〈サクラside〉
いつも平和なLE SSERAFIMの控え室に、何やら不穏な空気が走る。
赤ちゃん猫のように威嚇するウンチェと、それに負けじと抗うユンジナ。
そんな2人の口喧嘩だけならまだ良かったものの、両腕を引っ張られているせいで身動きが取れない。しかもかなり強い力で。
ルセラの体力ヤバすぎます…
経緯としては、ケータリングのお菓子をどっちが私にあーんするかで揉め始めたのがきっかけ。
それで揉めるのがまずおかしいんだけど。。
まぁそれは置いといて。どっちもすればいいじゃんって提案したら、どっちが先にあげるかでまた揉め始めて…今に至る。
なんか私、ふれあいコーナーにいる小動物みたいな扱いじゃない?
それなら2人は餌付けの順番で姉妹喧嘩してる小学生だけど。
また始まってしまった。年功序列も何もないじゃん。
現に私の言うことを聞いてくれないんだから。
困ったな。こんな時はうちの頼れるラブリーダーが助けてくれるといいんだけど…
さっきからチラチラ私の方を見てくるし、絶対気づいてるはずなのに。
チェウォナ〜、助けてよーー!!
そう視線で送ってみても、ズハとの会話をやめる気は無さそうだった。
なんなんだ、恋人が困ってるって言うのに。。
やっと腕が解放される。なんか二人とも私の話聞いてない気がしてちょっと複雑、、、
依然として空気はピリついたまま、言い争いはまた原点に戻ってきてしまった。
とんでもない二者択一を迫られる。
本格的に困った。私の答え次第でグループに亀裂が入る可能性も考慮しなければ……
少しの間熟考していると、新たな刺客と思われる人物が登場する。
意外にも、救世主はズハだった。
身動きの取れない私の元へやってきて、グミを差し出してくれた。それを口に含んであげると、ズハは満足気に目を細めた。
急にあっちの会話から抜け出したみたいで、チェウォナもびっくりしている。
解決ですね〜なんて笑うズハ。一瞬にしてこの控え室がほわほわとした空気に変わる。
例の2人は呆気に取られたように固まっていた。
まるで漁夫の利。ユンジナの顔がちょっと面白い。
ズハは緩衝材みたいな子だ。
最後だけはリーダーらしくまとめる私の彼女。
目が合ったので、あからさまに不服そうな顔をしてみる。だがその甲斐もなく、ただ、早く行きますよ、とあしらわれるのだった。
今日のチェウォナ冷たくない?
いつもだったら笑ってくれるのに…
少しの違和感が残りつつも、私の思考はパフォーマンスのことへと逸れていく。そしてそれは跡形もなく記憶のケージから飛び立ってしまうのだった。
『帰ったら私の部屋に来てください』
そのメッセージに気づいたのは、帰りの車内でのことだった。
ノックをしても返事はない。
ドアを開けるなり、いかにも不機嫌オーラ全開のチェウォナが目に映る。
促されるままベッドに腰掛けようとすると、そこじゃないです、とフローリングを指さすチェウォナ。
あれ、私ってオンニだよね、、?
張り詰めた空気の中でそんなことを言えるはずもなく、すんなりと冷たい床に座り込む。
彼女はしばらく黙ったまま、私を品定めするかのように懐疑的な視線をぶつけてくる。
もちろん私は困惑するしかないわけで。
私何かしたかな……?
あれこれと記憶を辿ってみても、チェウォナが不機嫌になるきっかけなんて思い当たらなかった。
私は普段からそういうトラブルをなるべく避けたい人間だから。
その行動の結果がこれなら、なんかおかしい。
開口一番、チェウォ二は眉間に皺を寄せてそう言った。
ああ、今日のことか。一瞬質問の意図がわからなかったものの、すぐに理解が追いつく。だが納得はいっていない。
チェウォナが怒る理由なんてないと思うんだけど。むしろ怒るとしたら私の方でしょ。
彼女は深く考える方では無いのに、私のことになると例外みたいで。
私しか知らない疑り深い人格がひょこひょこと顔を出すのだ。だから何かと嫉妬するし、よく怒る。
怒りん坊なのは、もとからだけど。
とにかく、そんなチェウォナが愛おしくてなんだかいじらしい気分になる。
拗ねるくらいなら素直に助けてくれればよかったのに。そう呟くと、何やらチェウォナにも言い分があるみたいだった。
慌てるように釈明し始めるチェウォナ。
なんだか立場が逆転してきたように見える。
そう言えば、私から言い出したんだっけ。
いけないことみたいで楽しいじゃん、って。たぶんもうみんなにはバレてると思うけど。
そう言って、チェウォ二は熱っぽい眼差しを傾けた。部屋の湿度がほんのちょっと上がった気がして、途端にそういうムードが私たちを包み込む。
少しずつ近づいてくるチェウォナを受け入れるように、そっと唇を重ねてみる。
含みのある声を遮ったのは私だった。
最後まで聞かずとも、チェウォナの言いたいことはハッキリとわかった。
私はそんな決まり文句のような文言で、遠回しの承諾を示す。
わかってますよ、と呆れたように言う彼女。
そうは言っているけれど、いつもどこかしらに牽制の蕾が咲いているのを私は知っている。
彼女の情欲が喉を伝う音がして。
まるで獲物を捕食するかのような、獰猛な目付きで貪るように見つめられる。
こういう時のチェウォナの顔が好きだ。
私のもの、と言わんばかりの。だけれどどこか自信なさげにも見える、そんな顔。
それを補うように少々乱暴にでも愛をぶつけてくる、そんな必死さが愛らしいんだ。その度にチェウォナの愛の大きさを伺えるから、私の心は満たされていく訳で。
実際、私は愛するよりも、愛される方が性に合うんだと思う。だからなのか、彼女のそういう表情を見ると妙にゾクゾクしてしまう。
そう言うと、彼女の匂いが染み込んだベッドに押し倒される。この浮つくような高揚も慣れてきた。
挑発するように口角を上げると、余裕な感じが気に食わなかったのか強引に唇を塞がれる。
こういうところが堪らなく好き。
ねえ、チェウォナ。ウンチェにも、ユンジナにも、ズハにも取られたくないんだよね?
だったら…
私しか愛せない、そんなチェウォナを愛してあげる。
fin.












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。