第60話

第肆拾玖話~手を差しのべて~
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2021/10/08 11:52
竈門炭治郎side
竈門 禰豆子
お兄ちゃん、帰ろう。家に帰ろう。
帰りたい。俺も家に帰りたいよ、禰豆子。

本当にもう疲れたんだ。

(涙を流す精神世界の炭治郎は肉塊に

取り込まれた状態だった)

お願いします、神様。家へ帰してください。

俺は妹と家へ帰りたいだけなんです。

どうか…………
鬼舞辻無惨
帰ってどうなる。
(空へと手を伸ばした炭治郎の右腕に付いた

肉塊から目が現れ、無惨が炭治郎に話しかける)
鬼舞辻無惨
家族は皆死んだ。死骸が埋まっているだけの家に帰ってどうなる。
(無惨の目が伸ばした手の甲にも現れる)

思い出が残ってる。あの幸せな日々は俺と

禰豆子がいる限り、消えない。だから、帰る。

(無惨の肉塊から少しだけ離れ、上に上がる)
鬼舞辻無惨
無意味なことをするのはよせ。
禰豆子は死んだ。お前が殺した。
(炭治郎の腕に付いた肉塊に顔の上半分ができる)
嘘だ。禰豆子は生きてる。
お前は嘘つきだ。
(誰かが炭治郎の背中を上へと押し上げる)
鬼舞辻無惨
余計な真似をするな、亡者共。
鬼舞辻無惨
血の匂いがするだろう、仲間たちの。お前とあなたがやったのだ。
鬼舞辻無惨
恨まれているぞ。誰もお前が戻る事を望んでいない。無論、あなたも。
謝りたい。皆を傷付けてしまった事、戻って

謝りたい。
鬼舞辻無惨
謝っても許されない。
(無惨が尚も言い続ける)

それはお前が決めることじゃない。皆が俺を

心配してくれてる。匂いでわかる。


ボコッ(炭治郎の腕に付いた肉塊から無惨の体が

出てくる音)
鬼舞辻無惨
黙れ。お前は私の意思を
継ぐ者の一人。
鬼舞辻無惨
前を向くな。人を信じるな。希望を
見出だすな。
(炭治郎の腕の肉塊から無惨の上半身ができ、

炭治郎の髪と隊服を鷲掴みにしながら言い続ける)
鬼舞辻無惨
鬼でなくなれば、数年の内に
死ぬのだぞ。痣の代償を
払わねばならぬ。
鬼舞辻無惨
自分の事だけを考えろ。目の前にある無限の命を掴み取れ。
嫌だ。俺は人間として死ぬんだ。

無限の命なんて少しも欲しくない、いらない。

皆の所に帰りたい。

(無惨は冷たく炭治郎を見下す)
鬼舞辻無惨
屑め。
鬼舞辻無惨
お前だけ生き残るのか?大勢の者が
死んだというのに。
鬼舞辻無惨
お前だけが何も失わず、のうのうと
生き残るのか?
ボコボコ(無惨の肉塊が炭治郎の腕を更に

包んでいく)


(炭治郎の目から大粒の涙が頬を伝う。そんな

炭治郎の背中を誰かが押す感覚が。いくつもの

手が炭治郎の体を上へと押し上げる。)
鬼舞辻無惨
こんなもの、お前の妄想だ。
恥を知れ!やめろ!!
しのぶさんの匂いがする。いや、これは…………

藤の花の匂いか…………

(藤の花の中から手が差しのべられる。炭治郎も

腕を伸ばす。その手に掴まれた時、声が聴こえた)
竈門 禰豆子
お兄ちゃん、帰ろう。
禰豆子…………

(炭治郎の目から涙が溢れる)
鬼舞辻無惨
手を放せ!此方に戻れ!太陽すら
克服したと言うのに!
鬼舞辻無惨
お前は類稀なる生物なのだ!そっちに行くな、炭治郎!
(無惨は声を荒げながら、炭治郎を

引き留めようとする)
鬼舞辻無惨
死んだ者たちの憎しみの声が
聞こえないのか!!
鬼舞辻無惨
何故、お前だけが生き残るんだ。と
叫んでいるぞ。
ズズ(炭治郎が次第に上へ向かい、無惨から

次第に離れていく音)
鬼舞辻無惨
何故、自分は失ったのに
お前だけは…………
そんな人いない。自分ではない誰かのために

命を掛けられる人たちなんだ。自分達がした

苦しい思いや悲しい思いを他の人にはして

欲しくなかった人たちだから。
鬼舞辻無惨
炭治郎、待て!!
待ってくれ、頼む!!
鬼舞辻無惨
私の意思を、思いを継いでくれ、
お前とあなたが!!
(無惨が炭治郎の腰にしがみつくようにしながら、

必死に炭治郎に訴える)
鬼舞辻無惨
お前たちにしか出来ない!お前は、
あなた同様、神に選ばれし者なのだと
言うのがわからないのか!
鬼舞辻無惨
お前ならなれる!!完璧な…………
究極の生物に!!
(炭治郎の目には大粒の涙が浮かび、その

伸ばした手に禰豆子以外の手が

差しのべられていく。その手は冨岡、善逸、

伊之助、あなたのものだった)

