出発ロビーのガラス越しに、白い光が広がっている。
人の流れは途切れなくて、アナウンスが何度も響く。
あなたちゃんはキャリーを引いて、まっすぐ歩いてきた。
俺はベンチから立ち上がる。
笑ってみせたけど、胸は締め付けられていた。
しばらく二人で黙って立っていた。
言葉にしたら、全部壊れてしまいそうだったから。
アナウンスが彼女の便を呼ぶ。
俺は深く息を吸った。
彼女の目が大きく開いて、すぐに潤んだ。
返事はなかった。
でも、最後の最後で手を伸ばしてくれて、その指が俺の手をしっかり掴んだ。
それだけ言って、彼女は手を離した。
背中が人混みに紛れて見えなくなるまで、俺はそこから動けなかった。
家に帰っても、あの温度が消えなかった。
部屋のスピーカーから流れるのは、あの日二人で合わせた曲。
ピアノの音が入るたびに、胸の奥がじんわりと痛む。
自分に言い聞かせるみたいに呟き、スマホを握る。
彼女が向こうでどんな景色を見て、どんな音を聴いてるのか…知りたい。
でも、送信ボタンには触れなかった。
今はまだ、この未練ごと抱えていたかった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!