ダヴィドは魔術で出した、黒い刀身に禍々しい赤目の意匠が施された剣を振るう。
アベルは透き通るような青い刀身に月の満ち欠けの意匠が施された剣を魔法で出して受け止める。
流れるように剣を振るって、アベルが叫ぶ。殺し合いのさなかでも彼の舌は良く回る。
力強く踏み込んだ一撃で、ダヴィドの剣が吹き飛び、私の傍らに刺さった。
ダヴィドの剣が少しずつ分解され、黒い粒子になり消える。
肝心のダヴィドは息を荒げてアベルの前に跪いていた。
アベルが魔法の剣を振り上げる。そして。
私はアベルの前に立ちはだかった。
剣の切っ先がキラキラと輝いている。怖い。アベルが掲げているものは私の体を命ごと裂ける。
それでも、私はアベルの前に立ちたかった。
悔しいけど、アベルにとっては私よりダヴィドのほうが、重要で大切かもしれないから。
私はアベルにきつく抱き着いてわんわん泣いた。ここから一歩も動かさない!
アベルはふうっと息を吐いて、剣を振り上げた腕を体の横におろした。
帰るって、どこへ?
アベルは私を抱きしめて、甘い蜜で包んだ世界一罪深い言葉をささやいた。
一緒にいたいけど、一緒にいたら重荷になるんだ。
暗い気持ちに支配されそうになった時、背後から声が響いた。
アベルが空間を切り裂く。見えない壁が、私を通り過ぎる。
私はアベルに支えられて、空間へと踏み出した。
× × ×
豪奢なフリルがあしらわれた、オーロラピンクのウェディングドレス。
自室で、私がそれを着ている。肩とか思いっきり露出してて、恥ずかしい!けど、それよりも……。
結婚指輪をつまんで、ぼんやりと考える。
私がいるとアベルだけじゃない。セツさんやセトさん、ダヴィドさんにまで被害が及ぶ可能性がある。
私自身が元の世界でうまくやっていけるように努力すべきなんじゃないかな?なんて、考えたりもしてしまう。
惚れた弱みって、まだ優しかったころのお父さんが言ってたなって、思い出した。
その言葉がぴったりだ。指輪を捨てるなんて、できない。
アベルはレースのグローブをした私の左手を取って、薬指に結婚指輪をはめる。
そうやって、アベルは私の王子様になる。ずるい。ずるい!
うん、でも、大好きなんだ。そうしてくれるのが、すごく嬉しい。
カソックを着たセツさんとセトさんが、部屋のドアを開ける。
間が悪い。
私たち今、初めて、唇を重ねるキスをした、のに。
end.
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。