第11話

別れの前夜
221
2025/08/13 15:03 更新
冬の夜の空気は、痛いくらい冷たい。
それなのに俺の手のひらは、変に熱かった。
純喜
…今日で最後やな
部屋に入った瞬間、言ってしまった。
ピアノの前に座るあなたちゃんが、鍵盤に指を置いたまま小さく頷く。
(なまえ)
あなた
最後の合わせ、ちゃんとやらなきゃ
純喜
うん
音を重ねながらも、俺の心は演奏より彼女の横顔ばかり追っていた。
目の奥に、光が揺れてる。泣きそうなのか、俺がそう見たいだけなのか。

曲が終わると、静寂が降りた。
俺はマイクを置いて、彼女の隣に座る。
純喜
あなたちゃん、向こう行ったら…俺のこと、忘れるんやろか
(なまえ)
あなた
…そんなこと、ないです
純喜
じゃあ…俺が会いに行っても、驚かん?
(なまえ)
あなた
……驚きますよ
少し笑ったけど、その笑いは優しすぎて苦しかった。

立ち上がる彼女を思わず引き止める。
純喜
なあ、最後にお願いしていい?
(なまえ)
あなた
…なんですか
純喜
この手…握らせて
手を取った瞬間、心臓が跳ねた。
温かいのに、もうすぐ離さなあかん手。
純喜
…この温度、持っていきたい
声が震えて、笑われそうやったけど、彼女は黙って握り返してくれた。

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