ダヴィドさんは力強く問わず語りを続ける。
鏡の中のアベルが、アンナさんの手の甲にキスをする。やめてよ……見せないで!
私のことはお嫁さんにしても、アンナさんの友人にしても良かった。
騙すに都合のいい存在だったんだ。
それでも!ほんの一瞬でも私は確かに幸せだった。それだけは本当!本当なの!
殺されたって良かった!それも本当!……アベルのお嫁さんになりたかったのも本当!
キングチェアを倒すほど勢いよく立ち上がって、好き勝手言うストーカーに私はがなった。
人生で初めてここまで強い怒りを外に出した。怒っているのに気分がいい!
ダヴィドは右足を一歩踏み出して、私に拳を振るった!
死が頭をよぎる。床に倒れて拳を回避する。一撃目は避けたけど……。
口の端を吊り上げたダヴィドが、倒れた私に覆い被さった。
そしてゆっくりと私の唇に唇を近づけてくる。……何か、何か!
ビリッ!
私はウェディングドレスのひらひらを破り、ダヴィドの口に力一杯押し当てた。唇は守れた!やった!
ダヴィドが上体を反らして、わざとらしく息をする。
私はすかさずダヴィドの下をすり抜ける。
鏡の中のアベルと見つめ合って、アベルの元お嫁さんとして最後まで抗うと誓う。
なんで。鏡の中の人物が明らかに私を見ている。どういうこと!?
ダヴィドが!?アベルのお兄さん!?
やだやだそんなの絶対やだアベル今すぐこの人と縁を切って!!!!!
すうっと、鏡から青い光が溢れて、この真っ赤な部屋にアベルが現れた。
アベルが出会ったときのように優しい声で私を導く。急激に体温が上がっていくけど……。
照れてるんじゃない、どっちかというと、怒ってる。
アベルがいるだけで安心して、抱きつきたいって衝動はあるけど。
アベルにも怒ってるからその背中を虎視眈々と狙うべく、アベルの背後に回る。
私に差し出すように、アベルが背後に掌を回した。その上には……。
セツさんとセトさんが結婚指輪を守ってくれたんだ。ありがとう、セツさん!セトさん!
青い宝石が輝く結婚指輪をアベルの掌から受け取った。
本当は嬉しいけど!素直に喜んだら自分に腹が立ちそうだからやめる。
二人が互いに手をかざした。私は鏡を背に、アベルの戦いを見守る。
アベル、私があなたを信じたいから勝って。そのあとに色々聞かせて。……お願い!
















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!