「え…犬夜叉…?」
パァン!と気持ちの良い音を立てて居間の障子を開け放ったのは、ここにいるはずのない、赤い衣の犬夜叉だった。
「てめえ…誰が勝手に帰っていいといった!」
「あんた…どっから出てきたのよ?」
「井戸に決まってんだろ!」
固まるかごめの母や草太に目もくれず、ずかずかと居間に入る犬夜叉は堂々とそういった。
「井戸?!だって井戸は―…」
「嘘をいいなさい!」
かごめのじいちゃんががたんと音を立てて立ちあがった。
「あの封印は我が神社に伝わる由緒正しい…」
「封印の札ってこの紙っぺらか?効かねえぞー」
「じいちゃん…!」
「がーん!」
ぺらりと札をちらつかせながら、馬鹿にしたようにいった犬夜叉に崩れ落ちるじいちゃんと、あまりの効かなさに呆れる草太。
「おら、とっとときやがれ!」
「ちょっと、やだ!」
「お待ちなさい!」
「なんでぇ!」
「ママ…!」
おでんをつついていたかごめをその輪から引っ張り出した犬夜叉に向かって、つかつかと向かっていった母にかごめが期待の目を向けた。
そうよ、私行きたくないもの!
「…耳、本物…?」
「次!僕も!僕も!」
「…ママ…そんなことしてる場合じゃ……私もやったけど…」
やはりかごめの母はかごめの母であった。
「ん…犬夜叉…その髪の毛…」
「ん?髪の毛?」
「あんた…見えないの?」
ふと犬夜叉の肩にかかる長い髪を見つけたかごめは、それを摘み上げた。
「!動いてる!」
きり、とかごめの手を締めた髪の毛は一筋の血を流させた。
「かごめ、その血は…!」
「どうしたの、かごめ」
「これ…!」
「「「「ん?」」」」
―…私にしか見えてない…!?
これは結羅の操る髪の毛……!?
首をかしげる四人によって悟ったかごめは、「まさか!」と叫ぶと外の井戸に向かって走った。
骨食いの井戸のある納屋の戸を開くと、かごめが予想した最悪の結果があった。
「髪…!追ってきている…!!」
井戸の口の方で蠢くたくさんの髪が今にもこちらに出ようとしている。
「楓ばばあの言うとおり、目だけは良いらしいな」
「あ、あんた…!とんでもないもの連れてきてくれたわね!」
「かごめ!」
「ねえちゃん!」
「入ってきちゃだめ!」
ぴしゃりと戸をしめたかごめは考える。
―…ここで、なんとかしなくっちゃ…!!
***
『…そういえば、墓の場所を教えてもらっていないのだった』
どこだったか?と考えて、思い出せないことに首をひねったあと、そもそも知らないのだと思い立って、ぽん、と手を打ったのは戦国の世のあなたの名前。〇〇丸など漢字推奨。
『…どうしたものか…』
屋敷へ戻れば母が教えてくれる気もしないでもない。が、如何せんあまりよい思い出がないのに加えもう百年以上家を放ったらかしにして下界をブラブラしている身である。
簡単に言うと、ちょっと帰りたくない。
『………おお、思いついた』
可愛い弟たちに探してもらえばいいではないか。
***
あなたの名前。〇〇丸など漢字推奨が一度見に行った結羅の住処のなかで、彼女は夥しい髑髏のうえに横たわって紅い髑髏を胸に抱いて撫でた。
「もうそろそろ帰ってくる頃かなぁ…ふふ、次はたっぷり可愛がってあげなくっちゃ」
***
「気をつけて!井戸の周りも髪の毛だらけよ」
現代で髪を操る本線を断ち切ったことで髪の毛との戦いを制したふたりは、井戸から再び戦国時代へと渡ってきていた。
このままではじいちゃんや草太、ママまで酷い目にあっちゃう、と、戻ってくることを決意したかごめだったが、やはり少し怖い。
「その逆髪の結羅ってのが俺達を狙ってるっていうのか?」
「そうよ。だって四魂の玉のかけらを奪い取ったのにまだ追ってくるなんて―…」
「んぁあ!?オイこら待て!取られたのか!?」
「あ!この中に何本か光ってるのがみえる!」
あれが髪を操る本線の髪!だったら、それが集まる方向に逆髪の結羅がいるはず!!
そこまで思い至って、かごめは力強くある方向を指さした。
「あっち!!」
***
兄弟そろって墓参りもできるし、私は楽だし、あわよくばあの子達も仲良く。うん、名案だ、と悦に浸っていたあなたの名前。〇〇丸など漢字推奨は、しばらく前から、その整った顔の眉間に皺を刻んでいた。
『何故このあなたの名前。〇〇丸など漢字推奨を付け狙うのだ…』
何かは分からないが、行く先々で皮膚に当たる見えないものを疎ましく思っているようで、ブンブンと腰にもともと差していた刀を振って歩いているためにご機嫌は急降下である。
見えない、とは言っても、臭いがするために避けることは容易なのだが、あなたの名前。〇〇丸など漢字推奨にとってそれを避けるためにひょこひょこ屈んだり迂回したりすることは我慢がならないことであったらしい。
ちなみにあなたの名前。〇〇丸など漢字推奨を煩わせるものの正体は言わずもがな結羅の髪の毛である。
そしてこの状況、結羅の住処に赴いた際に偶然落ちたあなたの名前。〇〇丸など漢字推奨の一本の髪が結羅の手に渡ったことが発端であった。
“なんて長くて綺麗な黒髪なの!”
全部手に入れたいわ、と続くのが逆髪の結羅。
彼女は自分が髪の毛をけしかけている相手があなたの名前。〇〇丸など漢字推奨だとはつゆ知らず、ただただ綺麗な髪を、と求めていた。
『…鬱陶しい』
匂いからして、もう犬夜叉は戦っているようだ。
血の匂いがして刀を振っていた手を止める。
『あ』
末の弟の思慮の足りなさを忘れていた。それから。
『あの妖が実体ではないことを教えてやるのを…忘れていたな…』











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。