※MV中のハートの怪物(?)は可愛いモコモコのハート達ですが、この話の中での「怪物化した人間」は爪の鋭い狼男に近いイメージです
sm side〜〜〜〜〜〜〜〜
「や!スンミナ、後ろに敵いるってば」
「分かってるよ。僕撃つからヨンボギはそこに落ちてる回復使いな」
「あ、、、、」
ぴた、と指の動きが止まる。
手に持っていたスマホを置いて、バン!とデスクを両手で叩く。
「またやられた!もう!今絶対射程入ってたのに」
「おいおい、モノに当たんないの」
リノヒョンが昨日の残業分のレポートをまとめながら諭す。
「分かってるよ〜、、、、」
ちえっ、と拗ねてソファに転がった。
ヨンボクのスマホ画面にゲームオーバーと大きく文字が表示される。
「僕の仇とって」と画面を覗き込まれるけれど、
結局僕もその後すぐに敵に倒されてしまった。
午前2時。
このド深夜に署にいる理由は他でも無い、夜勤のせいだ。
夜勤はシフト制で、大体週に一回ある。
交代で3人ずつ、朝まで署に常駐させられていた。みんな夜勤を嫌っているけど、何もなければこうやって好きにゲームなり仮眠なりしていればいいから、思ったよりも楽で僕は好きだった。
今日は僕にとって3度目の夜勤だ。
第一部隊に入ってから約1ヶ月が経過し、殆ど毎日事件の現場に向かった。
みんなの背中を見ながら要領を学んで、先週からは実際に戦闘に参加している。とは言っても、周囲の安全確保だったり、被害者のパートナーを保護する役割しかまだ任されていないけど。
もう一戦、とヨンボクがスマホを手に取った時、
出動要請が掛かった。
「はい、こちらCASE本部です」
リノヒョンがすぐに受話器を取る。受け答えしながらメモを走り書いた。
ヨンボクは残念そうにスマホの電源を落として、ロッカーの防弾チョッキに着替え始める。
無線を胸ポケットに突っ込んで、ドア横のキーフックから車の鍵を取った。
僕も同じように出動の準備をする。
リノヒョンは電話を切ると急いでパソコンを閉じた。
「怪物化、西埠頭のコンテナターミナルで」
「コンテナターミナル?こんな夜に?」
「船乗りが怪物化したらしい。すぐ行くから先、車乗ってて」
拳銃を腰に刺して署から出る。
僕たちが車に乗って間もなくヒョンが運転席に乗り込んだ。
夜の静かな街にサイレンが響く。
怪物化した男性は外国の船員で、この国の女性との間の国際カップルらしかった。
ウイルスが広がってから国同士の行き来は極力控えるように規制されたため、多くの国際カップルは離れ離れになった。
そして今晩、人の気の少ないコンテナターミナルで、
監視の目を盗んでカップルは忍び逢った。
結果男性が自身を抑えられなくなり怪物化してしまったという事だ。
今日の為にどれだけ葛藤しただろう。待ち焦がれていた相手と再開して、そのまま怪物化してしまうなんて、あまりにも悲惨だった。
でも、世界での事件例の多くはこういったものだ。
ここに来てたったの1ヶ月の間で、何十件と悲惨な事件を目の当たりにしてきた。
救助に成功して、なんとか一命を取り留める時もあれば、その逆で助からなかった時ももちろんあった。
そういう日の夜は昼間の惨状が脳に癒着して、暫く寝付けない。ぼーっと暗い天井を眺めてやり過ごした。
その日同じ現場にいたはずのメンバーは慣れっこなのか、すやすや気持ちよさそうに寝ている。
僕もいつかは慣れるのかな、と不安に思った。
早く慣れてしまいたいような、でも慣れてしまえば心のうちの重要な感情を失ってしまうような危機感もあって
複雑な気持ちで毎日過ごした。
〜
深夜の道を突っ切って、埠頭に到着した。
大量のコンテナが積まれており場所によっては明かりが遮られている。その上雨で濡れたアスファルトが黒く反射していて、視界が極めて悪かった。
ターミナルに付けられている船に向かうと中年の警備員が焦った様子で駆け寄ってきた。
「あそこです、あそこ!」
指さされた方を見上げる。
なんと、怪物は積み上げられたコンテナの上に居た。
パートナーだと思われる女性がぐったりと抱かれている。肩のあたりから血が流れているのが、遠目からでも確認できた。
その下で、体格の良い男達が数名、外国語で騒いでいる。怪物化した仲間に対してどうにか説得しようと叫んでいるけど、無駄だった。
怪物化した人間は理性を完全に失うから言葉だって理解できなくなってしまう。
「どうするの、、、これ、、、。」
「ヨンボクは下がってて」
バリアメーカーは戦闘には参加してはいけない決まりがある。彼らはCASEにとって貴重な存在で、怪我をさせることは禁忌とされていた。
リノヒョンはポケットから小型ライトを取り出して、ぶんぶんと振った。
気がついた怪物がゆっくりとこちらを振り返る。
「あ、待て!」
本能で危険を察知したのか、女の人を雑に抱えたままコンテナを飛び移って逃げていった。
リノヒョンの背中を追いかけて走る。
水溜りがバシャバシャ跳ねて既に靴の中はびしょ濡れだった。
「おい!!」
暗闇に同化して消える怪物。
僕は息を切らして立ち止まった。
「くそっ、、、、どこ行きやがった」
積み上がるコンテナを睨むリノヒョン。
このまま放置すれば、女性が喰い殺されてしまう。
