第23話

百合の剣と薔薇
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2025/08/15 02:30 更新

SHOTA,W

 目が覚めると、上質ではないものの清潔な寝台の感触。質素ながらに綺麗に整えられた部屋。……あぁ、そうだ。俺……母上と決別してそれで……。

 はぁぁぁぁぁっ! そうだぁぁぁ! 涼太にとんでもなく破廉恥なことをしたんだったぁぁっ! お、俺……一回殴られないとだめだ。やっぱり、どうかしてる……。

 と一人でのたうち回っていたら、隣の部屋からすごぉく見慣れた人が入ってきた。

「しょっぴー、何してるん?」
「……あぁ、康二」

 そうだった。ここ康二の家だった。
 行く宛もなく歩いて、ただひたすら歩いて精霊の森まで来た俺達。暗くなってきたし、外を歩き回るのは危ないと判断して森で過ごすことにしたものの、これからどうするかってのも全く考えずに飛び出してきたもんだから途方に暮れてた。
 そこで、たまたま康二に会って……なんと精霊の森に住んでたってわけだ。

「ほらほら、お貴族様なんて優雅なご身分でももうないんやから朝から起きー! 今日は薪割りしてもらうで」
「薪割りだぁ?」
「まだ雪解けが始まったばっかやからなぁ。夜はまだ冷えるで。凍えながら寝るのがいややったら薪割りがんばって」
「……涼太は?」
「舘はめめとラウと一緒に訓練しに行ったで? ここからちょっと離れた所に精霊の森の守護者たちの根城があるから」
「……そうなんだ」
「……詳しい話は舘から聞いたから、しょっぴーからは何を報酬にもらおっかなぁ」
「はぁ?」
「……二人の馴れ初めとか? 売ったら高く売れそうやん! 花の一族嫡男とその義弟のラブロマンス……どや?」

 ……コイツには倫理観というものはないのか? もうとっくに捨ててんのか? わかんねぇ……。とはいえ、ここに置いてもらうしかない以上、こいつには対価を支払わなければならない。

「……わかった。だが、何も突っ込むな」
「はいはい」


 涼太と出会ったのは、俺が7歳を迎える前だ。貴族間では7歳までは親同士が余程仲が良くなければ同世代の子でも会うことはない。涼太の父親と、俺の父親は仲が大層良くて、だから涼太ともその時から会っていた。
 今の騎士隊長に相応しい凛々しさと反対にその時はどんくさくて、なんかぼーっとしているような子だったから、俺はお兄ちゃんぶって手を引っ張っていた。

 10歳になって貴族院に通い始めると、俺と涼太ふたりとも騎士を選択して、何なら勉学が苦手ということすらそっくりで、双子のようだと言われることもしばしばあった。
 その頃には、俺の心には涼太への特別な感情があったし、多分涼太も俺に対してそういう感情を抱いていただろう。
 俺は12歳の時、周りが恋人を作り始めるくらいの頃に、春の女神が訪れたことを涼太に告げた。あいつは嬉しそうな、噛みしめるような顔をして、俺のマントに口づけしたのを覚えている。

 幸せは束の間、その次に訪れたのは最悪だった。

「……涼太……」
「…………」

 見開かれた目からは涙も出ず、乾いた目には何も写らず、ただただ広がる残虐な景色を見つめていた。
 涼太だけが生き残った。涼太の目の前で涼太の両親も妹も、他の異母兄弟や従兄弟たちも惨殺されたのだ。なぜ、涼太だけが生き残ったのか、俺はその現場にいなかったからわからない。だけど、不覚にも俺は……涼太が生きていてよかったと思った。

 だけど、それからは地獄のような日々だった。父上は涼太を養子にすると決め、涼太は14になる頃には俺の義理の弟になっていたのだ。
 そりゃあ、養子縁組を解消したら結婚だろうが恋人だろうがなれないことはない。だが、皮肉にも俺は最上級貴族、花の一族だ。結婚相手にはそれに相応しい財産と身分がある人でなければいけないという。
 俺からしてみればそんなものはいらなかった。だけど、父上も母上も、当然それを許さなかった。

「翔太様」

 涼太がそう呼ぶ度に、俺の心に憤りが募っていった。どこにもぶつけようのない怒りを、苛立ちを涼太だけにぶつけた。涼太は何も言わずに困ったように笑うだけ。……それが余計に腹が立って、それ以上に膨れ上がっていく恋心に蓋をした。

 そう、彼は我が家に守られている。そうでなければ身分なんてとうになく、貴族の孤児として他の家で飼い殺されていたか下働きとして扱われていただろう。百合の剣で守ってもらっている。だから、養子縁組を解消できない。そうなれば、当然俺とも結ばれない。

 ……その事実を突きつけられるのが嫌で、逃げて、逃げてばかりいた。

 俺も結婚していなければおかしい年齢になって、俺だけの私情ではどうにもならなくなって、そして、爆発して……母上に全てを打ち明けた。

 母上は俺に頭を冷やせと言うが、頭なんて冷めきっていた。そうでなければあんなこと言えなかった。……もう限界だったんだよ。俺はそんなに我慢強い性格じゃない。涼太みたいに飲み込んで受け入れて、諦めることなんてできなかった。


「んで、舘さんにチューしちゃったわけやな」
「やめろそんな卑猥な言葉」
「何が卑猥や。事実は事実やろ」
「別にそこを切り取る必要はないんだよ」
「……はぁ、まぁ、お疲れさんやったなぁ。まぁ、事が片付くまではここにおったらええよ。精霊の森には国王、ひいてはそれに連なる者は入られへん。なんでかはわからへんけど精霊に嫌われとるみたいでな。……照兄には手を貸してくれるんやろ?」
「……なんでお前が知ってるのかは知らないが、約束は守る」
「おし。なら決定やな。じゃ、しょっぴー薪割りよろしくぅ」
「お、おい、俺薪割りなんてしたことないぞ! 何処行くんだよ!」
「めめきゅんとこに決まってるやんかー。今日これからデートやから!」
「……また俗っぽい言葉を……」

 なんだアイツ。
 ……でも、ようやく肩の荷が降りたみたいだ。……変な感覚。でも、心地よい。……今度こそ、水の女神が導く場所へ、行くことができますように。と、また目を閉じた。

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