第6話

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2025/12/30 18:00 更新





3年部員「みんな、お疲れ様」




 昇降口に着き、靴を履き替えとると、誰かが声をかけてくる。


 薄茶色の髪色の―3年の常田先輩や。




2年部員達「お疲れ様です!」




 先輩やと気づくと、2年達は元気よく挨拶をする。


 そして他のバスケ部の3年がいないとわかるとホッとしたようやった。


 柔和な笑みを浮かべている常田先輩は、学年関係なくみんなに親切で優しい。


 困ったことがあれば相談にのってくれる先輩で、僕達が1年の頃もよく声をかけてくれた。


 そのため、2年は3年のことを嫌ってても、常田先輩だけは好いている人が多い。




常田先輩「2年生はみんな本当に仲が良いね」




 その言葉に、頬が軋んだような妙な感覚がした。


 常田先輩には、僕達が仲良く見えてるんですか?


 そう問いたくなって、下唇を噛む。


 この黒い感情をどうにかして堪えたいのに、ちょっとした言葉で溢れ出てしまいそうになる。




常田先輩「佐野くん、このあと少しいい?」


佐野「え?」


常田先輩「部活のことで話がある」




 困惑しながら、誠也達をちらりと見る。


 少し驚いたような表情をしているが、不満を抱いてはなさそうやった。




末澤「先帰ってるな!」




 元気よく誠也が僕の肩に飛びつくと、耳打ちしてくる。




末澤「さっきの練習メニューの話、常田先輩にも相談してみてや!」




 あっさりと行くように促したんは、それが理由やったみたいや。


 そして彼らはすぐに「また明日な!」と言って手を振る。


 誠也達の話し声が次第に遠のいていき、昇降口が静かになった。


 部活後にわざわざ呼び止めてまでする話とは、なんやろうと身構える。




佐野「あの、部活のことで話って……」


常田先輩「半分嘘で、半分本当」




 珍しく常田先輩が砕けたような笑みを見せるので、目を丸くする。


 いたずらが成功した子供みたいに無邪気やった。




常田先輩「急にごめんな。だけど、佐野くんが辛そうに見えてさ、なんかあったんかなって」




 誠也達は僕の些細な変化に気づくことがあっても、深く聞いてくることはない。


 一緒にいる時間が短い常田先輩の方が、僕のことを心配してくれているように感じた。




佐野「……1年と2年の関係が、最近悪化してるんっすよ」




 自分がみんなに悪口を言われていることを口に出すんはためらった。




常田先輩「佐野くんは優しいから間に挟まれやすくて大変よな」




 なだめるように常田先輩が僕の肩に軽く触れる。




常田先輩「それならさ桑田先生に、現状が辛い事を相談するのはどうかな」


佐野「桑田先生に……?」




 1年の言ってた2年の嫌がらせの件と練習メニューの件は伝えようと思ってた。


 けど、自分のことまで相談をしようとは考えてへんかった。




常田先輩「佐野くん、無理しないで。本当はもう精神的に限界が来てるんじゃない?」




 限界という言葉に、心臓がどきりと跳ねる。


 自分でも頭の隅に追いやって気づかないフリをしてただけで、心は疲弊していた。


 もう無理して頑張りたくない。


 部内の人間関係に悩む日々から逃げ出してしまいたい。




常田先輩「佐野くんがこんなに悩んでるから、真剣に考えてくれるはずだよ」


佐野「でも……」


常田先輩「大丈夫やで。実はさっきまで職員室で桑田先生と話してたんよ」




 優しい口調で言いながら、常田先輩は僕を落ち着かせてくれる。




常田先輩「先生も佐野くんの調子が悪そうだったって心配してたんよ。だからきっと、親身になってくれるはず」




 普段は厳しい桑田先生が、僕のことをそんな風に気にかけてくれてるとは思えへんかった。


 本当に話しても大丈夫やろうか。


 不安と期待が胸に入り混じりながら常田先輩を見ると、安心させるように微笑みかけてくれる。




常田先輩「1人で抱え込まないで、顧問の桑田先生に相談してみて。な?」




 大きく背中を押してもらえた気がして、僕は頷いた。





 〈登場人物紹介〉




常田ときた先輩

 バスケ部3年生。実は『青年期失顔症』を経験している。




桑田くわた先生

 バスケ部顧問。




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