第12話

空港にて
220
2025/08/16 00:07 更新
出発ロビーのガラス越しに、白い光が広がっている。
人の流れは途切れなくて、アナウンスが何度も響く。

あなたちゃんはキャリーを引いて、まっすぐ歩いてきた。
俺はベンチから立ち上がる。
(なまえ)
あなた
…来てくれたんですね
純喜
来るに決まってるやん
笑ってみせたけど、胸は締め付けられていた。
純喜
…時間、あんまないな
(なまえ)
あなた
はい
しばらく二人で黙って立っていた。
言葉にしたら、全部壊れてしまいそうだったから。
純喜
向こう、寒いらしいで。ちゃんとあったかくして
(なまえ)
あなた
…はい
純喜
無理すんなよ
(なまえ)
あなた
…はい
純喜
(なんやねん、これ。全部“はい”で返されるの、めっちゃ寂しいやん)
アナウンスが彼女の便を呼ぶ。
俺は深く息を吸った。
純喜
あなたちゃん
(なまえ)
あなた
…はい
純喜
…俺、好きや
彼女の目が大きく開いて、すぐに潤んだ。
返事はなかった。
でも、最後の最後で手を伸ばしてくれて、その指が俺の手をしっかり掴んだ。
(なまえ)
あなた
……ありがとう
それだけ言って、彼女は手を離した。
背中が人混みに紛れて見えなくなるまで、俺はそこから動けなかった。







家に帰っても、あの温度が消えなかった。
部屋のスピーカーから流れるのは、あの日二人で合わせた曲。
ピアノの音が入るたびに、胸の奥がじんわりと痛む。

純喜
(忘れんでいいって、言ったやん)
自分に言い聞かせるみたいに呟き、スマホを握る。
彼女が向こうでどんな景色を見て、どんな音を聴いてるのか…知りたい。

でも、送信ボタンには触れなかった。
今はまだ、この未練ごと抱えていたかった。

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