電院ライリュウ
……橙君。お久しぶりですね。
胸に「雷」のピンバッジをつけた男子、電__紫電院ライリュウがゆっくりと振り返った。
橙ウマノスケ
お久しぶりです。じゃないですよ…!
君はまだあんな願いを抱いて…!
紫電院ライリュウ
「あんな」……ですか。
紫電院ライリュウ
ウマノスケくん。この国において、刑法犯が社会復帰した後、もう一度罪を犯す割合_____所謂いわゆる再犯率がどの程度か知っていますか。
橙ウマノスケ
…知りません。ですが。
ウマの声に構わず電は勝手に続ける。
紫電院ライリュウ
15.7%と言われています。そして、犯罪者のうちの再犯者の割合はほぼ5割。
そして近年の経済混乱や社会問題を鑑みれば、これからも犯罪者や再犯者の数は減らないでしょう。

そういう電の声は、この世の闇を一身に集めたような、暗くて冷たいものを帯びているようだった。
紫電院ライリュウ
……分かりますか。刑法犯はいつまで経っても反省しないんです。
受刑者の更生を使命とする刑務所に何年収容されようがお構いなし。
奴らはのこのこと善人のためのこの社会に戻ってきて、また犯罪を犯す!
人間を心の底から改心させることなんて不可能なんです!
電の声は憎しみに満ちて震えていて、心なしか電の目は濡れていた。
円卓を叩く鈍い音がドームいっぱいに響き渡り、電は床を蹴って立ち上がる。
紫電院ライリュウ
そういった輩を赦してはならない。
地球上の誰が赦そうと、このボクが赦さない!
決意の雷に爆ぜていた声色が、一気に嘲りの色に染まって、続く言葉を紡いだ。
紫電院ライリュウ
執事やメイドから聞いたことがあります。
世間では、受刑者さえも人権が保障されるべきだのなんだの……
デモまで起きているそうですね。
そういえば桔梗路会長も嘆いていた。
最近はデモが多すぎるとか。
紫電院ライリュウ
……獄が狭い?刑務作業が重い?メシが不味い?
犯罪者にも人権はあるのだから最低限度の生活を保障しろ……?
紫電院ライリュウ
そんな奴ら「糞喰らえ」でしょう…!
犯罪者に甘えなぞ許されません!ましてや罪を犯した者を養うだけの負担を善人が負う道理なんてあってはならない……!
そこで電は、取り乱したことを恥じ入るように椅子に腰掛け直した。
紫電院ライリュウ
ですから。
優しいボクが、手を打ってあげるんですよ。
電はドームの天井に映る宇宙を見上げて続けた。
紫電院ライリュウ
不老不傷不死のまま、酸素も水も食物もない宇宙に放り出してあげます。
狂気じみた笑いが空間を埋め尽くす。
その源が電だと気づくまで時間が掛かった。
紫電院ライリュウ
良かったですね、刑法犯の皆さん。狭い檻に閉じ込められることも、苦痛な刑務作業をすることも、臭い監獄食を食べることも無くなるんですからね…!
紫電院ライリュウ
……ボクの望む世界は、優しい人間、善人だけで構成された美しい世界です。
その世界では、犯罪を犯した者は、どんな強者であろうと正しき『法の下の平等』に基づき断罪されます。
紫電院ライリュウ
…皆さんはどうなのですか。
社会的強者が『法の下の平等』をみだしている現状に不満はないのですか?
誰もが何も言えず、電が少し困ったような笑みを浮かべた。
紫電院ライリュウ
…「灰払」。「桔梗路」。「嗅月かぎつき」。
檸檬里ムササビ
(…?)
自分だけじゃない。
ほとんどの参加者が、電の言った家名の意味を理解していない。

___でも、どれも名家だということは分かる。
紫電院ライリュウ
こういった特定の人間たちが、ボクの家業を盾に、法の抜け穴を突いて身勝手を押し通している!
なのに!社会的に弱い人々や経済的な余裕がない人々は、メディアで氏名と顔が晒され、ネット上でさんざんに叩かれ、自殺を図るほどの嫌がらせを受け!
激しかった表情が消え、儚げな笑顔に変わった。
紫電院ライリュウ
……挙げ句の果てには裁判で負け、罪を負わされるんですよ。
紫電院ライリュウ
君たちも公民で学んだはずでしょう。
「司法権は独立し、裁判官は己の良心によって公正な裁きを下す」と。
紫電院ライリュウ
でも実際には、『法の下の平等』がカネと力によって蹂躙じゅうりんされている…!
紫電院ライリュウ
そんなの、
あまりに不公平じゃないですか。
天井に投影された星々の中のたった一つが、濃紫こきむらさきの光を放ち煌めいた。
紫電院ライリュウ
ボクの願いは、「全ての刑法犯に死を与える」。
これは不変です…!

数拍の静寂の後に沈黙を破ったのは、プレなんとかの二人だった。
山吹クジャク
……でもさ、ライリュウちゃんの願いって、犯罪を犯した人の改心の機会を奪うってことじゃない?
紫電院ライリュウ
繰り返しますが、犯罪者の全部が全部、改心をするわけではない。
そういった人間が善人のための社会に戻ってきてはなりません。
露草シーラ
…いや、だったらCDがそんな仕事を受けなければいいじゃん。
紫電院ライリュウ
君の言った中途半端な手法で、富とコネをバックにした差別や不平等を根本的に解決できますか、露草君。

露が押し黙った。
そして、いつの間にか全員がドームに集まって電の話を聞いていることに気付いた。
御影コウモリ
メイリュウ。お前も願いがあるだろ。
言え……というか、宣言しろよ。
闇夜院メイリュウ
……そうだね。

