第42話

039
70
2025/10/12 01:00 更新


 朝の光が障子の隙間から差し込む。





 あなたの下の名前はぼんやりと目を覚ました。





 昨夜のことを思い出そうとして――




 頬が熱くなる。















 あの近さ、あの声。



 額に触れたぬくもり。



あなた
(……夢、だったのかな)

 起き上がると、台所のほうから包丁の音がした。



 聞き慣れた低い声も。
不死川 実弥
……お、起きたか
あなた
し、不死川さん……?
不死川 実弥
朝飯。お前、昨日あんま食ってねぇだろ

あなた
そ、そんなの自分でできますよ!
不死川 実弥
うるせぇ、黙って座ってろ



 ぶっきらぼうなのに、
 どこか照れているようにも見える。






 心夏は座布団にちょこんと座りながら、




 台所に立つ背中を眺めた。











 広い肩。

 無骨な腕。




 普段は人を斬るためのその手が、
 今は優しく料理をしている。








 湯気の立つ味噌汁と焼き魚。




 テーブルに置かれた瞬間、
 ふわりと香ばしい匂いが広がった。
あなた
……いただきます
不死川 実弥
ほら、冷めねぇうちに食え




 箸を取ると、不死川さんがじっと見ていた。



 そんなに見つめられると、口に運ぶのも恥ずかしい。
あなた
な、なんですか……?
不死川 実弥
……ちゃんと食ってるか確認してんだよ
あなた
もぉ……そんな見なくても大丈夫です……


 少し拗ねたように言うと、
 不死川さんが微かに笑った。






 その笑みが、あまりにも穏やかで。



 見た瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
不死川 実弥
……昨日のこと、覚えてねぇんだな
あなた
え?
不死川 実弥
いや、なんでもねぇ



 不死川は目をそらして、ご飯をかき込む。




 その耳がうっすら赤いのを、あなたの下の名前は見逃さなかった。





 食後、茶を淹れようと立ち上がったあなたの下の名前の手を、
 そっと掴んだ。
不死川 実弥
もう少し、座ってろ























あなた
……実弥さん

 思わず口をついて出た呼び方。


 不死川が動きを止め、目を見開いた。
不死川 実弥
今……なんて言った?
あなた
え、あ、その……つい……



不死川 実弥
……もう一回言え
あなた
え!? む、無理ですっ
不死川 実弥
言え。……あなたの下の名前



 名前を呼ばれた瞬間、体がふるえた。








 その声の熱が、
 まるで心の奥まで染み込んでくるみたいで。








不死川 実弥
……誰にも渡さねぇ。もう決めた


 低く、確信に満ちた声。




 あなたの下の名前は顔を上げられなかった。




 だって、彼の瞳が真っ直ぐすぎて。








 何も言えないまま、不死川の手が髪から頬へと滑る。






 あと少しで、唇が触れる距離。





















 けれど――彼は寸前で止めた。
不死川 実弥
……まだ、ちゃんと恋人になってねぇからな
あなた
っ……!



不死川 実弥
その顔、見てんの俺だけだと思うと……悪くねぇ




 もう限界だった。

 鼓動が早すぎて、息をするのもやっと。
あなた
(恋人じゃないのに……まるで恋人みたい……)





 その朝は、どんな任務よりも危険だった。











 だって、彼の優しさに、
 心が溶けてしまいそうだったから。





プリ小説オーディオドラマ