第34話

守りたい人
1,050
2026/01/21 17:02 更新




















ゴゥン、ゴゥン…


黒尾 鉄朗
…なーるほどね。そんな事があったのか

洗濯機が回っている間に
私は今まであったことを黒尾さんに少しずつ話していた。



愛莉菜とのこと。



徹とのこと。

黒尾 鉄朗
そのー…大丈夫か?
あなた
え?
黒尾 鉄朗
あ、いや…トラウマになった奴と再会して
嫌な記憶思い出したり…さ

心配するようにこちらを見る。
あなた
あー…はい。ちょっと怖かった…です

愛莉菜の顔を見ただけで心臓が嫌な鼓動を発し、
冷や汗と同時に身体が震えたことを思い出す。


震える指先を止めようと
愛莉菜の前では必死に強がってたけど、


心が、愛莉菜を警戒していた。
あなた
誰にも言えなかったから…黒尾さんに聞いてもらえてちょっと落ち着けました
張り詰めたような気持ちが心の中にあって
こんな臆病な気持ちも、愛莉菜が怖かったことも、
ホントは誰かに聞いて欲しかった。
黒尾 鉄朗
そっか…ならよかった
あなた
ありがとうございます

親や由美子たちはこんな事知らないし、唯一知ってるはじめくんにも言いづらくて誰にも言えなかった。


でも黒尾さんには相談できる。


初めて会った時は、見知らぬ人にならこぼせると思って
軽いノリで愛莉菜のことも言えたと思ってたけど…


今は前とは違う。


私の言葉足らずな話もなにも言わずにこうやって聞いてくれる。


その仕草や声に安心感を覚える。


つい、いつもより心が素直になる。
あなた
…ホントはね、悔しいの
黒尾 鉄朗
ん…?
あなた
怪我させられた日からずっと愛莉菜が怖くて、
…怖くて、嫌いで、許せない相手が…っ、
徹の隣にいることが…嫌で嫌で仕方ないの…

素直な心は、いつもは言えない腹の中の黒い感情。


…想いを伝えたい。


そう思うことは何度もあったのに


その度に愛莉菜の顔と言葉がチラついて、私の声を奪っていく。
黒尾 鉄朗
…そりゃ誰だってそうだろ
あなた
…でも一番嫌いなのは、わたし。
愛莉菜が怖くて堪らない…弱い自分が一番きらい
黒尾 鉄朗
…………………

徹のために自分の気持ち押し殺してる…
なんて綺麗事は自分でも分かってる。
あなた
強くなった気でいたけど、結局私は弱いまま。
負けてばっかり…。守るなんて聞こえはいいだけで逃げてるだけなのは分かってるんです
黒尾 鉄朗
…………………
あなた
あ…、ごめんなさいこんな話ばっかで…!

愛莉菜からも、徹からも逃げて。


大好きなバレーからも逃げた。


弱い自分は本当に嫌い。


そう思えば思うほど、目に涙が集まる。


黒尾さんにバレないようにと、笑いながら目を擦ると


その手を止められた。
黒尾 鉄朗
…弱かねーよ
あなた
黒尾さん…?
黒尾 鉄朗
好きな奴の為に自分の気持ち殺して、
ずっとずっと我慢してきたんだろ?
あなた
…………………
黒尾 鉄朗
自分は逃げてるなんて思うな。
あなたはずっと耐えてたんだ。
誰にでも出来る事じゃない
あなた
…………ぅん…
黒尾 鉄朗
誰も知らないとこでちゃんと戦ってたんだ。
好きなヤツ幼馴染くんを守ってたんだ。胸、張れよ
あなた
…………ぅン…っ

我慢していた涙がポト、ポト…と
私の手を握る黒尾さんの手を濡らす。


否定することしかできなかった自分を肯定してくれる
黒尾さんの言葉がなにより嬉しくて胸がいっぱいになる。
あなた
手、濡らしちゃってごめんなさい…
黒尾 鉄朗
いーよ。てか、これじゃなんか
俺が泣かしてるみてーじゃん
あなた
あはは、確かに…。
でも黒尾さんが泣かしてるのは事実ですよ
黒尾 鉄朗
え、なんでよ
あなた
だってこれ、嬉し涙ですからね
黒尾 鉄朗
そんなら良かった

冗談まじりに嬉しかったことを伝えると、
私にハンカチを差し出してくれる黒尾さん。
あなた
ありがとうございます…
黒尾 鉄朗
鼻、かんでもいいヨ
あなた
! か、かみませんよ

