着替え終わると、僕達は更衣室を出て昇降口へと向かって歩き出す。
末澤「腹減った〜!コンビニで唐揚げ買おっかな」
2年部員「誠也、晩ご飯食えへんくなるで?」
末澤「やって今すぐ食わへんと、空腹で倒れそうやし〜」
自然とこの後にコンビニに行く流れになっていて、僕の心だけ取り残されていく。
本当は気が進まへん。
あんな話を聞いた後やから、どんどん疑心暗鬼に囚われていきそうや。
でも『行かへん』と言ってしまえば、ノリが悪いと思われる。
ますます居場所が消えていくかもしれへん。
僕のことを悪く言っていた人達なんに、この居場所を手放すのが怖くてたまらない自分が嫌やった。
全部、聞き間違いやったら良かったんに。
末澤「佐野?どしたん?」
誠也が僕の顔を覗き込んできて、首を傾げる。
末澤「さっきから黙っとるから、なんか考え事かなって」
佐野「あ、」
末澤「佐野もコンビニ行くよな?」
帰りたい。
そんな本音を飲み込んで喉が上下する。
硬い何かを嚥下した気がして、呼吸が苦しくなった。
2年部員「あれ、小島じゃね?」
2年部員「金髪やから目立つよなー」
僕達が歩いている廊下のずっと先に、男子生徒が歩いている。
顔を確認しなくても彼だとわかるのは、この学校では珍しく髪を金色に染めているからや。
2年部員「1年の時から浮いてるよな」
2年部員「話しかけても素っ気ないっていうか。感じ悪いし」
1人が小島くんの話をし始めると、次々に彼に関する話題が出てくる。
そのことになんとも言えへん感情になった。
末澤「でもさ、小島ってちょっとかっこええよな」
誠也が声を弾ませながら言うと、みんな目を丸くした。
そしてにやりと笑うと、からかうように数人の子達が誠也を小突く。
2年部員「え〜!かっこええなんて思ってたんや〜。もしかして誠也って男が好きなん?」
末澤「違っ、そうやなくて!ただちょっとかっこええなって思うだけやって!」
2年部員「はいはーい。」
末澤「お〜い!」
僕はなにも言えへんかった。
彼―小島健は、僕にとって苦手な存在で、やけどずっと心から消えずにいる。
廊下を曲がろうとした小島くんの顔が一瞬だけ、こっちを向いた。
……目が合った気がした。
切れ長の目に、綺麗な鼻筋。
昔の面影を残したまま、彼はどこか近寄りがたい雰囲気を醸し出すようになっていた。
2年部員「今、誠也のこと見てへんかった!?」
末澤「ちゃうわ!お前らの声が大きいからやって!」
顔を真っ赤にしながら否定している誠也が、僕に「助けて、佐野〜!」と抱きついてくる。
僕は苦笑しながら自分より頭一つ分背の低い誠也の頭を軽く撫でた。
小島『―佐野ってさ、そういうの疲れねぇの?』
幼さの混じる声が再生される。
今なら彼の言葉に頷いていたかもしれへん。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。