皆…………。
炭治郎、戻ってこい。
絶対負けるな。
此方だ、炭治郎。
帰ろう、家に帰ろう。
(其処から次々仲間の腕が差しのべられ、

炭治郎を掴み、上げていく)
あなた
炭治郎さん、貴方だけでも生きて。
生きて、禰豆子ちゃんと一緒に家に
帰らなきゃ。
あなた
貴方だけでも。
鬼舞辻無惨
炭治郎、炭治郎行くな!!
(無惨の言葉を他所に炭治郎は上へ上へと

上がっていき、遂に無惨の手から炭治郎が離れる)
鬼舞辻無惨
私を置いて行くなアアアア!!
(炭治郎は目を瞑ったまま、藤の花の花弁が

顔に乗ったりしながら通っていく。藤の花が脇に

退き、青空が広がる。それと同時に現実で

炭治郎は目を開く。開くと見えるのは自分を

囲んだ仲間たち、そして妹の禰豆子)
竈門 禰豆子
お兄ちゃん
(涙を溢しながら、此方を覗く禰豆子。炭治郎も

涙を溢す)
竈門炭治郎
…………ごめん。怪我、大丈夫…………か…………
全員
戻ったあああああ!!
全員
炭治郎だぁああ!!
ワッ(皆が歓声を上げる)
嘴平 伊之助
お前にやられた傷なんか…………ハア、ハア、ハフン、たいしたこと…………
ねぇ…………。
我妻 善逸
俺は…………一生かけて…………
償ってもらうから…………
妻の分も…………
竈門 禰豆子
(妻?)はわわ
冨岡義勇
はー
(冨岡が魂が抜けるように倒れそうになるのを

隠が支える。そして、禰豆子が炭治郎の顔を

手で包みながら、二人して涙する)
カナヲちゃん。炭治郎、
目を覚ましたよ!
嘴平 伊之助
ウオオオン
カナヲ…………よかった…………。生きてる…………

(離れた場所で横たわったカナヲは此方を見て、

涙を流しながら微笑んでいた。その微笑みに

炭治郎も微笑みに返した)
あなた
よかった……。起きた………みたいで……
全員
!!あなた/ちゃん!
(あなたは胸に刀を突き刺したまま、

吐血しながら穏やかな微笑みを浮かべていた。

その目は人の目で涙を溜めていた。だが、それは

片目だけだった。赤い瞳は鬼だったが、殺気は

放っていなかった)

竈門炭治郎side 終了


冨岡義勇side
あなた
大…………丈夫…………。やっと…………
出来る…………。あと貴方だけだった。
貴方が起きたから、出来る。
全員
??
あなた
冨…………岡…………さん。
ちょっとだけ…………いいですか?
冨岡義勇
あぁ。
(冨岡はあなたの傍へ行き、あなたを上半身を

起こさせ、軽く抱き締めた)
あなた
冨岡さん…………________________。
冨岡義勇
!!
あなた
一か八かやってみる価値がある。
でも、長い間眠るかもしれません。
それでも…………待ってくれますか?
冨岡義勇
…………あぁ。約束だ。必ず
帰ってこい。いつまでも…………
待ってるから。
あなた
!!…………ふ…………。私が血気術を
発動したら…………、刀を抜いて
下さい。貴方だから…………
頼んでるんです。お願いします…………ね…………。
(あなたは少し驚き、穏やかな微笑みを浮かべた。

冨岡は涙を浮かべながら、あなたを見つめた)
あなた
じゃあ、お願いしますね。
あなた
血気術…………あかつき明星みょうじょう癒命ゆめい!!
(あなたが手を空へ突き上げ、血気術を

発動した瞬間、冨岡は刀をあなたの胸から抜いた。

血気術の暖かな光は鬼殺隊の皆に降り注ぎ、

怪我がみるみる癒えていった。そして、

あなたは瞳を閉じた)
全員
!!傷が…………!?
冨岡義勇
…………っ…………
ポタポタ(冨岡の瞳から大粒の涙が零れ落ちる音)


(冨岡は深い眠りについてしまったあなたを

抱き締めた。そして、あなたが言っていた事を

思い出していた)
あなた
冨岡さん…………私が今からやる
血気術は、命と引き換えに皆の傷を
癒すことが出来ます。
あなた
だから、死ぬかもしれない。でも、鬼として・・・・死んで、人の細胞だけが
残れば、生きることが出来ます。
あなた
一か八かやってみる価値がある。
でも、死ななくても、長い間眠るかもしれません。それでも…………
待っててくれますか?
あぁ。いつまでも、待っているからな…………。

あなたが目覚めるまで…………ずっと。
血気術  あかつき明星みょうじょう癒命ゆめいとは!!

あなたの血気術の一つ。命と引き換えに

その場にいる人たちの傷を無効化する事が出来る。

その代わり、人間の自我を持っているため、

長い間眠りに落ち、生き延びる可能性がある。

この可能性を信じて、あなたはこの血気術を

発動した。この血気術は痣の代償を

打ち消すことも出来る。長く生きて欲しい。

と言うあなたなりの優しさが造り出した

血気術でもある。

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