第20話

幼稚園
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2025/09/14 09:13 更新
サイレンが遠くで鳴り響いていた。
「幼稚園にヴィランが襲撃」――その一報を受け、ホークスと狐白は即座に現場へ急行した。

上空を翔けるホークスの背に風が鳴り、あなたは地上から駆け抜けていく。
「……よりによって幼稚園なんて」
あなたの拳がわずかに震えた。幼い頃の記憶が、胸の奥をざわつかせる。

現場は混乱の渦中にあった。園庭の遊具が無残に倒れ、泣き叫ぶ園児たちの声。辛い惨状だ。
(ホークスはこんな状況を前に助けてくれたんだ…)
かつてのホークスに心の中で感謝を告げ、前を向く。

複数のヴィランたちが徒党を組み、次々と建物を破壊していく。

「スパーク、子どもたちの避難を優先!」
「了解!」
ふたりは視線を交わし、即座に行動へ移った。

あなたはバリバリと放電する手でヴィランを牽制しながら園児を背に庇い、教師たちに避難を促す。
「こっちです!走って!」
涙に濡れた子どもの小さな手をとり、必死に出口へ導く。
「大丈夫だよ!私、ヒーローだから。」

一方ホークスは羽根を矢のように放ち、ヴィランの武器を撃ち落とす。
「おっと、そっちは通さないよ」
軽口を叩きながらも、その眼差しは鋭い。

だが、その瞬間だった。
園舎の影で泣き崩れる、ひとりの小さな男の子。
怯えきった瞳、崩れた壁に押し潰されそうになって――。

「……っ!」
ホークスの心臓が跳ねた。
その姿は、かつて救ったあの「幼いあなた」と重なって見えたのだ。

「大丈夫、もう大丈夫だから」
羽根を伸ばし、子供を抱きかかえたその時。

背後から、轟音。
複数のヴィランが連携して放った特大の衝撃波が、一直線にホークスへ迫っていた。

「へへ、気を取られたなァホークス!!ぶっ殺してやるよォォォ!!」
羽根を戻すのが一瞬遅れる。避けられない――!

「……危ない!」
次の瞬間、あなたが飛び込んできた。
スパークの全身から走る稲光が盾のように広がり、ホークスと子供を覆う。その稲妻が、ホークスと子供を押し出す。ホークスと狐白の位置が入れ替わり、あなたは攻撃をもろに喰らう。

爆発的な衝撃が直撃した。

「ぐっ……!」
あなたの身体が宙に浮き、そのまま地面へ叩きつけられる。
鮮血が広がるのを見て、ホークスの顔から色が消えた。

「スパーク!!」

彼女は力なく横たわり、視界が揺らぎながらも笑みを浮かべていた。
「……よかった、守れ…た…」
そして、瞳が閉じていく。

「やめろっ……!」
ホークスの絶叫が響き渡った。

──その後。

あなたは病院に搬送された。医師たちの必死の処置にもかかわらず、一度は心肺が止まりかけた。
ホークスは病室の外で、ただ拳を握りしめることしかできなかった。
「俺のせいだ……俺がッ……」
普段の軽口も、飄々とした笑顔もそこにはなかった。

そこから3日間、あなたは目を覚まさなかった。
「あ、あの…大丈夫ですか…?」
「クマがひどいです、あまり寝れていないのでしょう?顔色も悪いです。このままでは、このままでは…あなたが倒れてしまいます。今日はもう…」
あなたの看病を担当している看護師がいう。
「大丈夫、です。もう少しだけ…ここにいさせてください。」
「もう夜遅いです…市販のものですが、どうぞ。」
看護師は、コンビニのおにぎりをおいて扉を閉める。
「はやく、、おきて」
ホークスの悲痛な声は、こだますることなく消えていった。

数日後。
今日もホークスは見舞いに来る。が、流石に寝れすぎていなかったらしい。あなたに今日あったことを話す途中で眠りについてしまった。

看護師が扉をあける。
「ホークスさん、もう面会時間すぎて…寝てる…」
看護師は知っていた。ホークスがあまり食に手をつけていないことも。寝れていないことも。それでも、仕事終わりに必ず来ていることも。
「早く目を覚ましてくださいよ、あなたさん。ホークス、あなたのことどれだけ心配してると思ってるんですか…?」
看護師はホークスに毛布を掛ける。
その時に気づいた。ホークスが、あなたの手を握っていることを。比べて、自分にできることの少なさに無力さを感じながら、病室を後にした。


「あれ…?ここは」
気がつくとそこには知らない天井…ではなく、綺麗な空とスズランの花畑が広がっている。
「私…死んだ?これ?」
直感がそう言ってる気がする。わかんないけど。
「えー…ホークス遺して死ぬの嫌だなぁ…まだ名前だって知らないのに。」
そう。あなたはホークスに名前を聞いたことがない。
一度両親の話になった時、ホークスが、少し言葉を濁らせたから。それ以来、ホークスにこの話題は出していない。いつか聞きたいと思っていたのに。

そんなことを考える自分に、人間死ぬ時は淡々としてるもんだなと思う。目の前にある白い階段。覚悟を決め、それを登ろうとするあなたの前に、上から何かが落ちてくる。
カスミソウの花束だ。その中に一枚、赤い羽が入っている。あなたはふっと笑い、反対方向に向かって歩き出した。


翌朝。
奇跡的にあなたは意識を取り戻した。
「……ん……」
かすれた声に、ホークスは顔を上げる。
「あなた!」

「……ホークス……私、大丈夫。だから、そんな顔しないで」
彼女の細い声に、胸が締め付けられる。

「大丈夫じゃッ……。あんな無茶……」
「……だって、私もヒーローだから」
弱々しい微笑み。

ホークスは言葉を失い、ただ彼女の手を握った。

その夜。
病院を後にしたホークスは、事務所へ戻ると、机に積み上がった書類に向かった。
いつもなら「書類は逃げないっす」と笑って投げ出す彼が、無言でペンを走らせている。

「……もっと強くなる。絶対に、もう二度と失わせない」

羽根の震えを抑えながら、決意を胸に刻むのだった。

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