ゴゥン、ゴゥン…
洗濯機が回っている間に
私は今まであったことを黒尾さんに少しずつ話していた。
愛莉菜とのこと。
徹とのこと。
心配するようにこちらを見る。
愛莉菜の顔を見ただけで心臓が嫌な鼓動を発し、
冷や汗と同時に身体が震えたことを思い出す。
震える指先を止めようと
愛莉菜の前では必死に強がってたけど、
心が、愛莉菜を警戒していた。
張り詰めたような気持ちが心の中にあって
こんな臆病な気持ちも、愛莉菜が怖かったことも、
ホントは誰かに聞いて欲しかった。
親や由美子たちはこんな事知らないし、唯一知ってるはじめくんにも言いづらくて誰にも言えなかった。
でも黒尾さんには相談できる。
初めて会った時は、見知らぬ人にならこぼせると思って
軽いノリで愛莉菜のことも言えたと思ってたけど…
今は前とは違う。
私の言葉足らずな話もなにも言わずにこうやって聞いてくれる。
その仕草や声に安心感を覚える。
つい、いつもより心が素直になる。
素直な心は、いつもは言えない腹の中の黒い感情。
…想いを伝えたい。
そう思うことは何度もあったのに
その度に愛莉菜の顔と言葉がチラついて、私の声を奪っていく。
徹のために自分の気持ち押し殺してる…
なんて綺麗事は自分でも分かってる。
愛莉菜からも、徹からも逃げて。
大好きなバレーからも逃げた。
弱い自分は本当に嫌い。
そう思えば思うほど、目に涙が集まる。
黒尾さんにバレないようにと、笑いながら目を擦ると
その手を止められた。
我慢していた涙がポト、ポト…と
私の手を握る黒尾さんの手を濡らす。
否定することしかできなかった自分を肯定してくれる
黒尾さんの言葉がなにより嬉しくて胸がいっぱいになる。
冗談まじりに嬉しかったことを伝えると、
私にハンカチを差し出してくれる黒尾さん。
ニヤリと笑う黒尾さんの顔を見て
いつかの電話のやり取りを思い出し恥ずかしくなる。
ホントは鼻の奥がズビズビだけど、イタズラが成功したような笑みを浮かべる黒尾さんについムキなってしまった。
__…
私が落ち着くのを見計らった黒尾さんが口を開く。
下を向いていた顔を上げるとその長い指がスッと私の手を取り
あったかい手に包まれた。
ちょっと前までのふざけたやり取りから緊張感のある空気に変わり、黒尾さんの声が低くなったのが分かった。
ギュ…
握られた手が優しく強まる。
スリ…
固まる私の手を握り、
細く、長い指が、優しく私の手の甲を撫でる。
ドキ…
真剣な眼差し。
絡まる指から伝わる想い。
黒尾さんの手が、少し震えてるように感じた。
目を逸らさず私を見つめる黒尾さんの瞳に、
少し驚いた表情の自分の顔が映っているのが分かった。
いいのかな…。
黒尾さんの優しさに甘えても。
弱いことを優しさと言ってくれて
泣くことを認めてくれた。
やり場のない気持ちを受け止めてくれたこの人の、
この人のそばにいれば…
…いつか、徹のこと忘れられる…?
少しの間を置いてコクンと頷くと
黒尾さんの目が見開いて嬉しそうに笑った。
私の返事を聞いて、
目を開きながら片手でガッツポーズを取る黒尾さん。
自分のことをここまで好きと言ってもらえて
嬉しくないわけない。
目の前の黒尾さんが照れたように喜ぶ姿を見て、
普段の大人びた表情を崩し、少年のような無邪気な笑顔が
私の顔も綻ばせた。
34 守りたい人
キュッ、パァーン!
東京遠征、二日目。
今日も今日とて朝から練習試合を行っていた。
パァン!
ピピーッ!
息を切らした大地さんが汗を拭いながら
後ろに並ぶチームメイトに声を掛ける。
まだ少し湿っ気のある温度が肌にまとわりつき
余計に暑さを感じてしまう。
試合相手の森然高校とは、良い勝負をしていたように見えた。
実際、影山くんと日向が来てからは接戦を繰り広げていたが
僅差での敗北は中々抜けられなかった。
キュッ、キュッ、
フライングから帰ってきたチームメイトに
ドリンクやタオルを渡す。
反対側のコートの隅で順番を待っている
音駒のチームを目の端で盗み見る。
ドリンク片手にチームメイトと話をしている
黒尾さんの姿を見つけると昨日のことを思い出した。
『あなたの気持ちが前に向くように守るから、
_…俺と付き合って欲しい』
あんな風に言われてときめかない女子はいないと思う。
素直に、嬉しいと感じた。
私は昨日から黒尾さんとお付き合いを始めた。
ボッ、
頭の中で言葉にするとよりリアルさが増して恥ずかしくなった。
──パチっ、
ドッッガラッシャーン!
