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第8話

義姉と彼女と灰谷兄弟
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2023/08/04 22:00
 ⚠ 1年近く前に書いたものですので
   結構読みにくいと思います😭
 ⚠ 名前有り夢主が出てきます

  







突然だが、私には同棲を始めた彼氏が居る。この六本木で、彼を知らない不良はいないような、そんな人。不釣り合いではないかと心配する私に、これだけ好きと思ったのはお前が初めてだと答えてくれたことは、今でも鮮明に思い出せる。
それは言うまでもない灰谷兄弟の、兄の方なのだが……。




「ア、そういえばウチ、義姉も居るンだよね」
「えっ、義姉?どういうこと?!」
「まァ、ウチも色々あるッてことなの、よろしくしてやって」

なんて私が開けたダンボールの中身を適当に配置しながら言う蘭に、私は溜息を吐いた。
なんでそんな大事なこともっとはやく言わないの……。

「あ、まる子ちゃんじゃん」

「竜胆君!改めてこれからよろしくね」

後ろから掛かる声に振り返れば、髪を一つに束ねてラフな格好をした、彼氏の弟竜胆君が立っていた。呼び名が面白かったのか、蘭がブフッ、と吹き出す。確かに、じゃないのよ。ちょっと。

「ナニ、まる子ちゃんって」

「出会い頭に付けられたあだ名なの、アレから変えてもらえなくて」
「へえ?可愛いじゃん?」

絶対思ってないでしょ、と口にして、またダンボールの中から荷物を取り出す。あと少しで終わりそうな荷物の量に、はあとまた溜息を吐いたのは、何故か竜胆くんだった。

「雪、ちゃんとやるかな……」
「雪?」

急に出てきた女の名前。はて……?
チラリと蘭のほうを見ると、蘭はただケラケラと笑って、手に持った写真立てに目線をやっていた。私と蘭のツーショットの写真だった。まだ私が蘭との距離感を掴みかねていて、まだ表情がぎこちない。
竜胆君がそのまま立ってどこかに行ったあとで、蘭はコソッと私に耳打ちした。

「雪ちゃんの態度多分悪いけど、悪い奴じゃないから許してやって。度が過ぎるようなら俺が竜胆に言うから。」

いや何故竜胆君に言うの??とは言えず。疑問に埋め尽くされた私は、こくこくと頷いておいた。
嫁姑的な何かが来るのか、と、まだ起きてない問題に胃を縮ませながら、ばくばくと鳴る心臓の音を確認した。灰谷兄弟なんかより女の方がよっぽど怖いのだ。


数日して、遂に例の雪ちゃんと顔を合わせた。彼女はとても綺麗な人で、黒く長い髪、切れ長の目に長いまつげ、加えて全体的にスタイルが良い。
コレ私ヤバイやつだ、と、覚悟を決めて挨拶した。

「あの……えっと、蘭の彼女の……」
「知ってる。別に挨拶要らない」

予想通りの冷たい声。綺麗なネイルが施された爪で、携帯をカコカコと弄っていた。横に居た蘭は、何故か笑いを堪えている。

「い、いえ……住まわせて貰うの、私なので……これからよろしくお願いしま」
「要らないって言ってるでしょう」

今度は少し大きな声で言われてしまった。見るからに分かる。私のことが嫌いなのだ。ソファに座る彼女の隣に、蘭が腰掛ける。近いなあとモヤモヤする間もなく、彼女は二人分の間を空けるように隣にズレた。

「……蘭君」

「ふは……やっぱ雪ちゃん最高」

お腹を抱えて笑い出す蘭。何か言いたいことがあるらしい雪さんは、口をモゴモゴと動かしているが私と目が合った瞬間さっと逸らされた。
蘭を独占したい訳では無いらしい。どういうことか理解出来ずに居た私は、ソファの下にちょんと座った。

雪さんは、苦そうな顔をして立ち上がり、ソファから離れた。ただ私だけが、蘭との会話の意味が理解出来ない。

「………蘭君、私出掛けるから、竜胆に言っといて。もう無理って」
「はは、言っても無駄だと思うぜー?」
「はあ……もうやだ…」

そうして出ていってしまった雪さん。雪さんから香る匂いは、最近流行りの香水、、と言う訳ではなく、暖かい日の匂いがする、柔軟剤っぽかった。








何だか悪い人ではない気がして、私は雪さんに話し掛けてみてはいた。
でも、結果は全敗。どれだけ話し掛けても、冷たく返される。唯一良かったのは、蘭と付き合い始めていた頃に寄ってきた女と違って手は出されないことだった。ただ、流石に同じ空間で過ごす人にこうも冷たく当たられて、笑顔で過ごせる程私は出来た人間でもなく。心は折れかけていた。