ニヤリと笑う黒尾さんの顔を見て
いつかの電話のやり取りを思い出し恥ずかしくなる。


ホントは鼻の奥がズビズビだけど、イタズラが成功したような笑みを浮かべる黒尾さんについムキなってしまった。

































__…

黒尾 鉄朗
_…んでさ、
あなた
ズビ…はい?
私が落ち着くのを見計らった黒尾さんが口を開く。


下を向いていた顔を上げるとその長い指がスッと私の手を取り
あったかい手に包まれた。
あなた
黒尾さん?
黒尾 鉄朗
このちっちゃい手で傷を背負おうとする
お嬢さんのこと、俺が守ってやりたいんだけど
どうですかね?
あなた
……え…?
ちょっと前までのふざけたやり取りから緊張感のある空気に変わり、黒尾さんの声が低くなったのが分かった。


ギュ…


握られた手が優しく強まる。
あなた
ぇ…と…………、
スリ…
あなた
…!
固まる私の手を握り、
細く、長い指が、優しく私の手の甲を撫でる。


ドキ…
あなた
…………………
黒尾 鉄朗
…無理に幼馴染くんを忘れなくていい。
俺のこと今はまだ好きじゃなくてもいい。
あなたの気持ちが前に向くように俺があなたを守るから
あなた
………………
黒尾 鉄朗
俺と、付き合って欲しい
あなた
黒尾…さん

真剣な眼差し。


絡まる指から伝わる想い。


黒尾さんの手が、少し震えてるように感じた。


目を逸らさず私を見つめる黒尾さんの瞳に、
少し驚いた表情の自分の顔が映っているのが分かった。
あなた
…………………_




いいのかな…。


黒尾さんの優しさに甘えても。


弱いことを優しさと言ってくれて


泣くことを認めてくれた。


やり場のない気持ちを受け止めてくれたこの人の、


この人のそばにいれば…









…いつか、徹のこと忘れられる…?





























あなた
…はい。よろしく、お願いします…
少しの間を置いてコクンと頷くと
黒尾さんの目が見開いて嬉しそうに笑った。
黒尾 鉄朗
 ! まじ…!?

私の返事を聞いて、
目を開きながら片手でガッツポーズを取る黒尾さん。
あなた
は、恥ずかしいんで
そんな喜ばないでください…
黒尾 鉄朗
いやー嬉しいだろ。これは嬉しいだろっ
あなた
もう…分かりましたからっ…

自分のことをここまで好きと言ってもらえて
嬉しくないわけない。


目の前の黒尾さんが照れたように喜ぶ姿を見て、
普段の大人びた表情を崩し、少年のような無邪気な笑顔が
私の顔も綻ばせた。








































34  守りたい人









































キュッ、パァーン!


あなた
ナイッサー!

東京遠征、二日目。


今日も今日とて朝から練習試合を行っていた。









パァン!


ピピーッ!
澤村 大地
…っ、フライング一周ぅ!
息を切らした大地さんが汗を拭いながら
後ろに並ぶチームメイトに声を掛ける。


まだ少し湿っ気のある温度が肌にまとわりつき
余計に暑さを感じてしまう。
清水 潔子
今の試合、おしかったね
あなた
はい。相手チームの連携はさすがでしたね
試合相手の森然高校とは、良い勝負をしていたように見えた。


実際、影山くんと日向が来てからは接戦を繰り広げていたが
僅差での敗北は中々抜けられなかった。




キュッ、キュッ、


田中 龍之介
あなたの名字〜、タオル
あなた
はいよー
フライングから帰ってきたチームメイトに
ドリンクやタオルを渡す。
澤村 大地
次、どことだっけ?
清水 潔子
次は音駒高校
菅原 孝史
守備堅いからなー。
速攻でどんどん振り回してけよー日向
日向 翔陽
ハイっす!
菅原 孝史
影山もな
影山 飛雄
うっす
あなた
(…音駒、)

反対側のコートの隅で順番を待っている
音駒のチームを目の端で盗み見る。


ドリンク片手にチームメイトと話をしている
黒尾さんの姿を見つけると昨日のことを思い出した。















『あなたの気持ちが前に向くように守るから、


_…俺と付き合って欲しい』

















あなた
……………〜っ

あんな風に言われてときめかない女子はいないと思う。


素直に、嬉しいと感じた。










私は昨日から黒尾さんとお付き合いを始めた。






あなた
(黒尾さんが、"彼氏"…)


ボッ、


頭の中で言葉にするとよりリアルさが増して恥ずかしくなった。



──パチっ、
黒尾 鉄朗
…!
あなた
っ!!?、あ、え、っと!
私追加のドリンク作ってきます…!
澤村 大地
あ、おい、あなたの名字?

ドッッガラッシャーン!
田中 龍之介
痛ってぇー!
あなた
きゃあ!ごめん田中ー!
縁下 力
田中があなたの名字に弾き飛ばされたー!

