ここで皆さん不思議に思わなかっただろうか。
いったいどうやってブレザーを風船にしているのかと。
なあに。簡単な話である。
樂娜の馬鹿力で少しだけ生地を伸ばし、形を作るだけである。
しかしそれだけでは簡単に空気が出て行ってしまう可能性がある。というか出る。
しかし、ここにいるのは一般女子高生だけでなく、死線をくぐり抜けてきた呪術師がいるのだ。その死線を乗り越えてきたのは服も同じ。
つまり、樂娜の制服を使えば、防水加工のある風船ができる。
普通のブレザーで作ったものは樂娜が、高専の制服で作ったものは園子が使うことになっている。普通のブレザーであれど、樂娜の身体能力を叩き込めば浮かぶことは造作もない。
一方その頃。
毛利蘭は自室に閉じこもり、ベッドで蹲っていた。
今日こそ、今日こそと園子の安全が確保された報せを待っているが、一向にそれが来ることは無い。
江戸川コナンも総力をあげて捜索に当たったが全敗。
ここまで来ると死亡している可能性の方が高いと見なされるため、警察も徐々に撤退している。
それでも、捜索願いが出されている限りはポスターを使って呼びかけたり、学校周辺をパトロールしたりする。
それがせめてもの救いである。
しかし、帝丹高校で呪霊による事件が起きたのはこれが2度目。
ここまで被害の範囲が広がれば、もはや警察の出る幕はない。
ドア越しに呼びかけるも応答はなく、ただ虚しく小五郎の声が響いただけであった。
プルルル
_____携帯の画面には、安室透と表示されていた。
教師についても隅々まで調べさせたつもりだが、どの
教師も白。生徒に紛れたのかとも思ったが、園子さんが帰っていた時間帯は
人はいるものの沢山いるわけでない。
防犯カメラにも映っておらず、誰かと接触した形跡もない。
プツッと音がなり、電話が切れる。
彼なりの配慮で、最後の一文だけは安室透でいた。
コナンは1人頭を抱え、為す術もなく部屋に戻った。
そして、樂娜たちは。
園子はぎゅっと制服(風船)を抱え、息をとめた。
するとやはり樂娜の狙いどおりで、人間にかかる浮力と風船の浮力で上へ上へと浮いて行く。
2人とも助かる。
しかし、忘れてはいけないのは、ここは呪霊の巣窟であるということ。
園子の足を呪術師だったものが掴み、底へ底へとし引きずり込もうとしている。血を巡らせることを諦めた人でなしが。
すかさず樂娜は小刀を振り上げ、腕と手を切り離した。
切り離された本体は底へと沈み、やがて見えなくなった。
そしてさらに呪霊の気配を察知した樂娜は策を練っていた。
ここでいつもなら園子のような立場の人間を事故として見殺しにするが、
このまま園子を見殺しにしたならば。
まずありえないくらい金が手に入らない。
界隈での信用度が落ち、収入源にならない。
せっかく手懐けた後輩が遠縁になってしまうかもしれない。
そうなれば五条からの信用もなくなり、減給は間違いないだろう。
と、デメリットの塊なので樂娜は生かすことにした。
素早く園子の足を掴んだと思えば、ありえない力で水面に押し上げた。
幸いにも残り1m地点まで登っていたので水圧による抵抗も比較的に感じられなかった。
ただ、樂娜も水中に残って応戦する訳にもいかないので、どうにかして地上にでなければならない。
地上に出た園子は息を荒げ、自身が持っている樂娜の制服を力強く抱え込んでいた。
ここで園子はあることに気がつく。
試しに髪を触るが、少しも水気を含んでいない。制服も特有の重さを感じず、持っていた携帯も無事だ。
混乱していると、勢いよく樂娜が飛び上がってきた。
樂娜も樂娜とて息を荒げ、それでいて敵から目を話していない。
樂娜が何かを園子に向かって投げつける。何も知らない人からしてみれば2度見待ったナシだが今はそんなこと言ってられる場合じゃないので許してほしい。
そう答えると間髪入れない勢いで攻撃を仕掛ける呪霊。
形を見ると螠のような胴体に新生児のような顔をくっつけている。髪が少し生え、なんとも言えない気持ち悪さがある。口から水を吹き出し攻撃を仕掛けてくるので地下で会ったヤツとは別。等級が違いすぎる。
相手は特級に相当すると見た。元々水辺は負の感情が溜まりやすい。心霊スポットやいわく付きと言われる場所、打って変わってパワースポットと呼ばれる場所は水辺が多い。
霊的な意味でも呪い的な意味でも重要な「水」の力を最大限に活かせるこの呪霊。
ナメてかかれるほど弱くはないだろう。
このタイプの呪霊は「切断」に弱いことが多い。実際の生物に因んで、ということだろう。
樂娜は慎重に相手を見定めていた。
どの状況で何の判断をし、いかに己の命を守るかを優先して。
そして、園子はと言うと、
少し離れた建物の陰に隠れ、必死に電話をかけ続けた。
運が良いのか悪いのか、履歴の1番上に名を乗せていた五条悟に連絡を取ろうとしていた。
しかし、何コールかけても出る気配がなく、もはや心が折れる寸前だったのだ。
すると、ガチャ、と電話をとる音が聞こえた。
やっとの思いで連絡を取ることができ、嬉しさと状況の焦りで支離滅裂になってしまった。
園子はなりふり構わず助けを求めた。
園子が安心して力が抜けたその時だった。
グシャアッ
正面の樂娜の少し左側の胸を目掛けて手が貫通した。
それも、ドリルのような形の手に。
先程まで戦っていた螠はねじり上げられ、絶命していた。
まるで、魂の形を変えられたかのように。
紅い花が散り、樂娜は黙ってそれを見ることしかできなかった。
園子は愕然とし、手にしていた携帯を落としそうになった。
状況が急変し、頭の処理が追いついていない園子を無視して五条はスマホを手に樂娜の元に駆け寄る。
樂娜が睨みつけた先にいたのは
特級呪霊の中でも危険視されている真人だった。
子供のように二パーッと笑いながら樂娜に語りかける。
カランと音がなり、樂娜の手から小刀が落とされる。
目隠しを外した五条は真人を睨みつけ、落ち着き払った様子で近づく。
失敗したなあ〜殺しとけば良かった!
とおちゃらけたように笑う真人。
五条はバイバーイ!と床に溶けていく真人を見つめ、倒れ込みそうになった樂娜の襟元を掴む。
樂娜は答えない。死んだように力を抜き、重力に従って首が垂れた。
脈を止め、息を止め、その目は閉じた。
園子は目にいっぱいの涙を貯め、ぽろぽろと溢れさせていた。
五条は努めて明るく振舞った。
その振る舞いが異様にアンバランスで、園子はさらに不安を駆り立てた。
もう大丈夫だ。
そう言い残し、五条は樂娜を引き摺りながら消えた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!