俺は作業用の椅子の上で伸びをする。
時計を見ると夜の11時30分を指していた。
ヘッドフォンとメガネを机の上に置き、作業部屋を出る。
ひなちゃんとモカちゃんがゲージの中から寂しそうに鳴いていた。
甘えた声で2匹を撫で、ご飯をあげる。
するとふと、彼女の笑顔を思い出した。
軽く唇を尖らしてひなちゃんとモカちゃんの前にしゃがみ悲しい顔をする。
最近、彼女のなな(ななもり)と会えていない。
前あったのは3週間前。
今度会えるのは2週間後の打ち合わせで。
今、電話したって迷惑になるだけだ。
会いたいよ、そりゃ。
俺の中では将来もずっと一緒にいたい人だ。
あの人は人一倍、責任感と勇気と愛情が溢れている。
一人で突っ走るから自分のことは全て後回し。
支えてやらないと。
俺が。
ななのこと。
1人で全て抱え込んで1人で立ち向かって1人で頑張って他の人以上に喜んで他の人以上に辛い思いして他の人以上に我慢する、あの人を。
最近、余計細くなってたしな。
食生活も悪そうだ。
そんなこと呟いて片手にビールともう片手にサラダを掴む。
そして机の上にはすとぷり公式放送の録画が映っている。
懐かしさに笑いが出る。
放送が終わり、静かな空間になる。
ふ、と人肌が恋しい。
ビールをぐい、と喉に押し込む。
1人でのむ酒は不味い。
慰めの会とは、俺、ころん、ジェルの3人で彼女から受けた傷を慰めるという会。
今までに2回開かれている。
よし、誘おうと2人に連絡を入れた。
スマホを机の上に置いてから、溜息を吐く。
ななは前、俺に迷惑かけたくないからって言っていた。
その時ななに俺の思いを押し付けたくなかったから頑張って頷いたけど、本当はそんなんじゃないから。
本当は頼って欲しい。
頼って欲しいんだよ、なな。
ペタペタと廊下を歩く音が響く。
服を脱いで、湯船に浸かる。
今日の疲れを落とすように溜息を吐く。
しっかり風呂、入ってるかな。
ご飯も、栄養あるやつ食ってるかな。
周りに助けを求めれる状況かな。
ふ、と意識を逸らせばずっとななの心配ばかり。
自分が頼られない理由は自分にあるはず。
俺が頼らないとか、こうやって心配のしすぎとか。
重いとか。めんどくさいとか。
ダメだなぁ、俺は。
パシャとお湯を顔にかける。
呟いて風呂から上がる。
沈んだ気持ちのまま、部屋着に着替えリビングのソファに座る。
すると急にスマホから電子音が鳴り響いた。
びっくりして画面を覗くと、ころんから通話だった。
ころんは俺の言葉を遮るように叫んだ。
…え、ななが?
俺は考えるより先に行動していた。
そう言い置いてから通話ボタンを切り、財布とスマホを掴んで、勢いよく家から飛び出した。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。