その瞬間離れている場所の黒尾さんと目が合って、
顔を赤くしているであろう自分の顔を見られるのが恥ずかしくて
慌ててその場から離れるように水道に向かった。

黒尾 鉄朗
(…………………)
















































ジャーーーー…



あなた
ふぅ…

体育館の音がかすかに聞こえる中、
水を出しながら胸に手を当て深呼吸をして落ち着かせる。


今まで告白はされてきたけど、
付き合うってなるのは初めてで…
あなた
(どういう態度を取れば良いのか…)

そして、あの後黒尾さんと二人で決めたことがひとつあった。














__…




黒尾 鉄朗
『なぁ、俺らのこと周りには言う?』
あなた
『え?』
黒尾 鉄朗
『俺は別に言ってもいいと思ってんだけど』

告白の返事をしたあと、タイミングよく洗濯が終わり
ビブスやタオルを中から取り出して干している私の隣で それを手伝ってくれる黒尾さんがニヤッと笑いながら聞いてきた。
あなた
『…わ、たしは…………』

ど、うなんだろう…?


言うって黒尾さんと付き合い始めたことをだよね…?


私の彼氏ですって皆んなに伝えるってこと?


…………………え、待って。恥ずかしい!


言うなれば私の好きな人はこの人ですって
公表するようなもんでしょ…?


なんか恥ずかしい…!
あなた
『…………………』(ボ…ッ!)
黒尾 鉄朗
『(…まーた赤くなってら)』


黒尾さんが見ているとはつゆ知らず、
顔を赤くしながら悶々と考えるわたし。

あなた
『(…てか、合宿の最中だし
黒尾さんは主将って立場もあるし、)』

みんな強くなる為にココに集まってる。


合宿中に他校のマネージャーと付き合い始めたなんてみんなに知られて黒尾さんの名前に泥を塗らないか、それだけがほんと心配なんだけど…。
あなた
『…………………』
黒尾 鉄朗
『(……あ、今度は悩んでる)』

顔を赤くしたと思ったら
今度は眉間に皺を寄せて考え込むあなたを見て、
しばらく様子を見ていた黒尾はなんとなく察した。
あなた
…………………
黒尾 鉄朗
『とりあえず、内緒ってことにしておくか』
あなた
『え?』
黒尾 鉄朗
『あなたが俺のことなぁんか色々・・気にしてくれてんのは
非常〜によく分かったから』
あなた
『な、なんで分かったんですか…!?』
黒尾 鉄朗
『(顔に出やすいのは無自覚か…)』
あなた
『知られるのが嫌って訳じゃなくて、その、みんな強くなりにきてるから…そんな中でこういう話したら、その黒尾さんの迷惑にならないかな、と…』
黒尾 鉄朗
『ウン。俺の心配はありがたいけどね』
あなた
『ん?』
黒尾 鉄朗
『他にわるい虫が付かないか、それは心配だな』
あなた
『…むし?』

実際に、烏野と初めて対面した他の学校連中から
マネージャーが可愛いという声がそこらかしこから聞こえてきていた。


そんなことを思い出しながら腰を屈めた黒尾は
首を傾げているあなたを見て(…わかってねーか)と
笑いながらため息を吐いた。










































__…




ジャ──…、
あなた
…………………
澤村 大地
あなたの名字
あなた
ひゃああぁああ!
昨日のことを思い出していると
後ろから声を掛けられて肩が飛び上がった。
あなた
だ、大地さん…!?
澤村 大地
わ、悪い。そこまで驚くなんて…
私の異様な驚きっぷりを見て大地さんまで驚かせてしまった。
あなた
いえ、こちらこそすみません…!
澤村 大地
なんかあったのか?
あなた
え?
澤村 大地
いや、さっきからボーッとしたり顔赤くしたりしてたから
体調でも悪いのかと思って…。無理はするなよ?
そう言いながら私のおでこに手を当てる主将キャプテン
澤村 大地
熱は無さそうだけど、

まるで子どもの世話をするようなしぐさ。
あなた
だ、大丈夫です。
すみません…!
黒尾 鉄朗
あ、いたいた。澤村サームラさーん
澤村 大地
ん?

大地さんと話していると黒尾さんが現れた。
澤村 大地
おう、どうした
振り返りながら返事をする大地さんが
ぱっと私のおでこから手を離す。
黒尾 鉄朗
ちょーっとお話があるんですけど、
あなた
?、

大地さんに話しかけながらその後ろにいる私とも一瞬だけチラ、と目が合う黒尾さん。
あなた
(主将同士で話し合うことでもあるのかな?)

あ、じゃあ私 先に戻ってますね
気恥ずかしさと、二人の話しの邪魔になるかもしれないと、そう思ってドリンカーを箱に入れて持ち上げ、ぺこりと頭を下げ黒尾さんの横を通り過ぎようとした時、



ガッ、
あなた
 !? 
黒尾さんの長い腕が伸びてきて私の行く手を阻んでとめた。
黒尾 鉄朗
実はおたくのあなたの名字さんと
お付き合いさせて頂くことになりまして
澤村 大地
…ん?!
あなた
く、黒尾さん!?

