玲音side
気付いたときには、列車が止まっていて黒い帽子を被った車掌が俺の目の前にいた。
終点、ということは俺の降りる駅だ。
だいぶ時間が経っていたのか。
回想に浸るうちに寝ていた…、というのが正解かどうかはわからない。
しかも、立ったままだったらしい。
普通に自分が怖くなる。
大丈夫かな俺、という全く無用な心配をしながら、まだ少し眠い目をこすり車掌の言葉に返答した。
ここの駅で降りるのが俺1人なのは、他でもない俺のせいだろう。
本当は俺が悪いわけではないが、なんとなく気が引ける。
だが、“保護区域目当て”という言葉が気になって聞き返した。
この車掌はお喋り好きなようだ。
俺が聞き返したとはいえ、永遠と話題が尽きない。
俺が列車から降りようとしたとき、
言っている意味は全くわからない。
真意を知りたくて、もう一度車掌を振り返った。
今まで深く被った帽子で見えなかったが、彼の額には爪で引っかかれたような大きな古傷があった。
そして、右目は濁り、光が宿っていない。
もしや、盲目…?
それにしては堂々とした足取りで次の車両へと歩みを進めていった。
結局、意味はわからないままだったが車掌の言葉に、背中を押されたような気がした。
最悪だ、駅員に聞かなきゃいけないらしい。
現時点で視線を感じるんだが……。
話がわかる駅員だといいんだけどな。
パリッとした紺色の制服を身にまとった女性が俺に反応してくれた。
若そうなので新人だろう。
「少し待ってね」と言ってから、奥の方へ行き分厚い本を持ってきて調べ始めた。
申し訳ないな、と思うが背に腹は代えられない。
俺も見せてもらいながら、探すこと約5分。
隣に来た男性の駅員が聞いてくる。
当たり前だよな、と何でもないことのように笑った。
女性はやり切れない表情をしている。
小さく声にあげたのを運良く聞かれていなかったらしい。
もしや、妹が…玲春が死んだのはそのせいなのか?
女性と男性の駅員にお辞儀をしてから、歩き出す。
少し歩いてから振り返ると、女性が手を振り、男性が気持ちの良い笑顔を見せた。
もう一度、お辞儀をしてから駅を出た。
ここからは歩きだ。そこまで遠くはない。
でも、すでに日が傾き始めている。
今夜はどこかで野宿だな。
気乗りはしないが、万が一のために持ってきていたテントを取り出した。
少し歩いたところに野原のような場所があったので、そこにテントを張る。
近くには川も見えた。
テントを張り終わると、もう月が出ていた。
細い細い三日月で、今にも消えてしまうのではないかと思ったほどだ。
まるで、俺みたいだ。
またそんな自虐の言葉が思い浮かび、自分を嘲笑った。
本当に消えてくれればな、w
琴葉side
ここに来て、初めての玲音ちゃんがいない夜だった。
と言ってもまだ玲音ちゃんが行ってしまって1日も経っていないんだけど。
頬の辺りがヒリヒリするのはさっきまで泣いていたからだろう。
夜の11時なのにまだ寝れない。
ベッドから起き上がって窓から夜空を眺めた。
細い………三日月だな…
玲音ちゃんも見てるのかな?
見ているとしたら、どんな気持ちで見ているのかな、?
どうか、悲しい気持ちでいませんように
七夕でもないのにそう願ったらまた涙が溢れた。
咲凪side
窓を開けっ放しにしていた。
隣ではまだ頬に涙の跡が残っている英舞ちゃんがいる。
さっきまで泣きじゃくっていたのに、疲れたのか寝てしまった。
スースーと穏やかな寝息を立てる英舞ちゃんは子供みたいで可愛らしかった。
アイツも、そうだったな、…w
アイツも泣き疲れたら、すぐに寝る。
思い出したくないのに、…なんで…
英舞ちゃんはさっきウチの部屋に静かに入ってきて、泣き始めた。
いや、自分の部屋でも泣いていたのかもしれない。
「玲音ちゃんが帰ってこなかったらどうしよう」、そう何度も言って泣きじゃくっていた。
そんな英舞ちゃんを安心させるように抱きしめて、ウチは何度も「絶対帰ってくるから」と言った。
正直、ウチも帰ってこないかもしれない、という考えでいっぱいだ。
そんなことはないって、強がってるだけだ。
隣で寝ている英舞ちゃんのぐちゃぐちゃになった髪をそっと撫でて、整えてあげる。
いつしか、アイツにそうしたように_____
次回_____『里帰り編_5.一度失ったもの』












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。