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第1話

体調不良な受けを優しく看病する攻め
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2024/12/06 10:19 更新
朝、目が覚めると和人が横で微睡んでいる。ふ、とその幸福を噛み締めて微笑んだ。

俺は小山直樹。社会人3年目の27歳、彼氏持ち、高収入と幸せな日々を過ごす…はずだったのだが、会社での残業に次ぐ残業、パワハラに次ぐパワハラでくたびれて萎びている。同棲している直人にはこんな思いはさせたくない。だからこそ俺が頑張って仕事しなければ。

そんな風に仕事に向けて準備しながら思っていると、和人が起きていて朝食を作ってくれている。おいしそうな匂いがキッチンからふわぁと広がりこの家に幸福感が広がってゆく。朝の始まりから和人が楽しそうに料理をしてくれているとなんだか元気が出てくる。
「直樹さん、ご飯食べましょ」
「うん、いただきます」
目玉焼きにベーコン、ウインナー、トースト、どれも美味しそうに盛り付けられていて、元々少食ながらも全て食べきってしまうほどに美味しい。朝食を食べながら和人が話した。
「直樹、最近疲れてません?目の隈がひどくなってる。体を壊しますよ、時には休むことも大切ですからね」
あまりにも心配そうに俺を見つめて言うもんだから自分で自分が心配になったが、仕事に行かねば和人を養えない。さあ、仕事に行くぞ、と心の中で意気込んだ。
「大丈夫だよ、このくらい、バリバリ働けてるってことだよ」
「そうですか…?無理はしないでくださいね」
「和人も3回生はきついでしょ、家事も無理しないでよ」
和人は大学生だから仕事はしていない。俺の3つ下だ。
「俺はいいから自分の心配してください…」
少し呆れられてしまったみたいだった。
「じゃあ、そろそろ行ってくる」
「直樹、行ってきますのキスはナシですか?」
「いや、いいでしょ、そんなの…」
照れてもごもごしていると勝手に俺の何倍も上手いキスして
「いってらっしゃい」
なんて良い顔で言うから顔を真っ赤にしながら家を出た。

それからは通勤ラッシュの満員電車に揉まれ、朝から無理仕事を強いられ、少しのミスで怒鳴られ散々だった。いつもよりずっと酷かった。いつもは怒鳴られるだけで済むのに…
昼は和人の作ってくれた美味しい弁当をエネルギー補給に、ゆっくりは食べられないけど完食した。
午後からも激務に追われ、残業3時間で酷くげっそりしながら帰った。
「ただいま〜」
そう言いながら寝室へ入り、着替えてから出てこようとした。その時ふらっと目の前が暗くなりその後で真っ白になってからの記憶がない。

「直樹さん、直樹さん!良かった…」
気が付けくとベッドに寝かされていた。和人が俺を運んでくれたんだろう。よほど心配していたのか俺の手をぎゅぅっと握りしめてベッドの傍に座っていた。
「ごめん…心配かけて」
「本当に、心配した…だから体調気を付けてって朝言ったのに…」
「仕事終わんなくて…はは…」
そんなことを言っていると頭がガンガン痛くて、体が熱っているのを感じる。
「うぅ……」
「直樹さん、大丈夫?」
「頭…やばい…いたい…」
「直樹さん、熱ありそうですね…体温計入れますよー…」
和人に支えられ自分では動くことも難しいので仕方はないがなんとなく情けない。
「えっ!?、40度!?」
「大声出さないで……」
40度の熱に大声は響くようで辛かったので布団に潜った。
「直樹さん、取り敢えず…俺、熱用セット持ってきますね」
熱用セット…?聞き慣れない言葉に困惑しながらも頭痛やだるさには勝てないままベッドの上で待った。
「直樹さーん、起きてます…?」
「う、うん、起きてる」
そう答えると同時におでこにひやっとしたものが貼り付いて、和人が俺の頭を抱えて布団に下ろされたと思えば頭がひんやりと心地よくなる。
「今、冷えピタと氷枕置きましたよ、冷たくて嫌な感じとか無いですか?」
「うん……大丈夫…」
ゆるゆると気分が解れていく。頭がうまく回らないがむしろそれすら心地良い。
「直樹さん、そろそろ晩御飯にしましょうかね」
「うん……」
頭は痛くて、あまり話は入ってこないけど空返事をした。和人がキッチンの方へ行ってみたいだった。気づけば頭の痛さでゆっくりと眠ってしまっていた。
「直樹さん…起きれますー?」
「ん…うん……」
和人の声に起き上がると寝る前と比べると断然体が軽くなっていた。頭痛も少し治まり楽になっていた。ぬるくなった冷えピタを剥がして汗を拭った。
「お粥、作ってきましたよ」
和人が梅粥を作ってくれたようで温かい粥をベッドの横でよそってくれている。
「ありがとう…」
「このくらい、当然ですよ、直樹さんのためなら…」
ふふ、と和人は優しく微笑みながらふぅふぅ、と冷ました粥をスプーンで差し出した。
「口、開けられます?あーん…」
「あー…ん…」
温かい粥が身に沁みてつい笑顔になる、胃へと温かい粥が沁みていくのが分かる。
「美味しい、ありがとう、和人」
「良かったです。やっぱり寝不足ですかね…?」
残業は11時にもなることもあり、近頃眠れる時間も減っていた。心当たりしか無い指摘だった。
「多分…そうだと思う、ごめん、迷惑かけて」
「大丈夫ですよ、直樹さんがゆっくり休めるのが一番ですし」
「うん…そうだね」
「可愛い、直樹さん」
「今言うのかよ」
「今だからですよ」
ちゅ、と啄むようなキスをおでこにされ、顔が火照るのを感じる。咄嗟に布団の中に逃げ込んだ。
「や、やめてくれ…」
「直樹さんは照れ屋さんなんだから」
ふふ、と愛おしそうに和人が微笑む。
その次の瞬間、頭を殴られたように痛み、ずきずきと痛みが強く差した。
「う……ぁ……」
痛みに耐えかねてうめき声をあげた。
「直樹さん、大丈夫ですか、直樹さん、」
「う…ぉえ……かず…と…せんめんき…」
「は、はい…」
和人に洗面器を頼み、俺は嗚咽した。なぜかその方が楽になったからだ。
「な、直樹さん、ここ、どうぞ」
和人から洗面器を受け取ったら抱えそこにえずきながら吐いた。胃液だけが出て痛い。苦い味が広がってきもちわるい。
「大丈夫大丈夫…吐いたら楽ですからね…」
和人が俺の背中を優しくさすってくれる。和人に凭れて体の力を抜く。ぼーっとして頭が回らない。でも、強い痛みはなくなっていた。
「直樹さん、ちょっと横にずらしますよ」
「うん……」
和人に動かされるままにベッドの奥へ動いた。俺の吐瀉物を片付けてくれているようで洗面器や床を掃除してくれている。情けない…もういい大人なのに、年下の恋人に世話されて…本当に情けない…
そう思っていると和人がベッドに入ってきて俺を抱き締めた。
「直樹さん、大丈夫ですからね、体調悪いときは俺を頼ってくださいね、俺、直樹さんのこと、支えてあげたい」
なんだか和人の背中が大きく見えて、抱き返す力も弱々しくなった。でも、安心して涙が目の奥から流れ出してくる。次から次へと涙が溢れて止まらなくなった。
「泣いてもいいんですよ、大丈夫です、俺が側にいますから」
そのまま、とんとんと背中を優しく叩いて撫でる和人の手で眠らされてしまった。

翌朝、体調不良になるほどの職場ではやっていけないと思い、転職することにしたのはまた別の話…

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