その瞬間離れている場所の黒尾さんと目が合って、
顔を赤くしているであろう自分の顔を見られるのが恥ずかしくて
慌ててその場から離れるように水道に向かった。
ジャーーーー…
体育館の音がかすかに聞こえる中、
水を出しながら胸に手を当て深呼吸をして落ち着かせる。
今まで告白はされてきたけど、
付き合うってなるのは初めてで…
そして、あの後黒尾さんと二人で決めたことがひとつあった。
__…
告白の返事をしたあと、タイミングよく洗濯が終わり
ビブスやタオルを中から取り出して干している私の隣で それを手伝ってくれる黒尾さんがニヤッと笑いながら聞いてきた。
ど、うなんだろう…?
言うって黒尾さんと付き合い始めたことをだよね…?
私の彼氏ですって皆んなに伝えるってこと?
…………………え、待って。恥ずかしい!
言うなれば私の好きな人はこの人ですって
公表するようなもんでしょ…?
なんか恥ずかしい…!
黒尾さんが見ているとはつゆ知らず、
顔を赤くしながら悶々と考えるわたし。
みんな強くなる為にココに集まってる。
合宿中に他校のマネージャーと付き合い始めたなんてみんなに知られて黒尾さんの名前に泥を塗らないか、それだけがほんと心配なんだけど…。
顔を赤くしたと思ったら
今度は眉間に皺を寄せて考え込むあなたを見て、
しばらく様子を見ていた黒尾はなんとなく察した。
実際に、烏野と初めて対面した他の学校連中から
マネージャーが可愛いという声がそこらかしこから聞こえてきていた。
そんなことを思い出しながら腰を屈めた黒尾は
首を傾げているあなたを見て(…わかってねーか)と
笑いながらため息を吐いた。
__…
ジャ──…、
昨日のことを思い出していると
後ろから声を掛けられて肩が飛び上がった。
私の異様な驚きっぷりを見て大地さんまで驚かせてしまった。
そう言いながら私のおでこに手を当てる主将。
まるで子どもの世話をするようなしぐさ。
大地さんと話していると黒尾さんが現れた。
振り返りながら返事をする大地さんが
ぱっと私のおでこから手を離す。
大地さんに話しかけながらその後ろにいる私とも一瞬だけチラ、と目が合う黒尾さん。
気恥ずかしさと、二人の話しの邪魔になるかもしれないと、そう思ってドリンカーを箱に入れて持ち上げ、ぺこりと頭を下げ黒尾さんの横を通り過ぎようとした時、
ガッ、
黒尾さんの長い腕が伸びてきて私の行く手を阻んでとめた。
私の肩を持って大地さんの方へ向けさせる黒尾さんは
いつもの笑顔でアッサリと報告する。
そういう約束したんじゃ…。
チラッ、
そう言いたげに隣に立つ黒尾さんを見上げると
眉を下げながら目を細めた。
そう言う黒尾さんの目はいつになく真剣で。
相手の所属しているチームの主将には黙ったままにしておけない。主将として、黒尾さんのけじめと覚悟があることをその時知った。
サラリと答える黒尾さんの隣で
私も大地さんに問われてコクリと頷いた。
マネージャーという立場で来ているのに
恋愛にうつつを抜かしていると思われたらどうしよう。
ス…、と黒尾に視線を戻す澤村。
睨む、とまでとはいかない真剣な表情で黒尾に問う澤村。
それに間髪入れずに答える黒尾も同じように真剣な表情だった。
そんな黒尾のまっすぐな答えを聞いて、
あなたの中で恥ずかしさと嬉しさがまた込み上がる。
そう言いながら澤村が笑うと、安堵したようにあなたも肩の力を下ろした。
しれっと言い放つ黒尾さんの言葉に
わたしも大地さんも驚きながら顔を赤くした。
咄嗟に咳払いをし話題をかえてくれる
大地さんに少し感謝した。
黒尾さんて唐突に恥ずかしげもなく言うもんだから
こっちの心臓が持たない…!
大地さんの問いかけに俯いてしまう。
昨日黒尾さんにも伝えた素直な気持ちを言うと、
なるほどね。と大地さんは頷いてくれた。
大地さんの言葉に食ってかかるような顔をする黒尾さん。
それをサラリと笑いながらかわす大地さんのやり取りを見て
私もこの二人、いつの間に仲良くなったんだろうと笑みが溢れた。
to be…













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。