夕暮れ時、あなたの名前。〇〇丸など漢字推奨は再び骨喰いの井戸を訪れていた。
静かに梢の間から滑り出て、その縁に腰を下ろす。
腕を組み、首をひねって背後にぽっかりとあく人工の穴を見下ろして、くん、と匂いを嗅いだ。
古い死骸の臭いと、おそらく死骸を捨てた時についたであろう人間の臭い。
それに混じって、まだ新しいあの少女の匂いと不思議な匂いの空気が底から流れ出てきていた。
明らかに違う異質な匂いを目を閉じて嗅ぐ。
何の匂いだろうか、あなたの名前。〇〇丸など漢字推奨には解らなかったがこの世に長らく生きてきて初めての匂いである。
―…そういえば、あの少女は消えたのだったか。
思いたって、縁に立ち上がって中をのぞき込む。
逃げこむ横穴でもあるかと思ったが、どうやら本当にただの枯れ井戸のようだ。
こんなところに入ってみる気もなく、興味を削がれて森に帰ろうとふわりと縁から地面に降りたところでふと井戸のわきに目を向けるとなにか落ちている。
『…』
少女の匂いのするそれをゆっくりとした動作で拾い上げ目の前で広げてみると、それは紛れもなく緑の襟のセーラー服。
だがそんなことがあなたの名前。〇〇丸など漢字推奨にわかるはずもなく、ぐるぐると表や裏に返してみたり、穴に手を通してみたり赤いリボンを解いてみたりを暫く繰り返す。
ひとしきりそのすべすべした布を触り尽くしたあと、まだ地面に置いたままだったこれまた紛れもないスカートを同じように目の前で掲げて首をかしげる。
―…なんだろう、これは。
たくさんのひだがついているがこの布自体が輪になっている…。
それから暫くの間、あなたの名前。〇〇丸など漢字推奨はスカートのポケットを裏返したり、スカート自体を裏返してみたりと手を動かしていた。
***
少し時は遡る。
あなたの名前。〇〇丸など漢字推奨がかごめのセーラー服を見つける少し前、村から逃げてきた犬夜叉と楓は森の中にいた。
「ババァ。てめぇ髪が見えると言ったな?」
「うむ…」
「髪を操ってる親玉の居場所を教えろ」
「無茶いうな…わしはこんな有様だし、そうでなくともわし程度の眼力では…」
木の葉の上に横たえられた楓が傷の痛みに耐えながら口を開く。
「はやく…はやくかごめを…」
「なっ…あいつなら見えるってのか!?」
「そうじゃ…今度の敵は…かごめがいなくては勝て…ん……」
苦しげに呻いて目を閉じた楓を犬夜叉はどこか神妙な顔で見下ろしていた。
***
「よーし。こんなもんか」
暗くなった森の中、ザッザッとそれこそ犬のような体勢で土を掘っていた犬夜叉がむくりと身を起こした。
「楓ばばあ。せめてもの情けだ。ここへ埋めてってやるぜ」
「……おい。わしゃまだ生きとる」
穴の中に横たえた楓に土をかぶせながらそう言うと、その楓が目をあけて不満げに口を開いた。
「ここに隠れてろっていってんだよ。へへ、忘れてなかったら掘り起こしてやらぁ」
「本当だな?断じて忘れるなよ?」
顔のあたりには木の葉をかぶせ、犬夜叉が立ちあがった。
「忘れるなよ犬夜叉!」
「だぁもうわかったわかった!」
執拗に釘をさしてくる楓のもとを去ったあと、森を駆け抜けながら犬夜叉は腹立たしげに悪態をついた。
「ちきしょう、女ァ!こんな時にどこで何してやがる!」
その頃。
「はぁ…幸せ」
結羅に襲われ井戸に落ちたことで元の世界に帰れたかごめは、そんなことはつゆ知らず浴槽で幸せを噛み締めていた。
***
「殺生丸様?」
ふと足を止めた主に向かって、邪見は何事かと彼を振り仰いだ。
「…………」
「へ?」
崖下に広がる森を見下ろしながら殺生丸が呟いたなにごとかは、邪見の耳にも入ることなく風にさらわれた。
***
『刀々斎』
「わっ!…なんだビビったー。犬の大将のところの長男かいな。次男がきたのかと思って心臓が止まるかと思ったわい」
刀を打つための槌を素早く放り出し逃げようとした刀々斎は、その黒い髪をみとめて再び腰を据えた。
『…殺生丸でなくて残念だったな』
「いんやまさか。で、何用で来たの」
『…刀をひと振り欲しくなってな』
「それでわしに打てって?」
『それが仕事であろう。そうだな…私の刀を打つならば、次に誰かに刀を打つときにこの#name#が髪でも牙でも好きに使うがよい』
「えっ!?いいの!?」
『ひと振りまでなら』
「腕がなるわい。えーじゃあ頑張っちゃおうかなー」
『必要なものはあるか?』
「大将の牙か骨かなんかないか?それが一番お前さんにちょうどいい」
『…生憎、持ち合わせていないな』
ふむ、と考える素振りをみせて、#name#が呟いた。
『少し待ってもらえるだろうか。父の墓参りにでも出向いてこよう』
「墓から骨盗ってくんのか?」
『有り難く戴いてくるだけだ』
おー、と返事をした刀々斎に背を向けて、岸壁から宙にふわりと身を投げた。
さて―…父の墓はどこだろうか
***
「…間違いねえ。あの女の匂い」
これまた犬よろしく地面を嗅ぎ回っていた犬夜叉が、骨食いの井戸へたどり着いた。
「あいつ本当に逃げ帰りやがったのか」
井戸をのぞき込んだ犬夜叉は、匂いを追って迷わず飛び込んだ。
「この中か!!」
***
「はぁ~やっぱり我が家が一番だわ」
現代の自室のベッドに俯せに寝転がったかごめはしみじみとそのやわらかさを楽しんだ。
「本当信じらんない。さっきまで戦国時代にいたなんて…」
いいながら頭の中をめぐるのは、四魂の玉を射抜いてしまったことと逆髪の結羅という妖魔のこと。
それから...。
「玉のかけら取られたこと知ったら、犬夜叉怒るだろうなぁ~…」
“いけ好かねぇんだよお前は”
“別に俺は一人でもいいんだぜ?”
「…ふん!そうよね犬夜叉なら私なんかいなくったってっ!」
思い出すのも腹が立つ。といった様子でかごめは勢い良く起き上がった。
「よし!忘れよう!なにもかも!もう二度と向こうの世界に戻ることなんてないんだから!」
お祖父ちゃんが霊験ありがたい御札で封印したのよ!
「かごめー由佳ちゃんから電話!それから、ご飯よー」
「はぁーい!」
現代最高!
***
「ねぇーじいちゃん、あの井戸の封印開いたりしない?」
「むろんじゃ。ありがたぁーい御札で固く封印してあるのじゃ」
不安げに寄ってきた草太に自慢げに離すかごめの祖父。
「いかなる妖怪魔物の類でも突破不可能!」
「わぁー!おでんだ!」
「だか「おでんだおでんだおでんだおでんだおでんだおでんだ!」れ」
「き、聞いてないよ」
「ふぐぅ…」
ああ~なんて素晴らしい時代なんだろ!
「いっただっきまーす!」
幸せを噛み締めるかごめだったが、それは次の瞬間に崩れ去ることとなる。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。