里に任務で訪れてから数日。
鬼を討ったあとの静けさが、
少しだけ夢のように感じられていた。
感謝の言葉を伝える里の人々に頭を下げながら、
ふと横目で不死川を見る。
無骨な背中、誰よりも傷だらけの腕。
その姿を見ているだけで、
胸の奥がじんわりと温かくなった。
それはもう“推し”とかじゃない。
呼吸するたびに思い出してしまう。
誰よりも優しく、誰よりも強いその横顔を。
その日、里の人に勧められて
珍しく着物を借りることになった。
淡い藤色の生地に、月影の模様。
細い路地を歩いていたとき、
ふいに裾がひらりとめくれ上がる。
慌てて押さえようとした瞬間、
背後から不死川の手が伸びた。
その手は素早く、けれど驚くほど丁寧に
あなたの下の名前の着物の紐を結び直す。
指先がうなじのあたりにふれて、息が止まる。
距離が近い。
いつもの鋭い眼差しなのに、どこか優しく見えて。
その距離で、心臓が暴れ出す。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。