試合後の保健室。
三奈と私は、リカバリーガールの治癒を受けていた。
といっても、軽い打撲と擦り傷くらいなので治療はすぐに終わった。反動もほぼない。
先に出ていった三奈を追い掛けようとしたら、リカバリーガールに声をかけられて立ち止まる。
その顔は、いつになく真剣なものだった。
……みんな、私に無理するなっていうなぁ…。
独りごちたリカバリーガールが椅子を回転させて私に背を向けた。
話は終わりらしい。
三奈と喋りながら廊下を歩く。
並んでいるドアの中の1つの前を通ったときだった。
ガチャ
私の顔スレスレでドアが開いた。
あぶな、もう1歩踏み込んでたらぶつかってたよ。
あ、そっか。ここ、控え室か。
お茶子ちゃんが手を握りしめている。
それが、震えていた。
私たちのやりとりを見ていたお茶子ちゃんが、吹き出した。
え?なんで?
あ、なるほど。
私はお茶子ちゃんの手を握った。
いや、やり過ぎはダメだよ?相手がいくら爆豪くんといえどね?
お茶子ちゃんに拳を突き出す。それに三奈も拳を合わせた。
お茶子ちゃんと3人で、拳と拳をぶつけ合った。
かたぎ…?って何?
開始同時に、お茶子ちゃんは爆豪くんへ向かって突撃した。
しかし相手は爆豪くん、一筋縄ではいかない。躊躇なく爆破して、お茶子ちゃんを迎撃した。
そのまま何度も姿勢を低くした突撃を繰り返すお茶子ちゃん。そのたびに爆豪くんは爆破を繰り返す。
だんだん、会場の空気が変わっていく。
ざわめきが、さざ波のように広がっていく。
ん…?私は首をかしげた。
その時、観客席の一部から声が上がった。
遊んでる…?あの爆豪くんが?
そうは見えないけどなぁ…?
相澤先生だ。
今まで積極的には実況をしてこなかった相澤先生が、マイク先生からマイクを奪って喋っている。
相澤先生が怒ってる。
捕縛布の練習の時に私が失敗してもあそこまで怒らなかったのに。
シンと静まり返った会場。
そこに、お茶子ちゃんの声が通った。
ぴと、と両手の指を合わせるお茶子ちゃん。
個性解除の仕草だ。
何にかけていた個性かって?それはもちろん……
爆破によって砕けた地面の破片だ。
お茶子ちゃんは爆豪くんの爆破で砕かれた地面、その瓦礫一つ一つに無重力をかけていたのだ。
気づかれないように絶え間ない低姿勢の突進で視線を下に固定し続けた。
現場の物を利用した立ち回り、よくよく考えられた策…その場しのぎの考えなしじゃない。どう戦うか考えていたんだろう。
さすがの爆豪くんも一発爆破、というわけにはいかないだろう。どうやって対処するんだろう。
そう思っていたら。
BOOM!!
爆音が響いた。
なんと爆豪くんは空から降り注いだ瓦礫を一発爆破で対処してみせた。
…マジかぁ…さすがと言うかなんと言うか。
感心しつつもやはり爆音と揺れ、2要素が揃えばトラウマが襲ってくる。
上がっていく心拍を落ち着かせようと、服の裾を掴んだ。
すぅ、はぁ、と深呼吸を繰り返す。
地雷原の時ほど酷くなくて、それほど時間をかけず落ち着きを取り戻す。
ステージ上のお茶子ちゃんは会心の一撃を撃破されてなお、立ち向かうのを選んだ。
ボロボロの体で走り出したその時──
力尽きたように倒れてしまった。
…キャパオーバーだ。
負けてしまった。
お茶子ちゃん…あんなに頑張っていたのに。
引き分けだったらしい切島くん対鉄哲くんの勝者は切島くんになった。手がめり込んでて痛そうだった。
それからほどなくして、爆豪くんが帰ってきた。
おお、通常運転。
爆豪くんは私の隣の椅子にドカッ!っと座った。
むっ、私が虚弱だからって。
そこに、お茶子ちゃんが帰ってきた。
そう言うお茶子ちゃんの目は酷く腫れていた。
…何があったの!?
