相変わらず誰もいない部屋。
相変わらず放置してある水の入ったコップ。
もう私はここに取り残されない。
もう全部脱ぎ捨てる。
寂しさに満ちた部屋も
割れた鏡にうつる寂しそうな私も
もうずっと目を合わせてくれないグクも
全て脱ぎ捨てるんだ。
ここからいなくなるんだ。
私は握りしめたスマホを開いて数字をうった。
「0、9、0、……」
プルルルルルと、鳴り響く携帯。
[はい]
聞こえてきたのは彼の声だった。
「テ、ヒョン、さん。」
[あなた…ちゃん?]
「私、私、ここから逃げたいです。」
「もう1人で寂しい思い、したくないです。」
[うん]
「テヒョンさん、」
「迎えに、来て欲しい…」
もうどんな感情だったか、
涙が溢れて彼がなんて返事をしたのかも覚えていなかった。
でもこれだけは覚えている。
[待ってろ。]
彼がそういった事。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!