目が覚めると、時計は正午を回っていた。
——リハーサル、9時から。
焦って体を起こそうとするが、 体中が鉛みたいに重くて動かない。
喉は痛く、頭はぼんやり。 全身のだるさが、無言で俺を押さえつけている。
そのとき、部屋のドアが静かに開いた。
「……あ、起きたんだ」
声を聞くだけで、胸の奥が少し緩む。
振り返ると、そこにはあなたが立っていた。
「……あなた……?」
彼女は笑っている。 けれど、その瞳には心配の色が濃く映っていた。
「……あっきぃさんの公式からDMきて焦ってみたら、 りゅうきくんが風邪引いてるって聞いて……」
俺は、言葉が出なかった。 こんな距離で、こんなに気にしてくれているのか。
彼女は少し歩み寄り、 机の上に置いてあったコートを手に取る。
「合鍵、返し忘れてたし、これで入った」
——合鍵
一瞬、言葉に詰まる。 彼女が、俺の生活に、そっと入り込んでいることに、 心の奥がざわついた。
「今日は、看病してあげるから、休んで。 ほんと、相変わらず……」
懐かしむように小さく笑う。
少しだけ肩の力を抜いた表情で、
「がむしゃらな頑張り屋さんなんだから」
俺は、言葉を飲み込む。
——昔から変わらないな、彼女は。
心配してくれるその顔も、 淡々とした口調も、 全部が、安心と焦りを同時に運んでくる。
「……ありがとう、あなた」
声は弱々しいけれど、 本心がそこにある。
彼女は、そっとベッドの横に座ると、 毛布を整えながら、手際よく熱を測ったり、
水やスポーツドリンクを差し出したりする。
「……無理しても仕方ないから。 今日は、リハーサルは置いといて」
その目は、厳しさと優しさが混ざっていて、
昔、泣きそうになりながら香水作りに没頭していたときの、 あの優しい眼差しを思い出させる。
「……でも、俺……」
「知ってるよ。脳筋バカなんだから」
また笑う。
でもその笑顔の裏には、 「ちゃんと見てるから」っていう静かな強さがある。
俺は目を閉じ、深く息を吐いた。
——なんで、こんなに落ち着くんだろう。 体はだるいのに、心だけが少し軽くなる。
「……ありがとう」
小さく、繰り返す。
——来週、絶対にステージで見せる。
絶対に、ここで立てなくても、 来週には、あの光の中に立つ。
あなたは、肩をすくめて、微笑む。
「じゃ、今日は私が全部やるから。 ちゃんと寝ててね。」
言葉の一つ一つが、 まるで魔法みたいに、俺の重く沈んだ体を温める。
そして、俺は深く布団に潜り込み、 目を閉じた。
久しぶりに、 何も考えず、甘えてもいい夜だった。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。