ベチャッ………、グチョ…
長い爪の生えた両手で血だらけの何かを弄ぶ。
飽きたようにその何かを適当に地面に落とし、生々しい気色の悪い音が、真っ暗な部屋…いや部屋と言えない場所に響いた。
ペタンと座り込む。
地面に爪を立てると不快な高い音が鳴った。
もう一度、血だらけのものを手に取り、数秒間見つめた。
何が気に障ったのか手の甲にボコボコと血管が浮き出し、怒りをあらわにし始める。
力を入れ続けると、元々原型の無かったそれは更に形を崩した。
何も楽しくないのに呪われたように笑い出す。
思い切り、血だらけのものを壁に投げつけ、壁に掠れた血の跡を残しながら重力に従って落ちていく。
原型の成さないそれが落ちた先には、
白目を剥き口を開けたまま絶命した女性の生首が___
暗くてよく見えなかったが、目を凝らすと生首の近くには切り離された手首やら、内臓やら、最早どこの部位か分からないものがたくさん落ちていた。
恐らく、先ほどまで弄んでいた血だらけの“それ”はその女性の身体の一部だろう。
彼が……レンが女性を殺し、バラバラにしてから、自分の玩具にした。
それも飽きてしまったようだが。
独り言を呟いてから表情を消した。
とっくにランは死んでしもたと思っとった。
ランは人間やけど、オレは半分愚獣
人間には必ず寿命がある。何百年も生きれるわけがない。
けれど、
人間が何百年も生きながらえる方法
一つだけ知っとるような気がする
オレらの故郷に伝わるアホらしい迷信
オレらの故郷には古くから信じられている迷信があった。
それは
『不老不死の呪い』
その名の通り、不老不死になる。
憧れる奴もおるが、それはとても辛いもの。
自分がそうなって不老不死の孤独を経験したからわかることだ。
不老不死の呪いは罪人にかけられる呪いやった。
その呪いをかけることによって、一生罪を償えという罰にしとったらしい。
何故ランがその呪いの対象になったのかはわからへん。
だが、その呪いであることは確かなはずだ。
微かに魔術の痕跡を感じさせる何かがあったから。
何であんなイカれた呪い、村人全員信じとったんやっけか
ああ、あれや
腕に入れ墨がなんぼもあるじいさん
写真でしか見たことなかったが、オレが産まれる数年前まではいたんだと。
そのじいさんは罪人やったらしい。
若い頃から盗みに暴力、自殺に追い込む程の罵詈雑言、時には酒に酔った勢いで殺しもした。
その度に入れ墨を入れられ、牢に入れたが反省する気は全くない。
そのじいさんは60になっても変わらず罪を犯し続け、ついに不老不死の呪いをかけられたらしい。
その時は呪いなんて信じられてへんかった。
ただ、不老不死になると言われて呪いをかけられたら、少しは落ち着くだろうと軽い気持ちで罰したんやと。
70、80、90…と生き続けた。
そこまではただの長寿ということで、早く死んでくれへんか、と村人全員が願ったらしい。
やけど、100を超えてもなお、じいさんは死ぬどころか年老いる様子もない。
とうとう呪いをかけた看守が死ぬという事態に人々は恐れた。
そして、囁かれる。
『もしや、本当に呪いが効いたんとちゃうか?』
もしそうだとしたら、じいさんは村で永遠と罪を犯し続け、犠牲者も出続ける。
殺そうとすると返り討ちに遭い、その人が殺される。
そもそも、殺せるのかすらわからん。
その状態が数百年続いた。
村が廃村にならなかったのは奇跡としか言いようがないだろう。
終止符を打たれたんは、かなり最近の話。
と言っても今から100年、200年単位の話やけど。
そのじいさんには何人も妻がいた。
子供も何人もいた。
例外なくどの妻にも子供にも拳を振るい、蹴りつけ、罵倒した。
そんな生活が苦しい、辛いと思うのは当たり前のことやろう。
どんなに力がない女や子供でも数は力なり
多少の死人は出たらしいが、なんとかそのじいさんを殺すことに成功した。
刃物でじいさんを床に突き刺し、2貫ほどの重さの石で頭蓋骨を砕き…と殺した後は酷い惨状やったという。
女子供は着ていた着物が血だらけ、乱闘になったときに目を潰された者や、骨を折られた者、そこら中に転がった死体やら手足やら…
地獄絵図、としてそのときを記録した絵は吐き気を催すほどだ。
そのことがあり、村人全員が呪いを信じていた。
考えたって仕方がない。
本人に聞かんとわかるはずない。
本心やった。
ランがそばにいれば他の誰に嫌われても、虐められてもへっちゃらだった。
結局、その日オレの凧はうまく揚がることはなかった。
けれど、ランが揚げた凧は自由で、どこまでも飛んでいきそうで…羨ましくなったことを覚えている。
勢いのまま、叫ぶランを遮った。
どんな表情をすればいいのか迷う。
迷ってから、にへっと笑みを浮かべた。
喧嘩などほとんどしないし、意見が食い違っても大した言い合いにならないオレら双子やが、このことに関してはお互い一歩も引かず、折れなかった。
そう言い、ぱたんと倒れた。
ツギハギだらけの古びた毛布を腹にかけ、目を瞑る。
何も考えないようにしたが、いつものようにある言葉が思い出される。
『バケモノッ!!!!!』
『ああああぁぁぁぁぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!!』
とてつもない怒りの籠もった大声と、
掠れた叫び声が、
レンの頭に反芻した。
目を瞑ったまま、眉をひそめるが急にパッと目を開いた。
猫のように瞳孔が開いた妖しく光る橙の瞳が垂れる。
次回_____『里帰り編_7.死に腐れ』










編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。