目の前に広がる、鮮やかな緑色。
優しい風に撫でられふわりと靡いている
ほんの少し先には、僕の、愛おしくて、恋しくて、傍にいるだけじゃ足らない、
どこまでも僕を貪欲にしてしまう人
手を伸ばしても、届きはするものの
君の隣にはいつも、僕じゃなくてあいつが……っ
ガララッ
勢いよく戸が開かれる音で目が覚める。
こいつは同室の一人。潮江文次郎
忍術学園一ギンギンに忍者している、会計委員会委員長様だ
どうやら僕は授業終わりに疲れて眠っていたらしい
生憎、あまり気持の良いとは言えない夢だったから、起こされてよかったと思う
手に持っていた10㎏算盤を床に置くと、片足をつき、僕の前に跪くような形になると
じろじろと濃い隈を携えた目で、体調が悪いか観察される
少しきつく当たってしまった。
昔の僕の行動を見守ってきた同室だからこそ心配になるのはわかるし、有難い事なのだか
どうにも優しくされるとむず痒い……。
スっと、文次郎の後ろから長く整えられた髪がさらりとなびく
こいつも、同室の一人。立花仙蔵
作法委員会委員長。いつどこでも完璧な男だ
仙蔵はそう言いながら、僕の肩に手を添え、
「言ってみろ、もんじならまだしも私なら怖くないだろう。」と
整った顔で言われるので無性に腹が立つ
照れ隠しに不貞腐れてみると、湯浴み着を準備し、速足で廊下に出る
文次郎を遠目で見送ると、仙蔵と並び廊下を渡る。
同室だから、普段話すことは話し尽くしているため、ただ廊下のきしむ音だけが響く
別に気まずくなどない。沈黙の時間なんてこの六年間、何百回とあった
橙色に染まる空をただ意味もなく眺めていると、後ろから声が降ってくる
くつくつと笑う色白の男を前に、先ほどの自分をそんなに嘲笑われるなんて……と
顔がじんわりと熱くなっていくのを感じる
あの人の隣で笑えるのは僕なんかじゃない。
そんな事実をことごとく突きつけられる
そんな思いをするたびに心臓が張り裂けそうになる。
歩む足を止め、月の見え隠れする夜空を見上げる。
あぁ、泣きそうだ。今が布団の中なら存分に泣き喚けたのに
頑張って上を向いて、溜まった涙が溢れないように、
頑張って、我慢して、気持ちを押し殺して。
そんな努力は水の泡で
いつにもなく優しい声色が、僕の心を撫でるように、毒の染みた傷口へと語りかけてくる
この男はどこまで完璧なのだろうか。
決して今欲しい言葉がはっきりしていたわけではないが、
仙蔵のかけてくれる言葉は、どれも直に心に響いてくる気がする。不思議だ
表面では怒ってるものの、こうして悩みを暴露できる同室の存在に如何に助けられていることを実感する。
「同室だろう」
案外悪くない響きかもな…。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。