私の肩を持って大地さんの方へ向けさせる黒尾さんは
いつもの笑顔でアッサリと報告する。
あなた
(昨日みんなには内緒にするって…!?)

そういう約束したんじゃ…。



チラッ、



そう言いたげに隣に立つ黒尾さんを見上げると
眉を下げながら目を細めた。
黒尾 鉄朗
…悪ぃ、やっぱりさ他校よそのマネージャーと
付き合うならちゃんと筋だけは通しとかないとって思って
あなた
あ…、

そう言う黒尾さんの目はいつになく真剣で。


相手の所属しているチームの主将キャプテンには黙ったままにしておけない。主将として、黒尾さんのけじめと覚悟があることをその時知った。
澤村 大地
えっと…黒尾とあなたの名字が付き合ってるってことか?
黒尾 鉄朗
いえす
澤村 大地
あなたの名字、ホントか?
あなた
はい、…
サラリと答える黒尾さんの隣で
私も大地さんに問われてコクリと頷いた。


マネージャーという立場で来ているのに
恋愛にうつつを抜かしていると思われたらどうしよう。
あなた
…………………
澤村 大地
…二人のことだし、ウチは恋愛禁止とかじゃないから二人が決めた事なら俺がとやかく言う権利はないけど、

ス…、と黒尾に視線を戻す澤村。
澤村 大地
…ちゃんと本気なんだろうな?
黒尾 鉄朗
当たり前だ

睨む、とまでとはいかない真剣な表情で黒尾に問う澤村。


それに間髪入れずに答える黒尾も同じように真剣な表情だった。
あなた
…………………
そんな黒尾のまっすぐな答えを聞いて、
あなたの中で恥ずかしさと嬉しさがまた込み上がる。








澤村 大地
そっか…。二人ともおめでとう

そう言いながら澤村が笑うと、安堵したようにあなたも肩の力を下ろした。
黒尾 鉄朗
おう、
あなた
あ、ありがとうございます…!
澤村 大地
にしてもいつの間に仲良くなったんだ?
あなた
あ…と、実はGWの練習試合の前の日に
道で出会ってまして、
澤村 大地
え?
あなた
日向を探してる時に、
澤村 大地
…!ああ、
黒尾 鉄朗
まぁ、要はオレの一目惚れってこと
澤村 大地
 !? 
あなた
!? く、黒尾さん、?
しれっと言い放つ黒尾さんの言葉に
わたしも大地さんも驚きながら顔を赤くした。
澤村 大地
…ゔぅん!あー、で?
その、他の奴には内緒なのか?

咄嗟に咳払いをし話題をかえてくれる
大地さんに少し感謝した。


黒尾さんて唐突に恥ずかしげもなく言うもんだから
こっちの心臓が持たない…!
あなた
はい。一応そのつもりで…
黒尾 鉄朗
俺は公言したいんだけどねー
あなた
だ、ダメですってば…!
澤村 大地
なんでだ?
あなた
…………………
 
大地さんの問いかけに俯いてしまう。
あなた
皆んなバレー頑張ってる中で…恋愛してたら、その…よく思わない人もいるんじゃないかなって。もちろん皆良い人だって知ってます!東京高の人たちだって初めましての私たちをすんなり受け入れてくれて皆さん優しい人たちだって。でも、黒尾さんは主将って立場もあるし…。少しでも足を引っ張りたくないんです…!
黒尾 鉄朗
…って、言って聞かないんだよこの子
昨日黒尾さんにも伝えた素直な気持ちを言うと、
なるほどね。と大地さんは頷いてくれた。
澤村 大地
あなたの名字の気持ちはわかったよ。
まぁ、確かにそういうのおもしろ半分に茶化したり
するヤツがいるかもしれんからなー。
二人がそれでいいならいんじゃないか
あなた
ありがとうございます…
澤村 大地
あとは黒尾が公言しないよう気をつけないとな
黒尾 鉄朗
はぁー?
ぶっちゃけ口滑らしたいくらい言いたい気持ちはあるけど彼女の気持ち聞いてそれを裏切るようなことしませんー
澤村 大地
ソウカー。それなら安心だなー?
言っとくけどウチのマネージャー泣かしたら
タダじゃおかないからなー?
黒尾 鉄朗
そちらも安心してくださいー。
泣かせるような事なんて絶対ずぇったいありませんー
あなた
…ふふ、

大地さんの言葉に食ってかかるような顔をする黒尾さん。


それをサラリと笑いながらかわす大地さんのやり取りを見て
私もこの二人、いつの間に仲良くなったんだろうと笑みが溢れた。



























to be…





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