第56話

Chapter.56
562
2022/10/17 18:51







『.......あなた..!!』







ある夏の朝、自分の寝言で目が覚めた。



夢の中であなたが、サーフボードを持って海辺に立ってた。


出逢ったあの日のあなただった。


そしてあなたはサラサラの髪をなびかせて、
海の方に向かって消えてった。



俺は追いかけたくても砂に足が埋もれて動けなかった。

もがけばもがくほど、
砂に足が吸い込まれてく。


そしてあなたは見えなくなるくらい遠い沖の方へ離れていった。





そのとき、思わずあなたの名前を叫んでた。








体を起こして、顔を触る。



『頭いたー…..』




二日酔いだ。

しかもエアコンもつけずに寝てたから汗だく。










気づけばあなたがいなくなって、
半年が経ってた。



なんだよ、
全然、忘れてないじゃん。俺。




あなたの笑顔とか、身体だとか。

優しい声とか。



時間は何も解決してくれなかった。











まだ朝の7時。


まだ朝早いけど、むくみと二日酔いを覚ますために散歩することにした。








ペットボトルを片手に
小一時間ほど近くの公園をぶらつき、

だいぶ二日酔いも冷めてきた。






家に戻ろうとしたとき、
目に入った


"coffee time"


の看板。


あなたが働いてた店だ。


随分避けて通ってきたことに気づく。









信号を渡り、店の前の歩道を歩く。





初めは"タマ"にどうにかコンタクト取ろうとして店にも何度か向かったけど

店が混んでたりして、なかなかちょうどいい時間に会えなかった。



だけど時間が経つにつれて、
どんどん怖くなって、

なるべくここを避けて通るようになった。














ガチャッ







店の前でボーッとしていたら

店から人が出てきた。




つい驚いて後退りしてしまった。






その人は、店の看板を立てかけた。




『....』





顔がこわばる。




"タマ"だ。





俺がジッと見てると


"タマ"はこっちに気づいて、
透明感のある目でこっちをみる。





朝の光と相まって、
すんげーキラキラして見えた。


やっぱ、なんかムカつく。





『.......??

いらっしゃいませ、
もしかしてお待ちですか?』




客と勘違いされた。







『.....え、.......いや、........』


『あ、俺の勘違いすね、すみません(笑)』




そう少し笑って"タマ"は店の中に戻ろうとした。

イメージ通りとても感じがいい男だった。








『.....やっぱ、コーヒーください』




そう言って、店に入る。










窓辺の席に案内されて座った。

勢いで入ってしまった。。





朝の公園が見える席。

夏の朝日、暑い。。


てかこの店何時からやってんだよ。
まだ朝の8時だぞ?


はや。



もはや夜型になってた俺とまた正反対で
勝手に劣等感を感じる。





『お待たせしました、ブレンドのアイスです。』


『.....』



コーヒーと氷が入ったグラスをテーブルに置かれ、俺は無言で会釈する。









コーヒーを飲む。

おいしかった。



朝のコーヒーなんて久しぶりだった。





あなたが家にいる頃は、毎朝淹れてくれていた。

また、そんなこと思い出す。









てか俺、今更こんなとこ来て何がしたいんだマジで。

急に冷静になる。





コーヒーを飲み終え、店を出ようとした。








『ありがとうございましたー』


爽やかに言う"タマ"。


その声を聞いて、
ハッとして足を止めた。









『.............』






振り返って、"タマ"の顔を見る。

気づいてこっちを見る”タマ”。



『?』





『............あなたのこと、知ってます?』




"タマ"は、クリッとした大きな目を
更に大きくした。






『...あなた....ちゃん?』




何かに気づいたような顔をして、続ける。




『の、..................もしかして彼氏さん?』








『........いや、....まぁ...』



もう多分違うから、
なんて答えればいいかわからない。



俺が何も言わずに黙っていると
あっちから話し始めた。






『..........

..........あなたちゃんが、
どこにいるか知りたいですか?』




『........は?』






なんでお前が居場所知ってんだよ。


マウント取られたみたいでムカついた。
つい心の声が漏れてしまった。





『…いや、.....ていうか…….』





俺がモゴモゴしてると




『.....なんて。

事情も知らないですし、

あなたちゃんがどこにいるかも、僕は知りません。』




"タマ”は、視線を下に落とし、作業をしながらそう言った。





『…..あ、そすか。

........なんか....すいませんでした。』



そう言ってまたドアの方に向き直し、
店を出ようとした。





そのとき、背後から声が聞こえた。












『.....3ヶ月後』





また振り返り、"タマ"を見る。







『どうしても会いたいなら、
あと3ヶ月は待ってあげてください。』





『…….?』







言ってる意味がわからなかった。








3ヶ月経ったら、

あなたに会いに行っていいってこと?


どういうこと?








それ以上は何も聞けずに

店を出て、家に帰り、風呂に入り準備して



仕事に向かう途中も、
その意味をずっと考えてた。









3ヶ月ってなに?

待ってあなたの気持ちの何かが変わるのか?

もうすでに半年間待ってたんだけど。





あいつ絶対なんか知ってるよな。
俺なんかに教えてくれなさそうだけど。











でも、"タマ"の言葉のおかげで



どこか、少しだけ

勝手に希望が見えた気がした。















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