そう言ったのは、ゴシック風の衣装を身に纏い、胸に「冥」のピンバッジをつけた女子だった。
闇夜院メイリュウ
……メイの願いは、「ヒトと全く同じ生理機能を持った、人造人間ホムンクルスの創出。」
橙ウマノスケ
あなたもですか…!
淡雪マイマイ
ウマノスケさん、気持ちは分かるけど一旦落ち着こ〜?
メイリュウさんの話を聞くのが先。
橙ウマノスケ
…そうですね。失礼しました。
雪はウマを制止し、ウマは競走馬のようにぶるると息を吐いた。
とはいえ、自分もウマの気持ちは分かる。

唐突に人造人間を創出する、なんて言われて
「はいそうですか」
なんて言える方がおかしいだろう。
闇夜院メイリュウ
___現在、医療は飛躍的な進歩を続けている。でも、技術面の進歩だけでは新しい治療法や新薬は開発できない。安全性を確認し、厚労省の認可が必要になる。そのためにメイたち医療を手掛ける企業は臨床実験を行う。第一段階は実験用のラット、或いはハムスターなどの類の小動物で。……そして、第二段階はヒトで。
闇夜院メイリュウ
第一段階はまだマシ。ラットなんてそれこそ山のようにいるし、人為的繁殖も容易。……そこまでは良い。
含みのある闇の言葉の切り方に、みんなが不穏な空気を感じる。
闇夜院メイリュウ
問題は第二段階の、ヒトでの臨床実験。それを人権と呼ばれる物が邪魔している。

お前たちが死後の臓器提供の意思さえ示せば助かる命も多いし、臓器を使った臨床実験も実現されるはずなのに。お前ら庶民は大した理由もなくそれを拒絶する……!
闇夜院メイリュウ
「死んだ後も精神は残っていて、臓器を取り出されたら痛いかもしれない」?「自分の血肉が他の人に入るのが嫌だ」?
ふざけるのも大概にしたらどうなの…?お前ら庶民はなんでこうも非科学的視点から技術を恐れ、困っている人を見殺しにするの。
闇夜院メイリュウ
ああ、安心して。メイはオウくんとかと違って、望まないことを強いたりはしない。自分の臓器は自分の所有物だからね。
闇の笑みが嘲りを含む。
闇夜院メイリュウ
だから、人造人間スペアたちを用意するんだよ。
紅島アゲハ
スペア……?
何の代わりにするって言うのかしら?
闇夜院メイリュウ
……ベニちゃん、話聞いてた?
血や骨髄や臓器のスペアにするって。
紅島アゲハ
人間が人間の代替品になるわけないじゃない。
人造人間って言っても憲法で守られた人権はあるんだし……
闇夜院メイリュウ
ああ、言い忘れてた。
人造人間ホムンクルスには、一切の人権を与えないから。
露草シーラ
えぇ……?
山吹クジャク
えーっと、それはつまり……
闇夜院メイリュウ
自由権、平等権、社会権、参政権、請求権。基本的人権の5大要素全てが彼らには認められない。
……分かりやすく言うなら、誰がホムンクルスを殴っても、警察を含めて誰も咎めないし、裁判に訴えられることもないし、そんな状況を変えるために選挙で投票することすらホムンクルスには認められないってところかな。
銀条シャチ
………はぁ。
それで傷つくのはあなた自身なのに……
銀が何か言って、闇が少し動きを強張らせた。
橙ウマノスケ
それに、メイリュウさん…!
人造人間と言っても彼らには感情があるんですよ…!
闇夜院メイリュウ
そうだけど、何か不都合があるの?ダイくん。
橙ウマノスケ
え、それは…
……何もしていないのに命を奪われるのは可哀想、ですから…。
闇夜院メイリュウ
ほら、感情論に帰結する。
そもそも人造人間ホムンクルスはそうやって命を奪われ、人間社会にドナーとして貢献するのが役割なんだけど。
檸檬里ムササビ
自分はむしろ社会の中でのホムンクルスの立ち位置について問いたい。
ホムンクルスに人権が無いなら、ホムンクルスたちはストレスの溜まった人間たちのサンドバッグにされるんじゃないか。
闇夜院メイリュウ
否定はしない。
でも、その反論はメイの願いの副次的効果として機能してくれる。…ヒトはその性質上、仲間外れを作り攻撃することに快感を覚えるように作られている。そして今もそういった理不尽な差別に苦しむ人間がいる。
そこに人造人間ホムンクルスという存在は入ってきたらどうなると思う?レモちゃん。
突然反問されて自分は少し戸惑った。

…人権を持たず、サンドバッグにされ放題の人間もどきが現れるのだから____
檸檬里ムササビ
…リンチのターゲットが人間からホムンクルスに変わる。
闇夜院メイリュウ
そういうこと。
メイの願いは、副次的に人間社会の中でのカーストを弱め、新しい“弱者”を生み出すことにつながる。
淡雪マイマイ
人を救うために他の人を犠牲にする、ってこと〜?
……それはマイマイさん、卑屈な考え方だと思うな〜…
闇夜院メイリュウ
…繰り返す。
メイの願いは、「ヒトと全く同じ生理機能を持った、人造人間ホムンクルスの創出。」
医学はこれによって、倫理を保ちつつ神秘の領域に踏み込める。
御影コウモリ
…みんな。
納得できないことも多いと思うし、おれだってライリュウたちの願いには反対だ。でも、このゲームではみんなで協力しないと全滅だ。
紫電院ライリュウ
御影君の言う通りです。
一旦この話は脇に置いておいて、まずはこのゲームに勝つべきでしょう。

そうは言ったものの、影も電も歯痒そうな表情を隠せていなかった。

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