一刻を争う状況だ。
と、その時、後方から男の声の悲鳴が上がった。
方向を変えて声の方へ走る。
「どうした!!」
船員達が騒いでいる中心で、男が倒れていた。
「隙を見て降りてきた怪物が、男の中の1人に噛みついたんだ」
ヨンボクが焦って状況を説明する。
怪物はかなり凶暴化している。
更には広くて暗い屋外。2人だけで確保するには条件が悪すぎた。
もし今日の夜勤が僕じゃなくてヒョンジンだったら、
余裕だったのかもしれない。
特攻隊の中でも、1番のやり手で有名なリノヒョンでも
新人の僕とペアでは、流石に対応できる範囲が限られる。
「クソっ、、、、!」
リノヒョンが銃を取り出す。
コンテナの上の怪物に向けて構えた。
流石のヒョンでも、この距離で当たるわけがない。
無謀だと止めようとしたが、そんなのお構いなしにヒョンはトリガーを引いた。
パン、
と、ターミナル内に銃声がこだまする。
直後、コンテナの上の怪物が勢いよく飛び降りた。
威嚇するようにリノヒョンに飛び掛かる。
「リノヒョン!!!」
ヒョンが構えていた銃が、怪物の鋭い爪で払い飛ばされた。
制服の首元を強く掴まれる。
「スンミナ!今だ!撃て!!」
リノヒョンが僕に向かって叫ぶ。
いきなりの発砲は切羽詰まっての行動かと思ったけれど
そうではなく、怪物を誘き寄せるための策略だったのだと理解した。
怪物がリノヒョンに噛みつきかかる。
研修の時ヒョンが教えてくれた撃ち方とか、狙いの定め方とか、もう頭の片隅にすら浮かばなかった。
ただ無我夢中で拳銃を構えて、発砲する。
目の前で火花が散って、目を細めた。
次に目を開けた時、怪物の姿はなくなっていて、
代わりに血に濡れた女性と、男性が倒れていた。
リノヒョンがその横にしゃがんで容態を確認している。
「ヨンボガ!バリア張って!」
到着した救急隊を連れてヨンボクが走ってきた。
急いで処置をして、怪我人は救急車に乗せられていった。
「、、、、お疲れ様、頑張ったね」
リノヒョンは、その間立ち尽くしていた僕の横に来て
頭をポンと撫でてくれた。
左手の甲を引っ掻かれてできた傷から血が流れていた。
「大丈夫?これ、、、、。」
心配になって目を見つめると、このくらい何ともないよ、と笑った。
その後、すぐに現場を出た。
署に着いた時にはすでに日が昇っていて、日勤の隊員が出勤し始めていた。
退勤と入れ違いで署に来たチャニヒョン達に、「夜勤まだ3日目なのにハードだったね」と苦笑された。
リノヒョンとヨンボクと寮に帰って、シャワーに入って、
すぐにベッドに潜り込んだ。
身体がクタクタで目を瞑ればすぐにでも眠れそうなのに
今日の残酷な光景がフラッシュバックして、心拍数が上がった。
本当に、早く慣れたい。
こんなんでいちいちショックを受けていたら精神がもたないだろう。
ぎゅっと目を閉じる。
けど、頭の中で嫌な考えが止まらなくて、全く寝付けない。
かたかたとキーボードの音がして、上半身を起こす。
2段ベッドの下の段を覗くとリノヒョンがうつ伏せに寝転がりながらノートパソコンでレポートを書いている最中だった。
リノヒョンだって疲れているはずなのに
役職持ちは大変だな、と他人事のように考える。
閉じたカーテンの隙間から昼間の太陽の光が漏れている。
そのままぼうっとリノヒョンの後頭部を眺めていると
ヒョンが不意にこちらを見上げた。
びくりと驚いて「何だよ」と睨む。
「ねえ、ヒョン」
「なに?寝れないの?」
「今日の人、助かったかな」
寝ているヨンボクを起こさないように、小さな声で呟いたはずだけど
僕の声は部屋に重たく響いた。
「、、、、助かったんじゃない?」
「沢山血が出てたよね、病院行くまでに死んじゃってたらかわいそう」
「死んでないよ、あのくらいだったら」
「死ななかったとしても、あの2人はもう2度と愛し合えないんだよね」
「、、、、それは、そうだよ」
リノヒョンがベッドから出て、僕の2段ベッドの横に立つ。ベッドで横向きに寝転がる僕と、視線の高さがぴったり合った。
「でも、命を助けられただけでもよかったんだよ。俺たちの役目は命を守ることなんだから」
「、、、、、うん、」
「よく頑張ったよ、やっぱりスンミナは射撃が上手だね」
あやすみたいに頭を撫でられる。
その手の甲には大きなガーゼが貼られていた。
〜
「本当に?リノヒョンがそんな事言ったの?」
ハニが前のめりになって聞いてくる。
夜勤明けの翌日、ハニと2人で休憩中に食堂に行った。
昨日の話をしている最中、リノヒョンとの会話を思い出して話題にすると、ハニは大袈裟に驚いた。
「あの人、そんな簡単に褒めたりしないんだよ。他の部隊からも厳しいって有名で」
「そうかな、、、?優しいと思うけど」
「もちろん僕らはヒョンが良い人だって事は知ってるけど、、、。でも、すごいねスンミナ。ヒョン、スンミナのこと可愛がってる感じ伝わるもん」
可愛がられてる、のか、、、、?
そんな短慮な疑問は、
頭の中で再生された昨日のリノヒョンの優しい声色によって簡単に打ち砕かれた。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。