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第4話

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2026/02/28 08:10 更新
サンウォンside


sw「いらっしゃいませ」
「ご注文はお決まりですか?」

出来るだけ愛想を振りまかないように、だけど最低限の笑顔は忘れずに。
これは蝶である自分が一般社会で上手く生きていく為のおまじないのようなもの。

だけど、上手くいく日ばかりじゃない。
今目の前に居る客はきっと蜘蛛だ。
僕を見つめたままフリーズしている。


sw「……あの、、」


js「お客様、お気分が悪そうですが大丈夫でしょうか?」


どうすれば良いか困っていると、奥からジュンソヒョンが助け舟を出してくれた。
ヒョンに声をかけられた客は、ハッとしたように、何となくバツの悪そうにして店を後にした。

あぁ、僕のせいでお客さんが1人減ってしまった。


js「サンウォンのせいじゃないからね」

sW「っはい…ありがとうございます」


立ちすくむ僕の心情を見抜いたかのように優しく声を掛けるヒョン。
本当に……ヒョンの優しさに何度救われた事だろう。

この顔せいで、幾度となく仕事をクビになった。
そんな時に声を掛をけてくれたのがこのカフェのオーナーであるジュンソヒョンだ。
ヒョンはバースの無い普通の人間だが、蝶に対して理解が深く安心して働く事が出来た。

ちらっと聞いた話では、蝶の恋人がいるそう。
同棲しているらしく、店の閉店時間が迫ると明らさまに笑顔の増えるヒョン。
分かりやすくて可愛いなぁと思う。

僕と同い年だから今度紹介したいと言って貰えた。大切な人を紹介したいと思って貰えるなんて、信頼されている気がして嬉しかった。
あの大真面目なヒョンがぞっこんな恋人。
さぞかし綺麗な蝶なんだろうなぁ。







チリン…
ドアベルが軽快な音を鳴らす。


sw「いらっしゃいま……」


思わず目を丸くする。
だって、そこに立って居たのは高校を卒業してからずっと探していた彼…リオだったから。


lo「カフェモカ、チョコとシロップ追加で」

sw「あ...はい!かしこまりました。」


彼に気を取られ、すっかり自分が店員だと言うことを忘れていた。
それに、意外と甘い物が好きなんだと知れて何だか嬉しくなった。見た目によらず可愛いオーダーだ。


lo「あ...それとこれも」

sw「...!ありがとうございますㅎ」


彼が手にしたのは自分が今朝、試作品として作ったアイシングクッキー。ひとつも売れなくて落ち込んでいたけど、彼に買って貰う為に残っていたのだと思うと元気が出た。


sw「...ふふっㅎㅎ」

lo「え……?」

sw「あっ、ご、ごめんなさい...!!」
「僕が作ったクッキー、今日初めて売れたので嬉しくて...」


その時、ずっと目線の合わなかった彼と初めて視線が絡んだ。
瞬間、彼が少し目を見開いた気がするのは気のせいだっただろうか。


lo「...じゃあこれ、全部買います」

sw「えっ、全部ですか?」







──────







カウンター席の一番端に座り、パソコンを開いてカチカチとタイピング音を鳴らす。
何故か少し照れ臭そうに可愛いクッキーを買い占め、激甘なカフェモカを喉に流し込む彼に僕はもう釘付けだった。


sw「...イ・リオ」


間違いない。
だけど、なんて話しかけるべきか全然分からない。

"僕の事覚えてますか……?"
あぁ、ダメだ。これだとあっちが覚えていない場合完全にナンパみたいになってしまう。

"リオさんですよね"
うーん、これもどうだろう。何で名前知ってんの?とか思われたらやだなぁ……。

はぁ、どうしよう。
僕は何も手につかず、ただ無意味にコーヒーメーカーのフィルターをずっと付けたり外したりしていたと思う。
……ジュンソヒョンごめんなさい。

そうこうしている内に、彼がカフェモカを飲み終わってしまったようだ。
チャンスは今しか無い。
頑張れ…腹を括るんだイ・サンウォン……!!








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