「ゆ、雪、さん……お夕飯、作るんですけど……食べられますか?」

恐る恐る聞いてみる。キッ、と強く睨まれて、ヒッと怯む、というコントのようなことをしていると蘭が現れた。また笑いを堪えている。

「雪の分も作っておけば?コイツも捨てやしないだろ」
「蘭君……馬鹿なの?食べれる訳無いじゃん」

強い拒絶を受けて、私は多分表情をコントロール出来なかったのだと思う。視線を下にしてしまって、つい目に涙を溜めてしまった。

「は?ちょ、泣く?え、は?」

冷たくて怖くて、溢れてきた涙が止まらない。振り返った私は、いつの間にか後ろに立っていた竜胆君と目が合った。

「雪」
「………………………りん、ど」

名前を呼ばれて硬直する雪さん。竜胆君が優しい笑みを浮かべていた。私のせいで雪さんが怒られてしまう、という私の偽善と、そのまま雪さんを追い出してくれないかな、なんて思う醜い私がぶつかっていた。

「泣かせるのはよくねぇな」
「………な、泣くとは思ってなくて」
「そうだな、でも泣いてンだから謝っとけば?」

「……っ、ご、ゴメン……」

ふと、見上げた雪さんの顔が青白いことに気が付いた。目線を合わせることもなく雪さんは私に頭を下げた。綺麗な角度だな、なんて思ったのも束の間、私が声を発する前に雪さんは鞄を引っ掴んで出て行ってしまったのだ。

「ゴメンな、まる子ちゃん。雪、もとからああいう奴だから許してやってくれねぇ?」
「……怖いけど、別に大丈夫だよ」

なんて返事をすれば、ほっと息を吐いた竜胆君は、ご飯待ってる、と言って部屋に帰って行った。
蘭の方はと言えば、無言のまま私の頭を撫でていて。ズルいな、と思うのは、庇ってくれなくたってこうされるだけで私が元気になれてしまうから。明日も頑張ってみよう、と意気込んで、私はその日を終えようとしていた。


二人用に買ったキングサイズのベッド。
その日は何故か浅くしか眠れず、意識は一応浮上していたのだ。隣の蘭は多分寝てない。私を抱き枕にしてうとうとでもしていたのだと思う。そして、コンコン、というノック音で起き上がった蘭は部屋の電気を付けた。私は電気がついていても寝れるタイプなので、特に考えず付けたのだろうが、今は気になってしょうがない。何故ならノックしてやって来たのが、竜胆君ではなく雪さんだったからだ。


「……カノジョ、起きない?大丈夫?」
「多分大丈夫、で?どうした?」

ばくばくと鳴る心臓が聞こえてないか心配になったが、どうやら大丈夫なようで、蘭と雪さんの会話にひたすら耳を傾けた。
どうしよう、女癖の悪い蘭のことだから、ここで……。なんて嫌な予想までしてしまう。

部屋に響いたのは、聞いたことのないくらい優しい声の男女の会話だった。





「……蘭君〜〜〜、私もうギブ、無理、辛い」
「はは、ンなことだろうと思った」

「私だってカノジョちゃんとお話したいよ、ご飯食べたいよぉ……」
「ウケる、めちゃくちゃ根に持ってんじゃん、ソレ」
「食の恨みは重たいんだから、蘭君ばっかりズルい」
「そら俺のカノジョだから」
「私の義理の義理の妹にしてよ〜〜」
「それ言っちゃ駄目だろ、もうちょい待て」
「…………ここから引っ越しちゃ駄目?」
「駄目♡」
「………なんで?」
「可愛い弟の為」
「……お父さんにも話すから」

「それも駄目、けど俺さァ、可愛い弟の為に素晴らしい案があるんだよねぇ。聞く?」
「何それ!聞く!!」



「俺の義妹になれば?」










「俺のいもうとになれば?」


は?とカノジョちゃんに対するような冷たい声を出してしまった。は?

「いや、いやいや、どういうこと?」
「エー、伝わんない?だから、竜胆の嫁になれば良いじゃんってこと♡」

説明させて欲しい。
私こと雪の義弟、灰谷蘭と竜胆は、私の父親が貰った養子なのだ。何故父親が養子をとったのか、何故蘭君と竜胆を選んだのかは謎のまま。
蘭君に、竜胆に、何人カノジョが出来ても、兄弟だからという理由で一緒に住んでいた家は蘭君の将来のお嫁さんになるであろう大本命が出来ても出させて貰えなかった。

加えて酷いのは。


『あー、兄ちゃんの嫁に優しくすんな。なんなら酷い態度取って』
『は?なんで?!』
『……なんでも。兄ちゃんがカノジョ囲うためじゃね?兄ちゃんより頼りにされたり優先順位上げられんのが嫌なんじゃね?ンで、お前にも恋しかねないし』

