青髪の王子様は立ち上がってもう一度、私を優しく抱きしめてくれた。
私の涙は勝手に溢れた。理想の王子様が私の悲しみを包んで慰めてくれる。
私は青髪の王子様に身体を預けた。そうだ、これからは何にも煩わされずにすむんだ。きっとそうだ。
私はまどろむ。そして甘い夢を見る。白いウェディングドレスを着て、大きな教会へ歩いて行く夢を。
× × ×
甘い夢から覚めた先には奇妙な現実が続いていた。
私は天蓋付きの大きなベッドで寝ていて、同じ顔の男性が二人、左右から私を見ていた。
私は上体を起こした。それ以外に何をしていいのか解らない。
シャツとベストとスラックスを纏い、緑髪をポニーテールにした中性的な人たち。
確かに私を見ているのに二人とも目を閉じている。とても格好いいのに不思議な人たち。
言い合いがヒートアップしていく。口を挟めない。
私が手元に視線を落としてもじもじしていると、繊細な細工が施された木製のドアが開いた。
青髪の王子様!よかった、私の目の前から消えないでくれた!
現れた青髪の王子様は優しい視線と声色で私をときめかせてくれる。
王子様は私のいるベッドに歩み寄って、軽くしゃがんで私に手をさしだした。
優しくて暖かい微笑みで、青髪の王子様が私を呼んだ。
私の心臓が不規則な音を立てる。
この人の胸で泣いたことを思い出したら、恥ずかしさと嬉しさで頭がくらくらしてきた。
青髪の王子様は靴を脱いで、ベッドに膝を乗せた。
ベッドが少しずつ沈んで、王子様が私に近づいてくる。
発育が悪い子供の私とは違う、華奢だけど男の人だと思わせる重みが近づいてくる。
私は両手で顔を覆う。ときめきと恥ずかしさで、私が今どんな顔をしているのか解らない。
変な顔だったらどう思われちゃうんだろう。そう考えるとすごく怖い。
青髪の王子様はゆっくりと私から離れて、ベッドの端に腰をかけた。
初めて見た王子様の背中に、強烈な寂しさを感じる。
私は四つん這いになって、緊張しながらも王子様の背中に向う。その背中に抱きついて頭を預けた。
青髪の王子様は私の手に手を重ねてくれた。心臓が暴れ狂って倒れてしまいそう。
それでもこうしたい。やっと出会えた理想なんだから。
こんなに美しくて優しい人が、私の王子様になってくれる。
嬉しいけど、私なんかじゃこの人に釣り合わないとも思う。
私、なんでこんなにちんちくりんで、貧相で、自分に自信が持てないような身体なんだろう。
青髪の王子様は立ち上がった。前のめりに倒れた私を抱き上げて、眩い笑顔で言う。
それだけで私は青髪の王子様―――アベル様が私の王子様だと信じたくなってしまう。
……湯浴み?湯浴みってお風呂のことだよね?
こんな貧相な身体、アベル様にだけは見られたくないな、なんて思う。
お風呂に入るのは勿論、私一人だよね?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!