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第9話

幸福の王子
ダヴィド
ダヴィド
詐欺師アベルは婦女子を好きなだけたぶらかし殺したが、積もった罪悪感を無視できなくなった
 ダヴィドさんは力強く問わず語りを続ける。
ダヴィド
ダヴィド
そこで君の登場だ。詐欺師は法で裁かれるべく、異世界の住人を館に招いた
ダヴィド
ダヴィド
かわいそうで救いがなくて不幸せで夢見がちな君は都合が良い。だがアンナへの執着も捨てきれない。つまり……
 鏡の中のアベルが、アンナさんの手の甲にキスをする。やめてよ……見せないで!
佳音
佳音
どっちでも良かったんだ……
 私のことはお嫁さんにしても、アンナさんの友人にしても良かった。

 騙すに都合のいい存在だったんだ。
ダヴィド
ダヴィド
かわいそうなお子様にわずかな幸福を与えることで罪悪感をすすいだわけだ
佳音
佳音
……あなたが勝手に言わないでよ!
 それでも!ほんの一瞬でも私は確かに幸せだった。それだけは本当!本当なの!

 殺されたって良かった!それも本当!……アベルのお嫁さんになりたかったのも本当!
佳音
佳音
決着は私とアベルでつける!すっこんでてよ、三下さんした
 キングチェアを倒すほど勢いよく立ち上がって、好き勝手言うストーカーダヴィドに私はがなった。

 人生で初めてここまで強い怒りを外に出した。怒っているのに気分がいい!
ダヴィド
ダヴィド
詐欺師は本当に罪深い
 ダヴィドは右足を一歩踏み出して、私に拳を振るった!

 死が頭をよぎる。床に倒れて拳を回避する。一撃目は避けたけど……。
ダヴィド
ダヴィド
そういうのがお望みかよ!
 口の端を吊り上げたダヴィドが、倒れた私に覆い被さった。

 そしてゆっくりと私の唇に唇を近づけてくる。……何か、何か!



 ビリッ!
ダヴィド
ダヴィド
ふぐっ!
 私はウェディングドレスのひらひらを破り、ダヴィドの口に力一杯押し当てた。唇は守れた!やった!

 ダヴィドが上体を反らして、わざとらしく息をする。

 私はすかさずダヴィドの下をすり抜ける。

 鏡の中のアベルと見つめ合って、アベルの元お嫁さんとして最後まであらがうと誓う。
佳音
佳音
……えっ?
 なんで。鏡の中の人物アベルが明らかに私を見ている。どういうこと!?
アベル
アベル
僕が得意なのは条件付けによる魔法なんだ。願ったことはおおよそ叶えられる。おおよそ、ね
アベル
アベル
ダヴィドに連れて行かれる前に君が僕を見たね。その時に、次に佳音と僕の目が合ったら僕は佳音の元に現れると条件付けた
アベル
アベル
なんとも卑劣で僕らしいよ。どう思う、ダヴィドお兄ちゃん?
 ダヴィドが!?アベルのお兄さん!?

 やだやだそんなの絶対やだアベル今すぐこの人と縁を切って!!!!!
アベル
アベル
佳音、今なにか勘違いしただろ。……元兄貴分であって血のつながりはないよ
 すうっと、鏡から青い光が溢れて、この真っ赤な部屋にアベルが現れた。
アベル
アベル
佳音、おいで
 アベルが出会ったときのように優しい声で私を導く。急激に体温が上がっていくけど……。

 照れてるんじゃない、どっちかというと、怒ってる。
佳音
佳音
ひどい。結局助けに来るのに……。あの時助けてくれなかったのに……
アベル
アベル
僕は卑劣なんだ。もう一度縁があったら、なんて消極的な方法をとった
佳音
佳音
……かなり怒ってるよ
 アベルがいるだけで安心して、抱きつきたいって衝動はあるけど。

 アベルにも怒ってるからその背中を虎視眈々と狙うべく、アベルの背後に回る。

 私に差し出すように、アベルが背後に掌を回した。その上には……。
佳音
佳音
結婚、指輪……?
アベル
アベル
セツとセトがね。胡乱うろん無知蒙昧むちもうまいな創造主の言いつけは守れなかったと
アベル
アベル
今度は僕の掌がリングピローだ。ううん、むず痒いな……。あの時の僕はやっぱりおかしかった
 セツさんとセトさんが結婚指輪を守ってくれたんだ。ありがとう、セツさん!セトさん!
佳音
佳音
一応、今は持っておくね……一応だからね
 青い宝石が輝く結婚指輪をアベルの掌から受け取った。

 本当は嬉しいけど!素直に喜んだら自分に腹が立ちそうだからやめる。
ダヴィド
ダヴィド
ガキが!俺を無視するな!
アベル
アベル
弟分だったのは昔の話だ
 二人が互いに手をかざした。私は鏡を背に、アベルの戦いを見守る。

 アベル、私があなたを信じたいから勝って。そのあとに色々聞かせて。……お願い!