【過去のはなし】
ポロポロとフィリックスの瞳から涙が流れ続けている。
私は手を伸ばしてそれを拭った。
泣いていても太陽のようにキラキラと辺りを照らしていて、その涙はまるで宝石のようだった。
私たちが似ているのは顔の造形だけだ。
こんな風に美しく泣くことなど自分には到底出来ない。
それでもフィリックスのことを自分の分身のように感じていた。
お互いの感覚や感情を共有している、
この不思議な繋がりは出会った瞬間から存在していた。
おかしなことに私の口元はさっきから微笑みを浮かべていた。
そして泣き続けるフィリックスの手を力を込めて握って、もうやめてくれと心の中で叫んでいた。
魂を共有出来る人に出会えたことは震えるほどの喜びでもあり、自分自身を誤魔化すことが出来ないという苦しみでもあった。
気づかないふりをして進もうとしても、いつだってフィリックスは泣いている。
私の涙を全て引き受けたみたいに。
何よりも何よりも大切だった。
だから誰にも理解されなくても、後ろ指をさされても。
ヒョンジンを守ろうとする周囲の人間に強く非難されても。
それでも側にいたかった。
でもそれは終わりを迎えた。
これは置いて行った方がいい。
フィリックスは私の指にはまったリングを指さしてそう言った。
何も持って行っちゃだめだ、思い出は心の中にだけあればいい。
それを見つめて、ヒョンジンがプレゼントしてくれた朝を思い出していた。
寝ている私を起こさないように、彼はそっと指輪をはめようとしていた。
私は寝ているふりをしていたけど、手こずる彼の姿に思わず笑い声を漏らしてしまった。
あれは確か誕生日の朝だった。
フィリックスのその言葉にいつの間にか怯えなくなっていた。
以前感じていたぞわりとするような不快感は綺麗に消えて、素直に頷いている。
気づかないうちに自分も変わっていることに気づく。
こうやって前に進み続けるべきなんだ、彼の手を握り続けながら私は自分に言い聞かせる。
ありがとう、こんな勇気をくれたのはフィリックスだよ。
心の声は口にはしないけど触れている手から伝わっていることが分かる。
フィリックスが私のもう片方の手を取って、自分のおでこと私のおでこをコツンとつけた。
私たちは友達とも恋人とも兄弟とも違う。
半分にかけた魂の片側同士。
これから先何があってもそれだけは変わらないことだと分かっていた。
ーENDー











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!