え、目潰しなんてされてたっけ?
吹っ切れたような顔で笑うお茶子ちゃん。
あぁ、頑張ったんだなって思って。
強いなって思った。
私は思わず、彼女の目元に手をやって、まぶたを押さえて唱えていた。
ふわりと緑色の光がお茶子ちゃんの目を包む。
光が収まった時、彼女の目の腫れは引いていた。
お茶子ちゃんは一瞬だけ目を見開いて、それから安心したような、喜ぶような、いつも通りの笑みを浮かべてくれた。
私は席に戻った。
次の試合は緑谷くん対轟くん。
轟くんは強かった。私が初めてのヒーロー基礎学で負けたけど勝てたのは梅雨ちゃんのおかげと、個性を使ったゴリ押しの賜物だ。
一番最初に瀬呂くん戦で見せた大氷結を使ってくるとしたら、あれをどうにかしないと勝ち目はほぼないだろう。
緑谷くんは、どうするんだろう。
始まった瞬間、轟くんの大氷結が放たれ──
緑谷くんのデコピンで消し飛んだ。
個性把握テストの時と、同じ症状…!
緑谷くんの、自滅覚悟の大技だ。
緑谷くんが轟くんの氷を砕くたび、冷気が会場に満ちていく。
…寒い。
あ、切島くん帰ってきた。
切島くんの次の相手は爆豪くんか。
もの凄い顔で物騒なことを言う爆豪くん。
やっぱりあの爆破は無理してたんじゃん……
轟くんは緑谷くんに接近して攻撃を続ける。心なしか私の時より強いような…
轟くんは知ってるんだ。緑谷くんのあの威力の攻撃が、自壊を伴うものだと言うことを。だから近づける。
このままじゃ緑谷くんは負けてしまう。
爆風。
緑谷くんが、ボロボロになった指で攻撃したのだ。
ゴキャ、グチッ…およそ人の手が出すものじゃない音を立てながら、緑谷くんは拳を握った。
ボロボロの拳を握って、彼はそれでも叫んだ。
憎しみと、悲しみに覆われた、彼の心の奥に届けと言うように。
痛みに顔を歪めても。動かない体をおして轟くんを説得しようとする姿は、誰よりヒーローのようだった。
イラつく、と緑谷くんの言葉を一蹴した轟くんは再び緑谷くんに接近。
その動きは、明らかに遅くなっていた。
そしてその隙をつくように、緑谷くんは轟くんに1発入れてみせた。
ふと、盗み聞きした緑谷くんと轟くんの会話が脳裏をよぎった。
「彼のようになりたい」
「その為には1番になるくらい強くならなきゃいけない」
緑谷くんはその想いだけでここまできたんだ。ここまでやっているんだ。
緑谷くんの言葉が届く。
轟くんの抱えた重いわだかまりに触れる。
その様子が見えた気がした。
熱が噴き出す。
轟くんがついに左側を使ったのだ。
突如エンデヴァーが叫んだ。激励…?
再び構える2人。
もう緑谷くんの継戦は無理だ。そう思うのに、なぜか、
ワクワクしてる自分がいる。
ドォォオオオオオンンン……!!
爆音、閃光、そして爆発。
2人の攻撃がぶつかり合って、爆風が巻き起こった。
思わず飛ばされてしまうんじゃないかと思うほどの爆風だった。
揺れがないのでトラウマ接触はセーフ。
あ、水蒸気爆発でしたか。なるほど。
その時、煙が晴れた。
壁に叩きつけられ、場外になった緑谷くんの姿が現れた。
会場の誰もが、息を呑んだ。
一瞬遅れて歓声が湧き起こる。
あれだけ粘り、轟くんに言葉をかけていた緑谷くんが場外負け。
私は思わず止めていた息を思い出したように吐いた。
ステージが大崩壊したため、補修の為にしばらく休憩時間だとアナウンスで告げられた。
それを聞くや否やお茶子ちゃんは立ち上がって観客席から飛び出していった。
私と三奈は、先に行ってしまった4人を追いかけるように席を立った。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。