第3話

2話『名は体をなさず』
3
2025/11/04 13:00 更新
『この世の中は不変に紛れている』


『もう二度と帰ってこない彼を待つ彼女の姿』


『二度と帰らない希望を胸に残す』


『焼き付けられたその光景を見て私たちはそっと世界に言いました』


『希望など最初から存在していないのです。』
あの後,彼女は涙をふいて辛そうな顔をし,病室を出ていった。また暇な病室で何を考えるわけでもないが考えてないと暇だった。兄が死んだ。それは辛いことだし僕が一番恐れていたこと。兄といると味方がいた気がして嬉しかったし楽しかったんだ。面会時間はもう終わったから今日はもう来ないだろうし,だとしても暇すぎる。

暇すぎて隣の部屋のおじさんがなぞにオススメしてきた本でも読むかと思ったがあのおじさんデジタルでなく本で渡すなんて思いもよらなかった。

「本も暇だし,早く阿雲さん来ないかなぁー。」

一瞬あれ?と思った。いやいやなんで阿雲さんに会いたがっているのだと考えた。18になって未だに思春期かよ。それにしてもまだ面談時間じゃないし。ニュースでも見るかと思い病室のテレビをつけるが相変わらず世界情勢で騒がしい。

「ったく,地球環境がどーのとか言ってる割には兵器作りまくってるし。ここも海面上昇して防波堤で防いではいるがいつ防波堤が崩れるかだ。」

ここは本当は海になっている可能性が高い地域なんだ。だが大規模に三段積み上げられた防波堤が崩れる可能性はある。壊れれば東区の防御はUVバリアだけになってしまうからだ。それを懸念し,今も海では開拓作業と水抜き作業が行われている。

昔の人は海を泳いだに海の幸を食べたという。上手く自然と調和していたのだろうが,今はそんな話ではないのだ。自然と調和なんてもうとっくに諦めたところなんだ。自然を気にしている割には何故核戦争なんて起こしたんだ。

「三葉さん,阿雲さんが面談しにきましたよ。あと,面談終わったらリハビリですからね。」

近くにいた病院関係者の人がそう伝えると阿雲がやたら色んな荷物をもって入ってきた。昨日とは違い洋服で髪もおろしていた。だがなんでワンピース?

「このお菓子あげる。あと暇つぶしにスマホ買ったからこれ使っていいよ。あと私の収集してる漫画。」

「え,いいの?特にスマホとか高いでしょ。こんなに貰って悪いよ。」

阿雲は表情を変えることなくめちゃくちゃ頷いてグッドを手で表現していた。子供みたいな人だなと思った。人を弔うのが仕事だのどーのだったし。多分かなりの稼ぎはあるんだろうな。

「そういえば阿雲さんって何歳なの?」

阿雲はそそくさと近くの椅子に座ると迷った顔をする。だが少し気になっていた。見た目で年齢判断するのは良くないが実際13歳くらいにしか見えん。

「13なんだよね。人は弔うけど戦場にはいかない。」

「ま,だろうねとは,思っていたけど。年下だ。」

なんか年下と思うとやっぱり納得がつく。だが稼ぎとしてはこの人か一番なんだろと考えるとなんとも言えない複雑さが心に残る。

というか,退院したら施設送りになるのだろうか。

「ねぇ,”阿雲”さんってそれ本名なの?」

何となく聞くと阿雲さんは「え…?」と無意識か困惑の声が出る。
なんであんなことを言ってしまったのだろうか。あの後阿雲さんは調子が悪いと言って出ていってしまった。

質問した時阿雲さんは顔色を悪くしていた。けれどどうしても気になってしまったのだ。

阿雲というのは昔の童話に出てくる嫉妬をし,仲間をなんども裏切り殺したと言われる悪魔の名だ。

そんな童話はかなり有名でそんな空虚な悪魔の名を娘に付けるはずがないしおそらく命名をする時必ず止められるほどに浸透した童話だからだ。

それは童話とは言えないほどに残酷な話であり実話であるという説まである程だったのだ。

そんな名をつけることは許されていないのに,彼女はそんな空虚な悪魔の名を持っている。

本当は名前なんてものないのかもしれない。

そんな事が頭に過ぎったがそんな事が有り得えないとも限らないのが怖いところだった。

「阿雲は,何を隠しているんだろうか。」

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