と、カレシの蘭君からストップが出たとのこと。
あり得ないだろうそんなこと。と言いたくなったのは二回。それを言われた時とカノジョに会った時。金髪ふわふわの、小さくて可愛らしい女の子だった。おまけに手先が器用で、守ってやりたくなる程。視線の先にはいつも蘭君がいて、完全に仲良しカップルだった。というか、蘭君は不思議な性癖を持っているのだなとも思ったが。

蘭君の隣ですやすやと眠る彼女と、私はまともに話をしたことがない。その事実に耐えられなくなり、音を上げたのは実は私の方が先だ。泣かせてしまう前に蘭君の前で涙を流したことがある。その時、何も言わずにいた蘭君を酷いと何回思ったことだろう。
泣かれた時は本当に焦ったし、溢れる涙を掬ってあげれないことが本当に悔しくて。涙を我慢するので必死だった。

「意味分かんない、蘭君が許可くれるだけで良いじゃない」
「は?許可ってなに?」
「自分のカノジョと、私がお話すること、許してよ。いい加減」
「は?だから何言ってんの?」

意味が分からない、と言わんばかりの顔をしていたのは蘭君も同じだった。モゾモゾとカノジョが動き出す。起こしてしまってないだろうか

「俺許可いるとか言ってなくね?何の話?」
「や、竜胆が……え?蘭君ってアレじゃないの?カノジョの世界を全部自分に染めて、自分しか見えなくするんじゃないの?」

「ハ?俺に対してどんなイメージ持ってんの?」

額に青筋の入った蘭君が、まあいいワと言って電気を切った。竜胆より細い体の上に、高い背。どこからどう見たって私のお兄ちゃんなのに。誕生日とは怖いものだな、と薄っすらと思う。

「てかソレ、俺じゃなくて竜胆じゃね?」




は?と声を発した。ガチャ、とドアが閉まる音
追い出された部屋の外、私はううんと唸る。水でも飲むかとキッチンへ足を運べば、夜に出掛けていた竜胆が帰って来ていた。

「おかえり、竜胆」

蘭君とそっくりの垂れた目が、少し緩まったように見えた。家族愛が強いなあと思い始めたのは最近のことではないが、こうも嬉しい反応をされてしまうと照れてしまう。

「ただいま。アレ?雪、顔色悪くね?」
「え、あっ、うーん……」

ふい、と竜胆に合っていた視線を外す。
ここのところ自分の心情が体調に表れてしまい、コントロールがしにくいのだ。けど、それはバレたくない。持っていたコップに水を注いで、顔をこれ以上見られませんようにと祈る。

「てか、お前また兄ちゃんの部屋行っただろ」
「うん……そろそろ許可欲しいなと思って」

「許可?」
「カノジョちゃんと、話したいなって」
「……話したい?」

オウム返し。チラリと竜胆の方を見やれば、どうやらソファに座って私の方を凝視しているらしかった。

「……蘭君と竜胆は、私の兄弟。そして、今のカノジョちゃんは多分このまま蘭君のお嫁さんになってくれると思うの。未来の姉妹が仲良くしちゃ、駄目?」
「…………雪は俺のことまだ弟だと思ってんの?」
「今そんな話してないでしょ」
「ふーん」


冴えてしまった目を抑える為に、溜まっていた洗い物を片付けてしまおうと水道の蛇口をひねる。手荒れさせたくないと、蘭君がこれだけはやらせていなかったような気がする。

「ん?竜胆、近くない?」

私の頭の上の物を取るのに、後ろから覆うように取る必要、あるのか?眠たくなってきた頭で、疑問と共に思考がパンクしかける。

「何、兄弟なんだろ」
「や、義理だから……ちょっと、近いと、慣れないデス」
「へー、あっそ」

何その態度、酷くない??
しくしくとなくフリを全力でしておけば、少しして竜胆が呟くように言った。



「俺が、兄ちゃんのカノジョと仲良くして欲しくなかった」
「え」

隣で珈琲を淹れる竜胆、ピアスが反射してきらりと光ったように見えた。

「あと、前にナンパ撃退してる雪の姿カッコよかったから、似たのをまた見たくて」
「は?」

……雲行きが怪しい。

「兄ちゃん何も言わねぇし、泣かせねぇくらいならいいかなって思った」
「はあ?」
「てか、カノジョと仲良くなって俺との時間減ったらヤだし」
「い、」
「だったら強制的に雪独りにすりゃあ良くね?と思って。別にカノジョ悪くねぇから、悪ぃの雪になるし、そこにつけ込めば落ちるかなって思った」

「ま?」

「なのに兄ちゃんとこ行くし、家族線めっちゃ引かれるし。ボロ出まくってンし」
「ちょ、待っ………?」

水は出ているまま。じゃーという水音だけがキッチンに響く。



「な、俺じゃ駄目?話したいのも出掛けたいのも、笑顔見たいのも。一緒に過ごしてくの、俺じゃ駄目?」







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