第30話

ネコの集会 噂のおネコさん④
57
2023/01/13 11:16

 めまいがしてるみたいに頭がクラクラする。
 ボスは吐息を洩らし、さとすような調子でボクに言った。
ボス
ボス
そうイキり立つなよ、新入り
新入り
新入り
……すみません……。
……で、でも、一体どうして……?

 問いかけると、ヨツバと名乗る女のコは切実な表情で語りだす。

魅惑のメス猫
魅惑のメス猫
だって……
ボスのオンナになれば狂暴なオス猫から守ってもらえるって、ウチのお母さんがいってたから……
 新入り
新入り
えええっ!?お母さんがそんなことを!?
ボス
ボス
おいおい。オメェの母ちゃん、どーなってんだよ。
勝手な憶測で娘にいい加減なこと吹きこむなって
魅惑のメス猫
魅惑のメス猫
じゃあボスは自分の彼女を見捨てるんですか?
ボス
ボス
いや……それは、ねぇけど
魅惑のメス猫
魅惑のメス猫
だったらあたしをボスの彼女にして、狂暴なヤツらの魔の手から救ってください!

 悲しげな嘆願が鳴き声となって辺りに響きわたった。
 僕は居てもたってもいられず、前足にグッと力を込めてボスに訴えかける。

新入り
新入り
う、受けましょう!ボス!
ボス
ボス
あ? 
んじゃオメェの妹さがしはどーするんだよ
新入り
新入り
アァアッ!そ、そうだった……!

 一瞬とはいえ、妹のことを忘れるなんて……。ウッカリしている自分に嫌気が差す。
 ボスは不機嫌そうに目を閉じたまま、前足の肉球をペロリと舐めた。
ボス
ボス
メスに熱上げてカッカしてんじゃねぇよ
新入り
新入り
ボ、ボクはそんなんじゃ……!

 恥ずかしさのあまり、条件反射的に言い返す。
 ボスは無言のまま、前足に絡んでいた小石を舌ですくい取って、ペッと吐きだした。
 それからヨツバのほうに凛々しい顔を向けて言う。
ボス
ボス
とりあえず事情だけでも聞いておくぜ。
その狂暴なオス猫っていうのは何なんだ?
魅惑のメス猫
魅惑のメス猫
ジロリ町の隣町にはびこる、『ねこねこファイアー組』の連中です
ボス
ボス
……やっぱり、アイツらの仕業か
新入り
新入り
こ、心当たりがあるんですか?
ボス
ボス
『ねこねこファイアー組』の名は、今日の集会でも話にのぼっていただろ。
このジロリ町の縄張りを脅おびやかそうとしてくる組織の一つでよ、道に外れたような行動をしでかす荒っぽいのが多くて、以前から警戒してたんだ
新入り
新入り
そんなひどい連中がこの付近にいるだなんて……
魅惑のメス猫
魅惑のメス猫
あたしの住んでいた近辺はもう『ねこねこファイアー組』に占拠されてしまっていて、手も足も出ない状態なんです。
そのせいで治安も悪くて、みんなが虐しいたげられていて、ウチの兄弟もボコボコにされちゃって……
新入り
新入り
ボッ、ボコボコにぃ!?
魅惑のメス猫
魅惑のメス猫
うん、そうなの。
兄も弟もみんなひどいケガを負わされて……
魅惑のメス猫
魅惑のメス猫
お母さんはその面倒を見るのに精一杯で、それであたしは追い出されちゃって……
新入り
新入り
そうだったんだ……
魅惑のメス猫
魅惑のメス猫
どのみち親離れの時期だったから諦めるしかなかったんだけどね。
だけど、あまりに急だったから、まだひとりで生きてく覚悟も全然できてなくて……

 涙ぐむ彼女を見ていると、ボクの胸はうずいた。
 本音を言えば、さっきからこのメス猫に近づきたくて仕方がない。そばに寄り添って、淡い色の毛につつまれた頬をそっと舐めてあげたくなる。

魅惑のメス猫
魅惑のメス猫
……別れ際に、お母さんや兄弟たちからボスの話を聞いたんです。
隣町のボスは強くて評判もいいし、
並みのボスより懐ふところが広いから、つながり・・・・を持てばなんとかしてくれるって
魅惑のメス猫
魅惑のメス猫
だからあたし、
どうにかしてボスに出逢えないかなって、ずっと考えながらさまよってたんです
ボス
ボス
ほぅ~。
こまけぇことはともかくとして、なんか俺、すげー褒められてるな
魅惑のメス猫
魅惑のメス猫
ボス、お願いです!
ねこねこファイアー組のヤツらを追っ払ってください!
ボス
ボス
気持ちはわからんでもないが、
いきなり他の縄張りの猫どもを追っ払えっていわれてもなぁ
新入り
新入り
ボ、ボクもお手伝いしますから……!
ボス
ボス
オメェの手伝いは足手まといの予感しかしねぇぞ
新入り
新入り
うっ……!
魅惑のメス猫
魅惑のメス猫
お願いです。あたしたちを見捨てないでください。
ねこねこファイアー組に奪われた土地に平和を取り戻すためにも、どうか……!
ボス
ボス
ウーム……
魅惑のメス猫
魅惑のメス猫
もしヤツらと戦ってくれるなら……
いますぐ子づくりしてもいいです!
新入り
新入り
えええええっ!?
ボス
ボス
いますぐって、いくらなんでも早すぎだろ!
テンダ
テンダ
だったらその役目、オレが代わりにっ!

 ガサガサッと草がせわしなく揺れた。
 唐突とうとつに、茂みの中から体の大きな猫が駆けてくる。

 ――副ボスだ!

偵察猫
偵察猫
申し訳ございません! 
これ以上抑えが効かなかったのであります!

 おなじく茂みから出てきた偵察猫レコねこが早口に告げる。
ボス
ボス
サカッてんじゃねぇよ!

 ボスはすばやく体勢を転じ、突き出した拳で副ボスの体をベシッと払いのけた。


















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